第十九話「毛むくじゃらコウモリ」

「イってぇ」


 俺は両手で頭を抱えながらうずくまる。

 ゴツゴツした岩にもろに頭を打ってしまった。


 腰に差した赤い花に手で触れると花びらが一枚、散った。



 バサバサッ  バサバサッ  バサバサバサバサ


 俺がうずくまっている間にも、何かが羽ばたく音が徐々に増えていく。


「なにやってんだ」


 カイが俺に左手を差し伸べてくれる。

 右手には既に鞘から抜かれた大剣が握られていた。


 俺はカイの手を右手で強く握り、体重を預けながら立ち上がる。


「カテラは上下左右に動き回るが、動き自体は速くない」

「集中しろ」


 カイは俺から手を離し、洞窟の天井に向かって大剣を両手で構えた。


 どうやら頭上で羽ばたいているモンスターはカテラというらしい。


「わかった、ありがとう」


 俺はカイに続いて鎌を構えようとする。


「あれ?」


 右手で持っていた鎌がない……


 慌てて辺りを見渡すと足元に落ちていのをすぐに見つけることができた。


 俺は急いで鎌を拾おうと、膝を曲げずに手を伸ばす。


 ズシュンッ 


 ボトッ


 頭上で何かが裂けるような音がすると、毛むくじゃらの物体が二つ、目の前に落ちた。

 よく見ると、コウモリのような形をしている。


 カイがこいつを真っ二つに切ったのだろう。


 俺は素早く立ち上がり、頭上に向かって鎌を構える。

 数匹のコウモリが俺の周りを飛んでいる。


 カイは俺が戦いやすいように暗いところまで離れてくれたようだ。



「イったっ」


 上を向いているとふくらはぎに鋭い痛みが走った。


 俺は焦って足を振り回す。

 花に手を添えると、花びらがまた一枚散った。


 どうやら噛まれたようだ。

 思ったより低空でも飛行できるらしい。


「集中、集中、集中」


 小声で何度も自分に言い聞かせる。


 いざとなったらカイに助けてもらえばいい。


 俺はカテラに向かって大きく振りかぶった鎌を振り下ろした。


 ヒュン 


 ヒュン 


 ブンッ


 さっきと違い、思ったように鎌が振れず、俺が振り下ろした鎌をカテラはひらりと躱していく。


「集中、集中、集中」


 俺はひたすら鎌を振り続ける。



「イってぇ」


 今度は左腕とうなじを噛まれた。

 花びらがもう2枚散る。



「強く握りすぎだ!」

「もっと力抜け!」


 暗闇からカイのアドバイスが聞こえる。

 俺は言われた通り鎌を握る力を少し緩め、カテラに向かって鎌を振った。


 どうやら、カイはこちらが見えているようだ。



 ズシャッ


 俺の振り下ろした鎌はカテラの胴体を切り裂く。


 あまりにも簡単に当たったので少し驚いた。

 それにこの鎌の切れ味が凄い。


 ……これからカイの事を師匠と呼ぼう。



 俺は羽音が聞こえなくなるまでカテラを倒し続けた。




「はぁ……はぁ……はぁ……」


 俺が膝に手をついて息を切らしているとカイが暗闇から姿を現した。

 カイは既に大剣を鞘に収め、背中に背負っている。


 さすがに疲れた。

 もう手が上がらない。


「はぁ……はぁ……」

「そういえば……カイの方から翼の音しなかったけど……」


「ああ、俺は見てただけだからな」


 カイは俺の背中は二回、叩くと来た道に向かって歩きだした。


「はぁ……クソッ」


 前言撤回だ、こんなのが師匠でたまるか。


 俺は重い上半身を何とか起こし、カイの後に続く。



「あ゛あ゛ぁ」


 行きが下り坂ならば、必然と帰りは上り坂だ。

 息を整える暇もなく必死に足を上げるが身体がついていかない。


 ……運動不足だ。



 それでも必死にカイの背中を追いかけていると、徐々に外の光が見えてきた。


 俺は嬉しさからラストスパートをかける。


 外に出るとすぐそこでカイが座っていた。

 そして前の方向に指を差している。

 俺は嫌な予感を感じながら、カイが指差す方向へ目を向けた。


 ……さっきよりは少ないが、リベイロが群がっている。


「あー、ちくしょう……」


 俺は右手に鎌を振りかぶり、リベイロに向かって走った。

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