第二十話「ラッキーセブン」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
俺は鎌を下ろしカイの方に振り返る。
やっと終わった……
「やっとか……」
「おし、帰るぞ」
カイはだるそうに立ち上がり、ウォロ村に向かって川沿いを歩き始めた。
俺は息を整えながらカイの尻を追いかける。
いつの間にか、もう日は暮れかかっていた。
「そういえば、気になってたんだけど……」
「村から離れても平気なの?」
呼吸も落ち着いてきたので、ウォロ村にきたときから気になっていた事をカイに質問した。
「俺には<特能>があるから平気だ」
カイは振り返ってまでは答えてはくれない。
「……どんな<特能>?」
昨日の夜に確認したが<守護者>はたしか防御系の<特能>が多かった気がする。
「<護衛索敵>だ」
「護衛対象に向けられた敵意を感知できる」
「今の俺のレベルなら半径100mぐらいまでだな」
「ふーん……」
「ちなみに護衛対象って誰?」
俺がニヤニヤしていると、カイの足が止まった。
「……誰だっていいだろ」
カイは小声で答えると再び歩き出す。
「ケイ?」
「ケイでしょ?」
「さっすがお兄ちゃん」
しばらくおちょくっていたが、俺が何を聞いてもカイの返事なかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「……冗談だって」
カイが村の門に寄り掛かっている前で俺は膝に手をついている。
さすがに俺がおちょくっていたのがムカついたのか、カイの奴、急にペースを上げやがった。
「ちょっと待ってろ」
俺が息を整えているとカイは村の中に入っていった。
……どこか初日を思い出す。
しばらくすると、カイはボロい紐のような物を持ってきた。
「明日はこれを靴に巻いとけ」
カイは俺に紐を突きつけ、再び村の入り口の壁に寄り掛かかる。
俺は少しカッコつけてるカイの姿を横目に村の中に入った。
日はもうとっくに暮れている。
家に帰ると既に夜ご飯が準備されていた。
俺は重い腰を下ろすと、そそくさと食事を口の中に頬張る。
「さてと……」
俺は空の器を端に寄せる。
「アクティベイト」
スキルボードが表示される。
SPは77ポイント貯まっていた。
「おぉ、ラッキーセブン」
……らしくもなく、くだらない事を言ってしまった。
それにしても、これだけのポイントが一気に入ると違うスキルに目移りしてしまう。
特に武器スキルの<刀>が俺の心を強く揺さぶる。
「ん゛ん……」
俺は下唇を噛みながら今振っている<職業スキル>に50ポイントを振り、残り27ポイントの内、10ポイントを<AGI>に振った。
「ステイ」
スキルボードを眺め終わると、寝床に横になる。
いくら夜が更けようと、高鳴る鼓動はなかなか収まらなかった。
「……ん?」
「俺、今日77体も倒したっけ?」
「必死だったからちゃんと覚えてないな……」
「おきて!おきて!」
今日も朝がきた。
俺はケイにしばらく一緒に遊びにいけないことを伝えると、いつものように朝ごはんを済ませ、家を出た。
気分が良いといつもより風が心地いい。
それに昨日あまり眠れなかった分、今日は熟睡できた気がする。
村の入り口にはカイが立っている。
ケイと遊びに行くときには気づかなかったが、あの大剣が置物のように村の壁に立て掛けられていた。
俺はカイに向かって軽く手を挙げ、スキップをしながら川沿いを上っていく。
昨日よりの数段と身体が軽い。
鼻歌を歌っているとあっという間にスライムたちが見えてきた。
「さて、実験だ」
俺は石を投げることなくスライムに近づき、まず最初にスライムに背を向けて走ってみる。
ビタンッ
俺は砂利に足を滑らせ、顔面から転んだ。
手で防ごうと思ったが一瞬、間に合わなかった。
……鼻血は出ていない。
「イってぇ……」
誰も見てなくて良かった……
まぁいい、今日は気分が良いからな。
俺はゆっくりと立ち上がり再びスライムたちに近づくと、今度はバックステップをする。
ガコッ
再び砂利に足を滑らせ、今度は後頭部から転んだ。
俺は頭を押さえ、その場でうずくまる。
痛すぎて息ができない。
少し落ち着いてきたところで俺はゆっくりと立ち上がる。
俺はその後もしばらくスライムの周りを転げ回った。
「ふぅー、これでひとまず安心かな……」
俺は身体に着いた汚れを軽く払う。
「ふんふっふふーん」
俺は鼻歌交じりにスキップをしながらウォロ村まで帰った。
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