第二十九話 アミーお姉さんの悩み

「それで、今日ここへ来たのはマモルちゃんのことかしらぁ?♪」


「えっ? どうして分かったの?」



 ある日のこと、アミーお姉さんは守くんの訓練をする合間に

ベルリーナお姉ちゃんの家へ遊びに居てました


 彼女もまた、守くんに協力してくれた女性の一人で、

アミーお姉さんともども「お姉ちゃん」と呼ぶように言われています



「だってアミーちゃん、一人前になってから自分のことでここに来ることは

滅多になくなっちゃったじゃないのぉ、

いつでも遊びに来ていいってずっと前から言ってるのにぃ・・・」


「それは・・・、あんまり頼るのもよくないかなって・・・」


「うう・・・、昔はあんなに頼ってくれてたのに・・・、

お姉ちゃんと遊ぶのに飽きちゃったのぉ・・・?」


「いや、そんなに遊んでいなかったでしょ・・・、

魔法の訓練とかいろいろ教えてもらったり・・・」


「そういえばそうだったわねぇ、それで、マモルちゃんがどうかした?

こっそりお風呂を覗いてくるようになったとか・・・」


「? 一緒に入ってるのにどうやって覗くの?

だいいちマモルくんはまだ子供だし、女の人のお風呂を覗くなんて・・・」


「まぁそうよねぇ♪ あの資格を手にした以上は大人の仲間入りってことだけど、

実際の身体はまだまだ子供だし・・・♪

じゃあ・・・、思ってたよりもずっと早くモンスター退治に慣れてきたから焦ってるとか?♪」


「う・・・、もう、なんでそういうところは鋭いのよ・・・」


「それはもちろん、あなたのお姉ちゃんだからよぉ♪」



 おどけた調子で話し続けていたベルリーナお姉ちゃんの言葉が的を射ていたらしく、

アミーお姉さんが何とも言えない表情を浮かべました


 そのまま少し沈黙していましたが、やがて決心がついたのか

ため息を吐きながら口を開きます



「・・・たぶんだけど、お姉ちゃんの想像してる通りよ、

マモルくんったら、私が教えた魔法はどんどん使えるようになっちゃうし、

攻撃魔法に関してはもう越されちゃったかもしれないわ」


「・・・でしょうねぇ、マモルちゃんのもらった女神様の素質とやらは

恐らく魔法のコントロールをほぼ完ぺきにしてくれるみたいだし」


「だから、近いうちに私が教えられることはなくなっちゃうと思うわ、

戦術面に関しても、近距離主体の私じゃそこまで深いことは教えられないし、

お姉ちゃんの教えた基本だけで充分でしょうから」


「それで・・・、力になってあげられないって考えちゃったのぉ?」



 ベルリーナお姉ちゃんの発言がまたもや的確だったのか、

アミーお姉さんは何も言わず静かに頷きました


 そんな彼女に優しい笑顔を向けながら、お姉ちゃんは言葉を続けます



「それは違うわよぉ、アミーちゃん♪ マモルちゃんはあなたが思ってる以上に

あなたのことを信頼しているの♪ モンスター退治が上手くなってるのは、

あなたが一緒にいてくれるからよぉ♪」


「う~ん・・・、あまりそうは思えないけれど・・・、

正直言って、あれだけの力があるならもう私がいなくても・・・」


「そこよ、どれだけ強くなろうと、

あなたが言った通りマモルちゃんはまだ子供じゃない、

いざというとき一人で戦うのはやっぱり難しいわ」


「それは・・・、確かに、そうかもしれないわね・・・」


「だからこそ、あなたも心配でお仕事の日をずっと合わせてたんでしょう?

いくら強くなっても、危ないことは確かなんだから」


「そうだったわ・・・、私ったら、大切なことを忘れていたのかも・・・、

お姉ちゃん、ありがとう・・・♪」



 ベルリーナお姉ちゃんの言葉で元気が出たらしく、

アミーお姉さんの顔に笑顔が戻ります


 その様子に微笑みを浮かべながら、

お姉ちゃんが再び口を開きました



「ふふ、どうやら大事なことを思い出せたようね♪

だけど、前にも言った通り過保護なことも確かよぉ?

マモルちゃんだって、いずれは一人でモンスターと戦う日が来るんだから」


「うっ・・・、それはそうだけど、マモルくんはまだ6階級で付き添いが必要だし、

5階級に上がる時までは、側にいてあげてもいいかなぁ、って・・・」


「まあ、そこまでは仕方ないかもしれないけれど、

階級が上がった時はちゃんと考えなさいよぉ?

いざというときにその準備ができてないと、困るのはマモルちゃんなんだから」


「そうね・・・、あの子が本当に一人前になった時のことを考えたら、

私がいなくても戦えるようにならないと危ないわね・・・」


「だけど、その時になってすぐお姉ちゃん離れというのは難しいでしょうから、

今の内から試しに他の人と一緒にお仕事させてみたらどう?

