第十二話 守くんの魔法と女神様の素質

「さて、と・・・、今日の訓練はここでやりましょうか、

ちょうど、あちこちに小さなモンスターがいるみたいだし」


「も、モンスターがいるんですか? いったいどこに・・・」


「そっか、あなたは気配を探知する魔法も使えないのよねぇ、

だとするとちょっと危ないかしら・・・、

ま、最初は私がなんとかしましょうか♪」



 守くんはベルリーナさんに連れられ、

広い草原と遠くに森が見える場所にいました


 ただ、ここにいるのは二人だけで、

アミーお姉さんの姿はどこにも見当たりません


 それはどうしてなのか、ここへ来る前に

ベルリーナさんのお部屋であったやり取りを見てみましょう



「それじゃあお姉ちゃん、悪いけど、マモルくんのことをお願いね」


「あら、アミーちゃんは行かないの?」


「えっ? お姉さんは一緒に来てくれないんですか?」


「あはは、行きたいのはやまやまなんだけど・・・、

ほら、あなたに必要なものを買わないといけないでしょう?

明日はまた試験の準備に駆り出されるから、今日の内に買っとこうと思って」



 出発しようと意気込んだところで、

お姉さんは当初の予定通り買い物をすると言います


 自分のためには必要なことであるうえ、

本来であれば同行すべきことでもあり

守くんは全て任せてしまうことが少し申し訳なくなりました



「あ・・・、そうでした、すみません、僕のために・・・」


「もう、すみませんなんて言わなくていいの♪

それよりマモルくん、お姉ちゃんの言うことをしっかり聞いて頑張ってね?♪」


「はい、頑張ります・・・!」


「そういえば、マモルちゃんは昨日いきなりこの世界へ来たっていってたかしら・・・、

ともかくアミーちゃんは来ないのね? 残念だわ、

久しぶりにあなたの訓練もしてあげようと思ったのにぃ♪」


「あはは・・・、それはまたの機会・・・ね?

