第五話「レベル」

 俺は脳をフル回転させる。

 レベルというものは知っている。元の世界で散々聞いてきた単語だ。

 しかし、俺の指輪で表示できるスキルボードにレベルの表示はない。


「アレンよ、お前は違う世界からきたのか?」


 目の前の男がそう言うと俺の頭はパニックになる。

 俺は昨日の夜に考えていた『俺、記憶喪失なんです』という言い訳を披露することなく、反射的にうなずいてしまった。


 この男、どこまで分かってるんだ?


「そうか、レベルを知らない甦人とは珍しいな」

「ステータスオープン」

「アレンよ、同じように唱えてみろ」


 俺がうなずくと、男の表情が少し和らぎ、続けて聞きなじみのある言葉を教えてくれた。


「……ステータスオープン」


 俺は小声で教えられたとおりの言葉を唱える。


 それ昨日試したんだけどな……


「レベルとステータスの数字が見えるだろう?」


「……見えないです」


 俺は小声で答える。


 男は一瞬驚いた表情をしたがすぐに落ち着いた表情に戻った。


「この世界には時々、甦人が現れる」

「それは珍しいことではない」


 俺はその言葉に少し安心する。


「しかし、自分のレベルが分からないものは甦人を含めてこの世に存在しない」

「この世界では生き物はおろか植物にまでレベルが存在する」

「それ故、アレンにレベル自体がないとは考えづらい」


「……アレンよ、この世界にきてからモンスターに会ったか?」


 俺は首を大きく横に振る。


「そうか」

「ならば昼飯を食べた後、ケイたちと一緒に遊びに行くがよい」

「あと、このことは誰にも言わない方がよいぞ」


 そう言い残すと男は奥の部屋へと姿を消した。

 そして俺はまた一人、取り残された。


 ……ケイって誰だ?


 今まですれ違った村人たちの顔を思い出しながら、俺は立ち上がり扉を開けようとする。


 ゴツンッ


 体重を乗せて開けた扉の向こうから鈍い音がした。


 慌てて扉を閉め、再びゆっくりとドアを開けると鼻を抑えている少女がいる。

 あのチクり娘だ。


「オムおじちゃんとなに話してたの?」


 自己紹介が無かったが、やはりあの男は村長だったようだ。


「昼ご飯たべたらケイたちと遊びに行けってさ」


 俺がそう答える外に出て扉を閉めながら答える。


「やったー!」


 チクり娘が急に喜んだ。

 どうやらこの子の名前がケイというらしい。


「お昼ご飯まだだからお家でくつろいでていいよ!」


 そういうとケイは走り去っていってしまい、あっという間に姿が見えなくなった。


 ……まったく忙しい子だな

 それにしてもなぜケイは鼻をぶつけたんだろう。

 話を聞きたいのなら普通、扉には耳をくっつけるのに……


 そんなことを思いながら俺はゆっくりと家に戻った。

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