第二十三話「買い物」
夕飯が終わり、片づけられたテーブルの上にはドーナツとイチゴが並べられていた。
俺は、イチゴを一つ取り口に放り込む。
味は……まぁ普通だ。
「あ、お風呂の事言ってなかった!」
「えっと、お湯は19時から22時までしか出ないからお風呂はその間に入ってね!」
「一応、男女は時間別に分かれてるんだけど、アレンさんとケイちゃんしかいないから好きに入っちゃっていいですよ!」
「私は隙を見て入っちゃうので!」
「場所はそこを出てすぐ、階段の下の廊下を進んだ所ね!」
ヒナコはドーナツ片手に慌てて説明する。
時計を確認すると6時40分頃を差していた。
「……ここら辺のお店っていつぐらいに閉まるの?」
「歯ブラシとかタオルとか買いに行きたいんだけど」
俺は足りないものをふと思い出し、立ち上がった。
「んー、大体10時頃には閉まっちゃうかな」
「買い物するなら、ここを出て左にずっと真っすぐ行った所に[GROCERIES]って大きく書いてあるところで買えるよ」
「一緒に行こうか?」
ヒナコは説明しながら立ち上がる。
「ううん、大丈夫」
俺はそう言い残しダイニングを後にする。
ケイはエプロンを着けたままイチゴを片手にテレビに夢中になっていたので、ほっといても大丈夫だろう。
「あ、バスタオルは貸してあげるから買わなくていいよ!」
「それと甦人の登録証持って行ってね!」
「たぶん割引になるから!」
俺がダイニングの引き戸を閉めようとするとヒナコが大きな声で教えてくれる。
俺は風呂場に続く薄暗い廊下をチラッと確認してから階段を上り部屋に戻った。
スーツを羽織り、ポケットに登録証が入っていることを確認する。
そして、机の上に置いてあったお金の入った袋を取り、部屋を後にした。
階段を降り、玄関で靴を履かずにダイニングに向かう。
ガラガラガラ
「ドーナツ残しといてね」
俺は引き戸に手をかけながら二人に念を押しておく。
あと二つぐらいは食べたい……
「わかってるって!」
ヒナコは返事をしたが、ケイは返事をせずテレビから目を離さない。
「……」
俺は二人を信じて部屋を後にした。
玄関で靴を履き外に出ると、ヒナコに言われた通り左に進む。
この通りは大通りから2本外れているので、夜になると少しだけ不安になる。
昼間と比べて人通りはかなり減り、街灯に照らされた公衆電話が目立っていた。
しばらく歩くと[GROCERIES]と大きく書かれた看板を見つけた。
店内はコンビニほどの大きさで食料品が多く売られている。
「傘……まだいいか」
「とりあえず歯ブラシ2つと、歯磨き粉……タオルも一応2つ買っておくか」
「歯ブラシはどこに置こう……少し高いけど歯ブラシ置き買うか……」
「ティッシュは2つで1セットか……まぁいい」
「水……2Lの方が安いか……でも500mlを2つの方が良いよな……」
「お菓子は絶対いらない」
「……とりあえずこんなもんかな」
「かご使えば良かった」
俺はぶつぶつと独り言を呟きながら商品を選び、それを両手で抱え込みんでレジに進んだ。
ティッシュが一番高く、12ギニーもした事もそうだが、レジの機械があるのには驚いた。
グシャ、ピッ……グシャ、ピッ……ガシャ、ピッ……
「……82ギニー」
不愛想な店員が威圧的に金額を提示する。
俺はすかさず登録証を内ポケットから取り出した。
「……チッ、57ギニーだ」
俺は財布から60ギニーを素早く取りだし、お釣りを[LEAVE-A-GUINEY,TAKE-A-GUINEY]と書いてあるプラスチック製のトレイにそっと置くと、商品の入った紙袋を受け取り、素早く店を出た。
ちょっと怖かった……
今度からは最初に登録証を呈示しよう。
小さな街灯に照らされた薄暗い静かな道をコツコツと不協和音を鳴らしながら歩く。
「……何やってるんだろう」
俺は少し遠回りをしてアパートに戻った。
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