第十六話「土方 慧」

「12歳だよ?」


 ケイは少し戸惑っている様子だが、俺の頭の中も軽いパニック状態になっている。


 つい先程の講習の中で、確かセントエクリーガでは満13歳から成人扱いと聞いたばかりだ。


「ふぅ……それで、いつ誕生日?」


 俺は一度深呼吸をして落ち着き、ケイに笑顔を向ける。


「冬」


 ケイは二文字で答えた。


 俺は一瞬、怒りに似た感情があふれ出しそうになったが、もう一度深呼吸をして落ち着く。


 こっちは正確な日付が聞きたいのに、季節で答えるなんて訳が分からない。


「住民票に正確な日付が書いてあると思いますよ」


 受付のお兄さんが気を利かせて助け舟を出してくれた。


 その言葉を聞き、ケイはリュックから住民票の入ったファイルを取り出す。

 俺はそのファイルを俺は取り上げ、ケイの住民表を確認した


 [土方 慧 2月14日生]と書かれてある。


 今日は4月15日だ。

 散々書類に書いたので覚えている。


「ケイはメイドの職業を持っているんですけど、どうにかなりませんか?」


 ケイは俺の隣で何度も大きく頷いている。


 ケイを一人にして仕事に行くよりも、ケイにも仕事をさせた方がまだマシだろう。


「メイドですか……」

「それを証明できるものがないとなんとも言えませんね」


 お兄さんはこめかみに指先をあてて考え込んでいる。


「ほんとにメイドだよ!」

「小さいころに診てもらったもん!」


 ケイは不服そうにほほを膨らませ、見上げる形で抗議を試みている。


「……わかりました!私で決めることは出来ないので一旦上司に相談してみます!」

「今日はもう遅いので、とりあえず二人とも住民票を、アレンさんは登録証も一応出してください」


 お兄さんの顔は曇ったままだったが、俺は一旦言われる通り書類を提出した。


「それでは、コピーを取ってくるので少々お待ちください」


 そう言うと、お兄さんは窓口から離れる。



「……ケイって日本人なの?」


 俺は先程の住民票を見て思った疑問を率直にぶつける。


 両親は既に他界しているのを知っているので一瞬迷ったが、聞かずにはいられなかった。


「お母さんは日本人だよ?」

「言ってなかったっけ?」


 ケイは首を傾げて答える。


「……お父さんじゃなくて?」


 苗字が日本語なのでてっきり父親かと思った。


「お父さんはオムおじちゃんの子供だから違うよ?」


 俺は一瞬ケイの地雷を踏んだかと思ったが、顔はいつも通りだったので安心した。


 オムさんは東アジアの血を引いていると思うが、国までは分からない。



 そうこうしているうちに、お兄さんが書類を片手に戻ってくる。


「とりあえず住民票を返しますね」

「それと、この地図にアメリアさんに手配してもらったアパートの場所を書いておきました」

「ここからは少し遠いところになってしまうのですが、その代わりにアメリアさんがグレードの高い部屋を用意してくれたので、快適だとおもいますよ」

「明日はレベル測定と適正試験、それと簡単な講習を行うので9時半までに総合受付までお越しください」

「明日は12時前には終わる予定です」

「それでは、今日一日お疲れ様でした」


 お兄さんが満面の笑みで頭を下げてくれる。


「ほんと、いろいろありがとうございました」

「アメリアさんにも伝えといてください」


「ありがと!」


 俺は軽くお辞儀をしながらお礼を言い、ケイの手を引いて騒々しい入り口付近をかき分け建物を後にした。

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