第十一話 魔素について
「は、はい・・・、あの、初めまして・・・」
「ふふ・・・♪ そう固くならないでいいのよぉ?♪
緊張してるのかしら・・・♪ かわいい子♪
お名前はなんていうの?♪」
「ま、守っていいます・・・」
「そう、マモルちゃんね♪ よろしく♪」
どこか甘い声で会話するベルリーナさんに、
守くんは少しだけ動揺してしまいます
それでも一応は挨拶が済んだこともあり、
今度はアミーお姉さんが話を始めてくれました
「お久しぶりですベルリーナ先輩、今日はこの子のことで
お願いがあってきました」
「あら、もうお姉ちゃん呼びはおしまいなの? つまらないわぁ・・・、
それで・・・、アミーちゃんったらいつの間に男の子を産んでたの?♪
言ってくれればお祝いしたのに♪」
「ち、違いますよ先輩、マモルくんは私の息子じゃなくて・・・」
「そっか、なら彼氏さんかしら♪ 奥手だったアミーちゃんが
こんなかわいい恋人を手に入れちゃうなんて・・・♪」
「もう、分かったわよお姉ちゃん! これでいいでしょ!?
話が始まらないからそろそろからかうのはやめて!」
知り合いらしい二人でしたが、ベルリーナさんが一方的にからかい、
アミーお姉さんが呼び方を改めています
どこか手慣れたやり取りに守くんは呆然としますが、
ようやく話が始まるようです
「ふふ、それでいいわ♪ じゃあ引き受けてあげるから
何を頼みたいのか詳しく話してちょうだい♪」
「えっ、いや・・・、話を聞く前に引き受けちゃっていいの?」
「水臭いこと言わないでよ♪ アミーちゃんのお願いだったら二つ返事で引き受けちゃうわ♪
・・・何か訳ありなんでしょうけど、悪いことはしてないって分かるもの♪」
「お姉ちゃん、ありがとう・・・♪ じゃあ言うね・・・、
もうすぐ資格の試験があるでしょ? それまでこの子の特訓をしてもらいたいの」
「あら、ということは試験を受けるの? マモルちゃんが? ふぅん・・・?」
守くんがモンスター退治の試験を受けると聞き、
ベルリーナさんはまじまじと彼を眺めます
そして不思議そうな顔をになると、もう一度アミーお姉さんと話し始めました
「ねぇアミーちゃん・・・、この子、魔法も使えないみたいだけど
本当に試験を受けるの?」
「えっ? お、お姉ちゃん、それどういうこと?」
「だってこの子、体内の魔力が魔素と適合してないじゃない、
これじゃ魔力を外に出すこともできないでしょう、
それとも、純粋な肉体の力だけで戦うつもり?」
「魔素と適合してない・・・? それ本当なの?」
「ええ、私には分かるわ、ねぇマモルちゃん、あなた一体どこで暮らしていたの?
少なくともこの国の生まれじゃないでしょう?」
「えっ? えっと、その・・・」
二人がさっぱり分からない話を始めたかと思うと
唐突に話を振られ、守くんは動揺してしまいます
すると、その質問を遮るように
アミーお姉さんが声を掛けました
「お姉ちゃん、ちょっと待って?
・・・マモルくん、私の方からあなたのことを説明させてもらっていい?
つまり、あなたの世界や女神様についてお話することになるんだけど・・・」
「あ・・・、はい、それはいいんですけど、
その・・・、ベルリーナさんは・・・」
「大丈夫よ、きっと全部信じてくれるから♪」
「分かりました、じゃあ、お願いします」
守くんを励ますように微笑むと、アミーお姉さんは
ベルリーナさんにあれこれ話し始めます
守くんが異世界からやってきたこと、
女神様に素質を貰って魔法を使ったこと・・・
そしてお願いされて資格を取ろうとしていること、
全て伝えました
ベルリーナさんは最後まで黙って話を聞き、
一通りの説明が終わったところで口を開きます
「なるほどねぇ・・・、なんというか、とんでもない話だわ、
女神様に異なる世界・・・、フィリィ様のお姿を見たなんて始めて聞いたかも」
「あの、信じられないかもしれませんが、
本当なんです・・・、僕、違う世界から来て・・・」
「ああごめんなさい、信じていないわけじゃないのよ?
