『答案はトンネルの先』
テスト期間の電車の中は人が少なくて好きだった。いつまでたっても慣れないような青空の下、電車が進む。もう夏の気配がとんでもなくて、車両のクーラーが気持ちよかった。
夏服になったから少しだけ身軽だった。スカートも少し透ける素材で通気がいい。ブレザーも好きだったけど、やっぱりジャケットは暑かった。スカートをパタパタすることで下に履いてるズボンに溜まった熱を発散した。大丈夫、電車に他に人は乗ってない。
非日常な電車はワクワクする。ただただ私を運ぶためだけに動いてくれる。今日のテストはダメだったなぁ。空白作っちゃったからあいつにバカにされるかもな。
緑が目に眩しい田舎へと私は都会から向かっていく。イヤホンからはロックが流れて、私を元気づける。鳴り響くギターの音、あの無音の空間から開放されたことを実感させる。よし、少しだけは勉強しよう。30分もあれば教科書は軽く読める。覚えられるかは別の話。
日清修好通商条約、征韓論は西郷隆盛と板垣退助。明治六年の政変。蝦夷地に琉球王国。西南戦争は1877年。
区間準急は止まらない。速いのが心地いいと思う時と、電車間違えた?と不安になる時がある。声の高い男性ロックシンガーは私を包む。歴史は苦手だけど、明日もこの時間が過ごせるのなら頑張りたいと思った。
音楽が止まる。
あれ?
スマホを取り出して見るけれど異常はない。車内を見た。人の気配に満たされている。人がぎゅうぎゅう詰めに電車に乗っていた。私のスカートは隣に座った人に踏まれていて、動けない。人々は各々生きているふりをしている。電車は一度も止まってていない。私が乗った時は乗客は私しかいなかった。
息を吸った。
その瞬間、私以外の乗客が私のことを見た。全身が黒い顔もない人間もどきが私を見ている。スマホだけは離さないでいようと思った。私たちを運ぶ電車はトンネルに入っていく。
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