あ、マモルくん、帰りはここまで迎えに来てあげるから♪」


「はい」


「あ、そうだお姉ちゃん・・・」


「あら、何かしら?」



 部屋を出ようとしていたお姉さんですが、

その前にベルリーナさんへ耳打ちします


 何を話しているのかちょっと気になる守くんでしたが、

もちろん内容が聞こえてくるはずありません


 気持ちを切り替え、女神様との約束を守るためにも

頑張って特訓しようと気を引き締めました


 そして時間は再び最初に戻ります・・・



「さて、じゃあ始める前にいくつか聞いておくことがあるわ・・・、

大事なことだからぁ、きちんと答えてちょうだい?」


「は、はい、なんでしょう・・・?」


「あなたに関すること・・・、聞いていたと思うけど、

アミーちゃんが話していた通りで間違いないのね?」


「はい・・・」


「それで・・・、モンスターとの闘い方も、その生態も、資格の試験に関しても

アミーちゃんには教えてもらっていないということかしらぁ?」


「は、はい、よろしくお願いします・・・」


「それで・・・、武器も持ってないみたいだけど、

あの子みたいには戦えないのねぇ?」


「えっと、アミーお姉さんみたいには、無理です・・・」


「となると・・・、魔法だけを使って遠くから戦う、

そういう戦い方をするって考えていいのかしらぁ?」


「はい、そのつもりです」


「じゃあ、どんな魔法を使ったことがあるのぉ?」


「えっと・・・、お姉さんが使ってた・・・、

氷? みたいなものが飛び出すやつを・・・、それだけです」


「ふぅん・・・、となると本当に一から教えてあげないとねぇ・・・」



 戦い方に関することをいくつも尋ね、ベルリーナさんは少し考えます


 そして何か決まったのか、もう一度守くんに向き直りました



「それじゃあまず簡単なレクチャーから始めましょうか、

最初はあなたがするべき戦い方について」


「は、はい・・・」


「まず第一に、傷を治す魔法も使えないあなたは

絶対に怪我しちゃだめよぉ? モンスターの中には厄介な能力を持つものも

いっぱいいるんだから」


「わ、分かりました・・・」


「じゃあ怪我しないためにはぁ、具体的にどうしたらいいと思う?」


「えっ? えぇっと・・・、う~ん・・・、その・・・、遠くから戦ったり・・・、ですか?」


「そうねぇ、正解よ♪ 相手が攻撃できない場所で戦う、

怪我しないためには絶対こうしなさい」


「はい・・・!」


「それともう一つ・・・、できれば一回の攻撃でモンスターを倒すこと、

そうすれば、反撃されたりしないでしょう?」


「あ、そっか・・・、確かにそうですね」


「まあこれ、回復魔法が使えるかどうかに関係なく、

みんな基本として学ぶことなのよねぇ」


「そうなんですか?」


「モンスターってね、強さに関わらず厄介なの・・・、

例え瀕死の状態でも生命力が尽きる寸前まで元気に動き回るから・・・、

私たちと違って怪我をして動けなくなることも・・・、それどころか逃げたりもしないわ」


「そ、そんなにすごいんですか・・・?

だとしたら・・・、一回で倒すことなんてできるんでしょうか・・・?」


「もちろん簡単じゃないけど、だから特訓してうまくできるようになるの、

そのためにも・・・、あなたにはどのモンスターが

どの魔法なら倒せるのかをしっかり覚えてもらうわよぉ?♪」


「は、はい・・・、頑張ります」


「まあ、覚えることはそう多くないわ・・・、この近く・・・、

試験会場に出てくるモンスターの種類なんてせいぜい3~4種類だし、

それに対応する魔法を4つ5つってところかしら」


「あ、それくらいなら多分、大丈夫です・・・」


「問題は、あなたが本当に魔法を見ただけで

使えるようになってくれるのかってところなんだけどぉ・・・、

それじゃあ実際に見せてもらいましょうか」



 モンスターは攻撃を受けても怪我することはなく、

倒すまで元気に動き回る


 だから攻撃を受けない場所から、できれば一回で倒す


 そういった基本を簡単に学び、守くんは実戦の練習に移ります



「向こうの方を見てごらんなさい、何か動いてるのが見えるかしらぁ?」


「えっと・・・、あ、見えました、何かが地面に頭を突っ込んでます」



 ベルリーナさんが指さす方へ目を凝らしてみると、

守くんは動物のような存在が2体確認できました


 やや黒っぽい身体に太くない足が4つ確認でき、

細めで長い首の先端にある頭を垂れるその仕草は、

地面の何かを食べているように見えます



「あれはここら辺にいる中では一番弱いモンスター、ビスティ・グルバよぉ、

草地を食べ荒らし、人にも襲い掛かってくるわ」


「ええっ? 草を食べるのに、人も攻撃するんですか・・・?」


「何であろうとモンスターは人を攻撃するの・・・、

とにかく、よく見てちょうだいねぇ?」


「は、はい・・・」


「まず私が1体を倒すからぁ、もう1体はあなたが倒してごらんなさぁい?