でもちょっと予想外のお話だったからすぐに飲み込めなくて・・・、
ともかく、このお話はあまり広めない方がよさそうねぇ・・・」
「やっぱりそうよね・・・、信じる人は少ないでしょうけど
大っぴらにできる話じゃなさそうだし」
「それに、万が一信じる人が現れたら大変なことになるかもしれないわよぉ?
特に女神様のお姿を実際に見たなんて部分はね・・・、
ま、大抵の人はそこが一番信じられないでしょうけど」
話を一応は信じてもらえたのでしょうか、
お姉さんたちは考える様子を見せながら会話していました
守くんはというと、さきほど話に出ていた「魔素」が何か気になり
思い切って問いかけようと考えます
「あの・・・、ちょっといいですか?
さっきベルリーナさんが言っていたマソって何でしょう?」
「ああ、そう言えばマモルくんには説明してなかったわね、
簡単に言うと、魔法の素となる存在よ」
「空気の中に混じっていてねぇ、体の中の魔力と
その魔素を混ぜ合わせたら魔法になるの♪
普通は存在が分からないんだけどぉ、訓練した人間ならいろいろと感じられるのよぉ♪」
「そうなんですか、この世界にはそんなものが・・・、
やっぱり僕がいた世界にはないんでしょうか・・・」
「ええ、恐らくだけど、あなたのいた世界にはなかったでしょうねぇ、
あなたを見ればそうだって分かるわ」
「僕を見ると? どうして分かるんですか?」
「簡単に言うとぉ、あなたの身体は内にある魔力を
外へ放出できるようになっていないの」
「魔力を・・・、外へ・・・?」
少しずつ説明が難しくなってきたからでしょうか、
守くんは首を傾げながら質問を重ねます
相手にもそれが伝わったのでしょうか、
ベルリーナさんは少し考えてから言葉を選びつつ返答しました
「魔素を何年も浴び続けているとぉ、それができるようになっちゃうの♪
少しずつ魔力が変わっていくからね・・・、
魔法を使う第一歩ってところかしら♪」
「第一歩・・・そうなんですね、
じゃあベルリーナさんが僕は魔法が使えないって言ったのは・・・」
「ええ、あなたの魔力は変わっていないの、
きっと魔素を浴びていないからね・・・、
だから、本当は魔法が使えないはずなのよ」
「でもお姉ちゃん、マモルくんは現に魔法を使って私を助けてくれたのよ?」
「そこが不思議なの・・・、実際に使っているところを
見たわけじゃないから分からないけれど、
多分その女神様にもらった素質のおかげなんでしょうね」
「う~ん・・・、私は実際に見たんだけど、
お姉ちゃんみたいに魔素も魔力もちゃんと感じられないし、
魔法の発現する仕組みもよく知らないから・・・」
「あの・・・、今朝のことなんですけど、僕、お姉さんに教えてもらった
お湯を出す魔法が使えなかったんです、
女神さまが言うには僕の素質は『攻撃魔法』にしか意味がないらしいんですけど・・・」
「お湯を出す魔法が出せなかった? それならやっぱり、
私が見た通りあなたは魔法を使える段階に至ってないんだわ・・・、
でも、攻撃魔法だけは使えるなんて不思議・・・、これは一度、見てみる必要があるわねぇ♪」
そう言うと、ベルリーナさんは机の上にあった三角帽子を被ります
そして振り向き、楽しそうな笑顔で二人にこう言いました
「ともかく行きましょうか♪ 外へ出発よぉ♪
部屋から出るのは久しぶりだわ♪」
こうして難しいお話はひとまず終わり、守くんの特訓が始まるようです
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