結婚指輪

海鮮かまぼこ

結婚指輪

「すみません、3万円の指輪ってありますか」

ある男は目の前にいるジュエリーショップの店員にそう聞いた。すると、

「恋人ですか?プロポーズ?それともプレゼント、もしくはご友人、それかご自分へ?」

「彼女へのプロポーズです」

少し恥ずかしいような、照れくさいような顔をしながら答えると、店員は笑顔で

「おめでとうございます」

と祝福してくれた後に、真面目な顔になると

「それなら石は何にしますか?ダイヤモンドが定番ですが、プロポーズとなるとパパラチア、パール、ベリル、ペリドット、ラピスラズリ、ローズクォーツ、セレスタイト、シトリン等あります」

わけの分からない石の名前を聞かされてもちんぷんかんぷんな彼は

「え、えっと、石言葉を見せてください」

と、かろうじて言った。すると店員は

「おっと、これは失礼しました」

そう言うと、その店員は石言葉の載っている紙をカウンターの裏から持って来た。彼はそれをじっくり見ると、ダイヤモンドを選んだ。そして3万円で買える大きさを訊ねると、店員は一瞬固まって、

「申し訳ありませんがお客様、3万円ではー、えっと、言いにくいんですが、ダイヤモンドはお求めになれないというか、そのぉ、なんというか…まあ、無理です」

と、言った。

「そ…そんな…結婚指輪は給料3ヶ月分ってこのチラシに書いてあって…」

と、手元のチラシを見せると、

「これ昭和の頃のチラシですね。なんでこの令和の時代にそれ保管してるのかは知らないけど少なくともずっと前の話なんで、今はそんなの通じません。ん?って事は年収が…あ、失礼」

と言われ、今までの貯金を崩して買うことにした。彼女へのプロポーズは妥協したくなかったからだ。

30分後、銀行に預けていた貯金を引き出した彼はジュエリーショップで結婚指輪を購入した。彼は微塵もお金を惜しく思っていなかった。最愛の彼女にダイヤモンドの指輪でプロポーズするのだ。彼の中ではずっと前から待ち侘びたこの日、楽しみよりも拒否されたらどうしよう、という思いの方が強かった。彼の彼女は同棲していて、今日も彼の帰りを待ってくれている。その彼女の待つ家へと急ぎ足で帰ると、彼はサプライズの意味も込めて静かに部屋に入った。そして彼は彼女の正面に跪き、

「俺と、結婚してください!」

と言い切った。しかし彼女は、驚いているのか何も言葉を返してはくれなかった。拒否されたかと思った。しかし、普段から無口な彼女は彼に笑顔を返してくれた。彼女の正面にダイヤモンドの指輪を置くと、男は

「恥ずかしがり屋なんだから」

と言うと、惜しげにドアを閉じた。彼が立ち去った後の部屋には、光の付いたままのパソコンがぽつんとしていて、そこには彼が大好きなアニメのキャラクターが映し出されていた。

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