第十七話「九条 雛子」

 外に出て辺りを見渡すと、既に町は壁の影に覆われかけていた。

 しかし街道には灯がつき昼間とは全く違う姿を見せている。


 地図を確認するとアパートは城下町の北側にあるようだ。


 振り返りレゼンタックの時計塔を見ると針は4時を指してた。



 俺はケイの手を引いて、急いで宿に向かった。




 しばらく歩くと2階建ての建物の前に着いた。

 地図はこの場所を示している……


 見た目は周りとあまり変わらないが、入り口の軒が少し出ていてそこにランプが吊り下げられている。


「ふぅ……」


 俺は持ち手のないドアを前進しながら押した。


 ガシャンッ


 開かない。


 危うく、顔をドアにぶつけるところだった。


 ……この感覚、前にもあった気がする。


「なにやってるの?」

 

 ケイは俺の懐から手を伸ばし、ドアを左にスライドさせた。


「あぁ……」


 どうやら引き戸だったらしい。

 煉瓦造りに引き戸なんて意地悪な造りだ。


 俺はケイが少し開けたドアを、勢いよく全開まで開けた。



「こんばんはー」


 挨拶をしながら恐る恐る中に入る。


 ドアの先には廊下があり、すぐ右側に階段、少し廊下を進んだ所に引き戸があった。


「あぁ!お二人がアレンさんとケイさんですか?」


 そう言いながら奥の引き戸から、同い年ぐらいのエプロンをつけた女の子が出てきた。


「あ、はい、そうです」


 久しぶりの女の子に少し緊張しながらも、俺は靴を脱ぐために段差に腰を掛ける。 

 俺の目の前でケイは不思議そうな顔をしたまま立ち尽くしていた。


「あ!やっぱり日本人の方なんですね!」

「アメリアさんの言う通りでした!」


 背後からはしゃぐ声が聞こえる。


 なぜ分かったのか不思議に思ったが、理由は明らかだった。


「靴、脱ぐの?」


 ケイは俺のスーツの裾を引っ張りながら首を傾げる。


「……ケイちゃんは……日本人じゃないのかな?」

「あ!ケイちゃんも靴脱いで上がってね!」


 女の子は戸惑った様子を見せたが、ケイに慌てて説明をした。


「母親が日本人だそうですよ」


 俺は一足早く靴を脱ぎ終わったので、立ち上がる。

 振り向くと思ったより近くに女の子がいたので少し驚いた。


 前世では浪人していたので、なんだかんだ同い年の女の子に面と向かうのは一年ぶりだろうか。


 とはいえ、アメリアさんの破壊力に慣れてしまったからか、緊張もあまりせずに少し懐かしさを感じる。



「あ!申し遅れました、私このアパートの管理人をしていますクジョウ ヒナコ(九条 雛子)です!」

「ヒナコちゃんって呼んでね!」


 首から下げた雑な作りの名札を見せながら自己紹介をする女の子の顔は真っ赤に染まっていた。

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