一度見た魔法を使いこなせたのが本当なら、

私が使った魔法を使えば倒せるはずよぉ?」


「わ、分かりました・・・!」



 かなりの無理難題に聞こえる課題を出しながら、

ベルリーナさんが構えます


 そして、守くんが固唾をのんで見守る中

冷静に呪文を唱えました



「いくわよぉ・・・、ヴィグァ・ハイト」



 次の瞬間、白っぽい何かが風を切りながらモンスターの方へ飛んでいきます


 そして、2頭のうち片方がそれに気づいた顔を上げた瞬間

魔法は頭に命中しました


 モンスターは声を上げる間もなく、一瞬で消え去ってしまいます



「あっ・・・、当たった! すごい!」


「油断しないで! 次はあなたの番よ、

残りの1体は当然私たちに気付いて立ち向かってくるわ!」


「は、はいっ・・・!」



 モンスターが倒れたことに嬉しそうな声を上げた守くんですが、

ベルリーナさんに注意喚起され、慌てて気を引き締めます


 改めてモンスターの方を見ると、言われた通り

こちらへ勢いよく走る姿が目に映りました



「狙うのはまっすぐこっちを向いてる頭よ、きちんと当たれば一撃で仕留められるわ、

さあ、近付かれる前に撃って」


「はいぃっ・・・! ヴィグァ・ハイト!」



 やはり女神様に貰った素質のお蔭でしょうか、自信なさげに手を突き出していた守くんは

今聞いたばかりの呪文をはっきり唱えました


 すると、ベルリーナさんがやった時と同じように

不思議な物体がかなりの早さでモンスターめがけて飛んでいきます


 そして相手がそれに気づいた瞬間

頭部にしっかりと当たりました


 その直後、モンスターの姿は光となって消えてしまいます



「あ、当たった・・・? 今ので、倒したんですか・・・?」


「ええそうよぉ♪ 倒されたモンスターは魔石となって消えちゃうの♪

それにしても、1回目で当てるなんて上出来じゃない♪」


「あ、ありがとうございます・・・、ところでマセキって・・・」


「ああ・・・、ちょっと待ってねぇ・・・、はいっと・・・、

ほらこれ、片方があなたの倒したモンスターから変化したものよ♪」


「これが、マセキ・・・」



 ベルリーナさんが手を軽く差し出して見せると、

風と共に小さな石が運ばれてきました


 守くんは、手の中にある石粒をまじまじと眺めてみます


 透明ではあるものの、どこか黒っぽいその色は、

ほんの少しだけ不気味さを醸し出していました



「そうよぉ、これはいろいろなことに使われててね、

本部・・・、私がいた建物に行けばお金に換えてもらえるの♪

まあ、資格の保有者じゃないと価格が低くなるんだけど・・・」


「そうなんですね・・・、でも、あんな大きなモンスターが

こんな小さな石つぶに変わるなんて不思議です」


「そうねぇ・・・、それに関してはいろいろあるんだけど、

説明は後回しよ・・・、大事なのは、あなたが受けようとしてる試験は

この魔石を集めるものだってこと」


「これを集めるんですか? じゃあ、さっきみたいにモンスターを倒して

一つ一つ拾っていかないと・・・?」


「そういうことよぉ、私みたいに魔法で集められない以上、

きちんと回収していかないといけないし・・・、

落としたり、誰かに取られてもいけないから気を付けないとねぇ」


「そ、そうなんですね・・・、分かりました、気を付けます・・・」


「ま、そういう部分もまた教えてあげるわぁ、

ともかく、今日はまずモンスターを倒す練習よぉ♪」


「はい・・・、がんばります」



 モンスターを倒すことで手に入る魔石、その使い道を簡単に説明しつつ

試験ではこれを集めると告げるベルリーナさん


 そして今日の訓練はモンスターを倒すものだと告げながら

場所を移動しますが、頭の中では少し違うことを考えていました



(私の見た限りでは、マモルちゃんは確かに魔法を使える身体じゃなかった・・・)


(だけど現に魔法を・・・、それも私が使って見せただけのものを

きちんと使いこなせてみせた・・・)


(あの子が呪文を唱えた瞬間、何か強い力を感じたけれど、

あれが女神様に貰った素質、というやつなのかしらぁ・・・?)


(思い返してみれば・・・、どちらかと言うと魔法を使ったんじゃなくて

あの力がマモルちゃんの魔力を使って魔法を放ったと言った方が正しいのかも・・・)


(いずれにせよ気を付けた方が良さそうね・・・、あんな力があると知れば

何人かは黙ってはいないかも・・・、何より使いこなせなければ

間違いなくあの子自身が危険だわぁ・・・)


(だけど私自身、興味を持っちゃったのも確かねぇ・・・、

もっと良く見てみたいかも・・・♪)



 どうやらベルリーナさんは、守くんが魔法を使ったという事実や

その事象を引き起こした女神様の素質について

大変興味を持ったようです


 彼が貰った力は一体どれほどのものなのか、

そしてその力の危険性とは・・・


 異世界での生活は、まだまだ波瀾に満ち溢れてそうです



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