第十五話「What a day」
俺はケイを村の入り口で降ろし、オムさんの家に向かう。
帰る途中に、一昨日オムさんが洞窟には違うモンスターがいると言っていたことを思い出していた。
俺はオムさんの家のドアを勢いよく開け中に入ったが、オムさんはいない。
「オムさーん」
「アレンか、急にどうした」
今日はワンコールで顔を出してくれた。
「おぉ、あの変な服は脱い……」「この近くにモンスターがいる洞窟があるって言ってたよね?」
「それ、どこにあるの?」
俺は興奮気味にオムさんの言葉を遮る。
「どうした、アレン」
「とりあえずそこに座って落ち着きなさい」
俺はオムさんとに温度差に気づき少し冷静になり、言われた通りのいつもの椅子に座る。
「洞窟にいるモンスターを倒しに行きたいんだけど……」
「倒しに行くのはいいが、一人では危険だ」
「カイと行きなさい」
「……」
「明日、昼飯を食べ終わったらカイを訪ねるといい」
「話はしておく」
「あと、これも持っていきなさい」
オムさんは俺にあの赤い花を差し出した。
意外とすんなり了承してくれた事に少し驚いたが、こちらとしてはありがたい。
「わかった、ありがとう」
俺はうなずいき、オムさんから花を受け取ると、オムさんの家を出た。
家へ帰る足取りはとても重い
家へ着くと、さっそく脳内作戦会議を始める。
まず確定事項としては、明日、洞窟へ行くのは昼過ぎだからとりあえず朝一でスライムを倒しに行こう。
「……うーん」
改めていろいろと思考を巡らせたが、SPの特性として考えられることはおそらく3パターンだ。
最良のパターンはスキルポイントには1日に獲得できる上限があり、それが30ポイントだということ。
悪いパターンはスキルポイントはモンスターごとに獲得できる上限があり、それが50ポイントだということ。
だが、これはまだ許せる。
そして最悪のパターンは金輪際スキルポイントが手に入らない、もしくはスライムが特別なモンスターだった可能性。
こうなるとこの世界で俺は詰む。
「アクティベイト……ステイ、アクティベイト……ステイ」
「……」
「アクティベイト」
「……ステイ」
何度、確認してもスキルポイントは0のままだ。
俺は寝床の上で身体をくの字に曲げて悶えた。
藁が布の隙間から俺の身体に刺さる。
「ご飯だよー!」
少し落ち着いたころ、ケイが俺が着ていたスーツの上に夜ご飯を乗せてやってきた。
悶えているところを見られた気もするが、俺は何もなかったかのように身体を起こす。
ケイは一瞬立ち止まった後、スーツと夜ご飯を置いて、笑いながら走り去っていった。
俺は夜ご飯を手元に引き寄せ、いつも通りのご飯をゆっくりと口に運んだ。
蟻のような速度でご飯を食べながら無造作に置かれたスーツを見てあることを思い出す。
「今日はお風呂の日だ……」
俺は食事を口に運ぶ手を速め、急いで入浴場に向かった。
もう日は暮れていて村の中に人の気配はない。
入浴場の前に着き、ドアを開けようとする。
ガチャガチャ
「……ん?」
ガチャガチャ
開かない……なぜだ?
もう一度ドアを開けようとしたその時、俺のスーツを洗ってくれたおばさんが通りかかった。
「……あの、すみません」
「なんで閉まっているんですか?」
俺は村の雰囲気も相まって少し涙目になる。
もう、嫌な予感しかしない。
「フフッ」
「なんでって、お風呂は朝しかやってないよ」
おばさんはそう言い残し、呆然と立ち尽くす俺を横目に闇に消えていった。
俺は涙を頬に浮かべながら足を引きずって来た道を戻り、家に着くと倒れこむように寝床に寝転がる。
「アクティベイト」
「……ステイ」
何度、見たところで現実は何も変わらない。
「……なんて日だ!」
声に出したら少し元気になった……気がする。
俺はいつもより少し速い心臓の鼓動と、鼻筋に滴る涙の冷たさを感じながら眠りについた。
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