第36話 冒険者ランク昇格

 ギルドに到着すると、奥からギルドマスターが出て来た。


 昨日、クレスは気を失っていたため会っていないから卒業式以来初めて会うみたいだ。


「クレス、良くやったな。昨日、君のお父さんから話は聞いたよ。君がオーガロードを倒したのだと」


「お久しぶりです、ギルドマスター!…ええと、実は無我夢中だったので、殆ど覚えていないんです。でも、なんとか倒せたみたいで本当に良かったです」


 ギルドマスターからの称賛に、苦笑いしてそう答えるクレス。

 謙遜してるというより、本当に朧げにしか覚えていないみたいだ。


「そうか。その華奢な体でどうやって倒したのか興味があったのだが…。いや、その話は今度ゆっくり訊こう。まずは、全員奥の部屋に来てくれ」


 ギルドマスターは、そう言うと俺ら全員を奥にある応接室へ呼び寄せた。

 ここに入るのは、初めてだ。


「ここはな、ギルド職員以外は大きな功績を達成したものや、特別な依頼を受ける高ランク冒険者しか入れない。今回のお前たちは前者だな。それで…」


 俺達は、ふかふかのソファーに座りつつギルドマスターの話を待った。

 ギルドマスターの隣には、秘書官だという美人の女性が座っていた。

 色んな書類をギルドマスターに見せつつ、説明をしている。


「…そうか、なるほどな。わかった、ありがとう。じゃあ、話を続けるぞ」


 そう言うと、俺らの方に向き直して話を再開する。


「まずは、今回のクエストの報酬だ。『ラ・ステラ』として受けているから、これはパーティーへの報酬だ。まずは『ゴブリンの集落の偵察任務』、次に『オーガの群れの討伐』、最後に『オーガロード討伐』となる。これに更に提出した素材の買取金額を合わせると…」


「合わせると?」


 俺はギルドマスターの勿体ぶった言い方に反応して、思わず聞き返してしまう。

 その答えを、クレスもマリアもレイラも固唾を飲んで待つ。


「これが報酬金だ。ざっと金貨50枚ってところだな」


「き、金貨が50枚!?」


「えっ、本当ですか!?」


「わぁ、凄い金額ですね」


「え、ほんとギルマス!?」


 俺が、クレスが、マリアが、レイラが目が飛び出そうなほど驚いてギルドマスターに聞き返してしまう。

 金貨50枚というと、馬を売って生活をしている俺の年収の10倍以上だ。


 渡された袋の中身を早速確認する事にする。

 こういうのは、その場で確認するのが商人の原則だ。

 …今は冒険者だけど。


 さっそく商家の娘でもあるレイラに金貨を数えてもらった。


「…うん、間違いなくあるわ。久々にこんな数の金貨を見たかも」


「しかし、いくらオーガロードとはいえ、凄い金額だな」


 俺らからすれば、凄い金額だ。

 こんな金額を一回の報酬で貰えるなら、冒険者になりたいと言う人が増えていくのも分かる気がする。

 ただ、常に命を賭ける仕事でもあるので、ある程度高くないと割に合わないというのもあるのだが。

 

「脅威度Bランクの討伐依頼の達成なら、そのくらいが当たり前になる。普通はかなりの準備が必要だし、その分費用がかさむ。しかも、下手をすれば一ヶ月くらいかかる場合もザラにあるんだからな」


「それでも、ここまで貰えるとは思って無かったですよ」


「今回のは、特に討伐した事が大きい。お前たちが討伐して無かった場合、近隣の村や町への被害はそんな金額じゃ収まらないだろう。それに人的被害も想像したくない程出ていた可能性が有る。寧ろ、安いくらいだろうな」