あなた以外の人と組む機会もいつか訪れるはずだし、練習させておいて損はないわよぉ?」


「確かにそうね・・・、でもマモルくんと組んでくれて、

ちゃんと指導もしてくれる人なんて都合よくいるのかしら?」


「それは・・・、ちょっと難しいかもしれないけど何とかなるでしょう、

他の人に着いて行くだけでも少しは違うはずよぉ」


「まあ、そうかもしれないけど・・・」


「あと、マモルちゃんがいない間はまた私が特訓してあげてもいいわよぉ?♪

どうせいいところばっかり見せたくて、一緒にいる間は自分の訓練なんてしてないんでしょう?♪」


「う・・・、もう、全部お見通しなんだから・・・、

そうね・・・、やっぱりもうちょっとだけ

力になってあげられる時間を多くしたいかな・・・」


「決まりねぇ♪ それじゃ、私はいつでも空いてるから、

気が向いたらいらっしゃぁい♪」


「ありがと、お姉ちゃん・・・♪ それじゃ、私はそろそろ帰るわね」


「あ、晩御飯なら用意してあげ・・・」


「いいわ、マモルくんが待ってるし、出てくるのプレーン味だもん・・・」


「うう・・・、昔はあんなにおいしそうに食べてたのに・・・」


「あんなに食べさせられたから飽きたのよ・・・、それじゃあまたね」



 距離感の近いやり取りを終えた後、アミーお姉さんは

ベルリーナお姉ちゃんの大きな屋敷から自宅へ戻ります


 家の扉を開けたところで、帰りを待っていたのでしょうか

マモルくんが出迎えをしました



「お姉さん、お帰りなさい♪」


「マモルくん、ただいま♪ 待たせちゃったわね♪

すぐご飯にするから行きましょう♪」


「はい♪」



 こうしていつものように食事をし、団らんする二人


 いつもならそのままお風呂へ行くところですが、

アミーお姉さんが恐る恐る話を切り出します



「ねえマモルくん、ちょっといい?」


「はい、なんですか?」


「明日もまた見回りのお仕事をする予定だったでしょう?

あれ・・・、私じゃなくて、別の人とやってみない?」


「別の人・・・? それってベルリーナお姉ちゃんと、ですか?」


「ううん、そうじゃないの、・・・えっと、説明したことはあったかしら、

まだ資格を手に入れたばかりのマモルくんは付き添いの人と一緒じゃないとお仕事できないけど、

一人前になった人も、マモルくんみたいな人を指導する義務があるの」


「えっと・・・、だから僕みたいな初心者と一緒に何回かお仕事しないといけない、

って聞いたような気がします・・・」


「そうよ、だからね、本部にラウンジがあったでしょう?

あそこでは休憩してる人もいれば、誰か一緒にお仕事する人を

探している人もいるのよ」


「つまり・・・、その人たちに声をかけてご一緒させてもらえばいいんですか?」


「そういうこと、ノルマが終わってない人、普通にお勉強させてくれる人も

何人かはいるはずだから、何回か私抜きでやれないかな?」


「ええと・・・、う~ん・・・、わかりました、なんとかやってみます」



 守くんは突然の話に戸惑い、考える様子を見せていたものの、

最終的にはそれを了承しました


 アミーお姉さんがいないお仕事に不安もあったのでしょうが、

ほかならぬアミーお姉さんの提案というのも許諾した要因になったのかもしれません



「うん、急な話でごめんね? でも、多分マモルくんだったら

一緒に来てくれる人もいるはずよ、それに・・・」


「なんでしょうか?」


「・・・ううん、なんでもないわ、とりあえず明日、

誰か良さそうな人を見つけて一緒にお仕事してみてね」


「はい、頑張ってみます♪」



 そのまま会話は終わり、いつもと同じく二人は一緒にお風呂へ入ります


 とうぜんですが、守くんはいつまでたっても

お姉さんと一緒の入浴に慣れてはいませんでした


 ドキドキして何も考えられない中、

そんな彼の背中を擦りつつアミーお姉さんは考え事をしています



(さっき、私の実力じゃいつまでも一緒にお仕事はできないかもしれない、

って言いそうになっちゃたわね・・・)


(今からそんな弱気になってどうするの・・・!

明日からまたあの時みたいにベルお姉ちゃんに特訓してもらうんだから・・・!)


(どこまでいけるか分からないけど、精一杯やってみましょう、

それに・・・、先輩としては、ついこの間

資格を取ったばかりのマモルくんにあっさり負けたくないものね♪)



 心の中でそんな風に決意をしながら、

アミーお姉さんは手を動かし続けます


 ところが、手元への注意がおろそかになっていたせいか

うっかり手を滑らせ、守くんの方へ倒れ込んでしまいました


 なんとか彼にもたれかかって事なきを得るものの、

後ろから抱き着かれた形になったことで、守くんの背中に

とてもおおきなお胸が押し付けられてしまいます


 お姉さんとの入浴という興奮が抑えきれない状態に加えて

刺激の強い感触まで覚えた彼は、大量の鼻血を出して気を失いました


 のぼせてしまったと思ったお姉さんは、

慌てて守くんをお風呂から連れ出します


 恐らく守くんはどうやってもお姉さんには、その色香には勝てないのでしょうが

まだ彼女はそれを知る由もありません・・・


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