第三話「スキル」
3人の少女たちは驚いた顔でこちらを見ている。
森の中でスーツを着ていたら不審者と思われても無理はない。
……通じないか。
俺が川下に向かって逃げようとした瞬間、一人の少女が俺になにか話しかけた。
所々、聞き取れる単語がある。
思った通りこの少女たちの言語は英語だ。
しかし聞き取れない。
なんて言ったって俺は大学受験を数学と物理で受験するほどの英語嫌いで、最後に英語に触れたのは……おそらく4~5年前だ。
少女たちは少し不思議な顔でこちらに話しかけてきている。
しかたないか……
「アイムハングリー、アイハヴノットホーム」
俺は少女の声を大きめの声で遮る。
朝の発声練習しておいて良かった……
少女たちは集まってひそひそと話すと、笑顔で俺の手を引いて川沿いを下った。
その少女たちの手には指輪はついていない。
「絶対人の前で見せたらダメなやつじゃん」
そう俺が日本語で呟いたのに、少女たちはなにも反応することはなく、俺は連れられるがままに小さい歩幅で足を進めた。
10分ほど川を下るとそこには高い木製の柵の壁で囲まれた小さな村が見えてきた。
どうやら少女たちはこの村の出身らしい。
村の入り口の前にくると門番らしき青年に止められた。
なにか話しかけてきているが全く分からない。
「ウェイティングヒアー!」
とりあえず知っている単語を言ってみる。
するとその青年は村の中へと入っていった。
少女たちは既に村の中に入っており俺は村の入り口の前で一人置き去りにされる。
誰も見張っていなくていいのかな?と少しこの村のことが心配になったが俺には好都合だ。
「……アクティベイト」
俺は小声でそう口に出しスキルボードを開くと、大量のスキルの中から<英語>に50ポイント振った。
「ステイ」
スキルボードを閉じ、誰にも見られていない事を確認する。
しばらくしてあの青年が戻ってきた。
「飯と寝床だけなら用意できるぜ」
青年は俺の前に立ち荒い口調でそう言った。
思った通り青年の声がハッキリと認識できる。
「ありがとう」
俺がそう答えると、少し驚いた顔をされたがその青年は空き家のような場所へ案内してくれた。
「ここで寝ろ」
そう言い残して青年はどこかにいってしまう。
……あれ?飯は?
「あなたのご飯もってきたよー」
外に出て青年を置きかけようとすると、かわいい声と共に先ほどの少女の一人がご飯を持ってきてくれた。
最初に俺に話しかけてくれた子だ。
お礼を言おうと思ったがその少女はご飯を俺の目の前に置くと恥ずかしそうに逃げてしまった。
「ふっ、惚れられたかな」
そう呟きながら、俺は持ってきてもらったご飯に手を伸ばした。
焼き魚に山菜、芋のようなものもある。
俺は毒のことなど気にせずにご飯を次々と口に運んだ。
少し味は薄いものの悪くない。
ご飯を食べ終わり、ふと上を見上げると、もう日は沈みかけていることに気づく。
というか天井に大きな穴が開いている。
……雨が降ったら大変そうだ。
よし、やるか!
アクティベイト
俺は心の中でそう唱え、スキルボードを出そうとする。
「……ん?」
なにも起こらない。
「アクティベイト」
今度は小声で唱えてみる。
すると、指輪が光り目の前にスキルボードが現れた。
どうやら口に出さないといけないようだ。
さてと、昼間は見る気になれなかったからな……
そう思う俺の目の前には、数えきれないほどのスキルが表示されていた。
「ふぅ……今日はもう終わり!」
空を見上げるとこの世界にも月や星らしきものがあると分かった。
街灯が無いからか、夜空が綺麗だ。
一通りスキルボードを眺めてみて分かったことがある。
1つ目は、スキルは大きく分けて5+1種類からなること。
<武器スキル><身体スキル><職業スキル><操縦スキル><言語スキル>
そして<スキルの効果を高めるスキル>からなる。
2つ目は、<武器スキル><職業スキル><操縦スキル>はポイントを振ると<特能>を得ることができるということ。
3つ目は、スキルにはそれぞれスキルツリーがあり、ポイントを振ることで成長させることができること。
なので、最初から強い<特能>を得ることは出来なさそうだ。
4つ目はスキルポイントを振れる上限は、言語スキルが50ポイント、それ以外が1000ポイントとなっていること。
以上4つだ。
昼間は言語スキルの中に<英語>があったのをたまたま見つけられてよかった。
指輪に英語で文字が刻まれていたことがヒントもなった。
もしかしたらスキルをとらなくても会話が成立するかと思ったが、この世界は甘くないようだ。
……今日はもう寝よう。
俺は硬い藁の上で横になる。
「最初から強いスキルをとれないなら無双はできないな……」
「家の枕が恋しいな……」
「とりあえず<職業スキル>から振っていくのが無難かな……」
「でも持ってたポイント全部使っちゃったしな……」
「<勇者>と<魔王>ね……」
そんなことを考えている内に自然と眠りについた。
「おきて!おきて!」
昨日の少女の声が聞こえる。
「朝ごはんいらないの?」
俺はその声にはっと目覚める。
身体を起こすとそこにはもう朝ごはんが用意されていた。
この村に、家に存在しない朝ごはんという習慣があることに驚いた。
……せめて口をゆすいでから朝ごはんを食べたいな……
そう思いながらも、なにも文句を言うことなく昨日とほとんど同じものを口に運ぶ。
「お兄さんの名前はなんていうの?」
ご飯を食べていると、昨日と違い少女は俺に質問してきた。
「アレンだよ」
「カッコいい名前だね!」
俺は少しニヤニヤする。
自分の名前でもないのに少し嬉しくなってしまった。
「アレンさんのレベルっていくつ?」
俺の顔を見た少女はすかさず質問を続ける。
「……レベルってなんですか?」
俺は少し間をあけて、苦笑いで聞き返した。
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