 なるほどな。

 あのオーガロードが外に出て、近隣の村や町を壊滅させた場合の被害総額は計り知れないものになるだろう。

 しかし、そのには街道もあって、商人たちが通る道にもなっている。

 そこが封鎖されてしまった場合、物の行き来が途絶えてしまうだろう。


 それを考えたら金貨50枚なんて、大したお金じゃないという事なんだな。

 いや、俺らからしたらすごい大金には変わりないけどね。


「そういう事なら、有難く受け取らせてもらいますよ」


「ああ、そうしてくれ。さて、本題はコッチだな」


 ギルドマスターはそう言うと、4つのギルドタグをテーブルに並べた。

 銀色に光るそれらは、パーティー用のギルドタグと個人用のギルドタグが一緒になっている。

 そして、ひとつだけ色が違うものが付いているタグが置かれていた。


 それを手に取り、クレスの方に差し出した。


「まずはクレス。これまでの功績と今回のオーガロードの撃破を評して、正式に『Cランク冒険者』として、認定する!」


「ええっ!?」

「「「おおーーー!」」」


 クレスが突然のランクアップに驚き戸惑う声を上げると同時に、俺らは驚嘆する声を上げた。


「流石、俺の娘だ!クレス、やったな!」


「すごーい、クレスやるじゃない!」


「クレスはいつも先に行ってしまうんですね。でも、私も本当に嬉しいわ」


 3人が三様の称賛を送る。

 クレスもそれに照れながらも、『うん、みんなありがとう』と言葉を返すのだった。


 そして、ギルドマスターからギルドタグを受け取る。


「3人もランクアップが承認されて、Dランク冒険者になった。つまりウードさん、あんたも今日からDランク冒険者に認定されたんだ。これは困難な状況で、3人を無事に連れ帰ってきた事を評価してのランクアップだ。これからも上を目指して頑張れ…、なんて言わないからな?どんな時も無事に全員を連れて帰って来てくれ。頼んだぞ?」


「本当ですか!?ありがとうございます!言われなくても、絶対に生きて帰ってくるよ。もちろん、全員一緒にね」


「ああ、期待しているぜ、『遅咲きのルーキー』さんよ」


 どうやら巷では、俺に変な仇名がついたらしい。

 その名も、『遅咲きのルーキー』。

 意味はそのまんま、おっさんが新人の冒険者になったという事だ。

 また変に有名になってしまったようだ。


 新しいギルドタグを受け取り、冒険者ギルドを後にした。

 出てくる前になぜかランクアップを知った他の冒険者達にかなり手荒い祝福を受けたが(後で聞いたら、やっぱり受付嬢が口を滑らせたらしい)、とても明るい気持ちになったのだった。


 ──


「ウードさん、聞きましたよ!全員のランクアップ、そしてパーティーのランクアップおめでとうございます!!」


 早速、マチスさんにランクアップの報告をしにきたのだけど、相変わらず耳が早い。

 報告する前に既に知っていて、先に祝福の言葉を戴いた。


「ありがとうございます。これもマチスさんの支援のお陰ですよ」


「何を謙遜しているんですか!うちのマリアが優秀なのは当然ですが、皆さんの頑張りがあってこそですよ。これからも、是非支援させていただきますからね?」


 マリアが正式にパーティーに加わった事もあり、マチスさんは『ラ・ステラ』の資金や装備についてバックアップしてくれると冒険者ギルドに宣言したようだ。


 これは、他のパーティーに勧誘させるのを防ぐ意味と、裏に自分がいるので余計なちょっかいを出すなよという牽制の意味があると説明してくれた。


「これからも装備等の用意は、こちらに任せていただきますからね?今は、腕のいい職人を見付けて更に良い装備を用意出来るように準備しています。その代わり、良い素材などが手に入ったらある程度は我が商会にも卸してくださいね?」


 マチスが是非にと言うので、頷くしか無かった。


 のちに、ウード達を商会の商品の宣伝のために使ったりする狙いもあった。

 さらに、例のお見合い相手の商会よりも立場が上になり、縁談は破談にしたと聞かされるのだが、今の俺は知る由もなかった。

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