第35話 新しきチカラと幸せの日常

『そうか…、ならばもう問うまい。では、お主には我の新しく解放されたスキルについて教えてやろう』


 ヘルメスはそういうと、ちょこんとウードの頭に乗り両の翼を広げると。


『神の贄はその身を捧げ、我はその魂を貸し与える。『神降し』!』


 ヘルメスがそう唱えると、ヘルメスが光の粒となって消え、その光がウードに吸い込まれていった。

 そして、ウードの意識が


 ウードは不思議な体験をする。

 自分が空に浮かび、自分の頭を上から見下ろしている。


 そして、ウードの意思とは関係なくウードの体が動き出した。


(これは一体??)


「ふむ、成功したようだな。ウードよ、聞こえているか?これが、我が新たに使えるようになった『神降し』の効果だ」


(まさか、俺の体を動かしているのはヘルメスなのか?)


「そうだ。お主の代わりに、お主の体と魔力を使い神獣である我らのチカラを使う能力なのだよ」


(という事は、俺の体なのに魔法とかスキルが使えるって事か?でも、それだと今まで通りでは?)


「いいや、まったく違うぞウードよ。お主の体を借りる事でお主の魔力を直接使う事が可能だ。我なら、その治癒の力や探知能力、そして魔力を吸収する能力が普段よりも強化されるのだよ」


(それは凄いな。じゃあ、戦闘中は常にそうしていればいいんじゃないか?)


「お主は、自分以外に自分の体を使われて何も思わないのだな。普通は、『お、俺の体が!?』とか言って焦るところなのだが…。まあ、良い。『神降し』を解除すればその理由が分かるだろう…。『解除』」


 すると、ぎゅぎゅぎゅっと自分の体に吸い込まれていく感覚に襲われる。

 気が付くと、元に戻っていた。


「お、戻ってこれたな…。うおおっ!?」


『ほう、この短時間でも影響があるか』


 俺は急激な疲労感に襲われて、その場に倒れかかった。

 立っていることが辛いほど、急に体に力が入らなくなった。

 その場にしゃがみ込み、額から嫌な汗が流れる。


「これは、一体・・・?」


『これが『神降し』の副作用。魔力の急激な消費だ。言っただろう、代償が必要になると』


 ここで俺は、ヘルメスから『神降し』について教わる。

 その効果は、神獣など契約を結んだ高位の魔獣の魂を体に憑依させて、一時的に魔獣と同等以上のチカラを得る能力だという。


 但し、行動の主導権は魔獣になる。

 なので、正式に契約した信頼できる魔獣以外には使わない方がいいという事だった。

 また、憑依の際に体に大きく負担を掛ける為、暫くまともに動けなくなるらしい。


「それなら、魔獣が戦った方が強いんじゃないのか?」


『お主、自分の特性を忘れておらんのか?神のサクリフィスたるお主の魔力を直接使えるのだ。どの魔獣でも、通常の何倍も強化される状態になるのだぞ。まぁ、お主の魔力が無くなるまでの間ではあるがな』


「魔力を使い果たされたら、体はボロボロで魔力切れで昏睡って、ほぼ瀕死になるんじゃないか!?」


『そうだ。だから、これは奥の手なのだ。凡人たるお主が、本当のピンチになった時だけ使う。今のところは我しかおらんが、そのうち出会う事になるであろうよ。クレスと一緒に旅をするのであればな…』


 最後に意味深な事を告げるヘルメス。

 しかしこれで、いざという時に奥の手を手に入れたんだ。


「しかし、神獣のチカラを得る代わりに、俺の魔力がごっそり使われるのか…」


 元々、魔法を使う才能どころか魔力が殆ど無いと言われていた俺だ。

 そもそもの魔力量が無いはずだ。

 それを証明するかのように、今も魔力切れ状態だ。


『その通りだよ。だから、いざという時しか使う事が出来ないだろう。だが…』


「だが…?」


『我らのチカラを使えば、お主の器としての能力がわずかだが上がるようだぞ。だから、1日一回は『神降し』を使って精進せよ』


「ええっ!?」


 あの脱力感を、毎日味わらないといけないのかっ?!

 しかし、ヘルメスにはやると言ってしまったからな。

 それにいざという時に、クレス達を助ける前に倒れるとかじゃ全く意味がないのだから。


 万が一に備えるには、今から自分を鍛えるしかないだろうな。

 

「よし、分かった。これから訓練も宜しくなヘルメス!」


『うむ、これからビシバシやっていくぞ。覚悟せい』


 器用に、両側についている翼で腕を組むような仕草をするヘルメスだった。


 ───


 目を覚ますと、すっかり朝でした。


 魔力を使い果たし、お父さんに担がれたところまでは覚えていたけど、その後の記憶がない。

 きっと、そのままこのベッドに運んでくれたんだろう。


 ふと自分の服装が寝間着に変わっている事に驚きつつ、お父さんが着替えさせてくれたのかなと考えながらベットから降りた。


 見渡すと、ここは見慣れないけど自分の家。

 マチスさんが提供してくれた、町での住まいです。


 長年勤めていたマチス商会の従業員の方が使っていた家らしく、年老いて故郷に帰ってしまったので丁度空いていたのだという。

 とても綺麗な家で、漆喰の壁で出来た家に住むのは初めてです。


 サイハテの家が嫌なわけじゃないけど、やっぱり綺麗な家と言うのは悪くないよね。


 台所に足を向けると、いい匂いがしてくる。

 お父さん、相変わらず起きるのが早いんだなぁ。


 私も癖がついたので、早起きには自信があるんだけど、魔力切れした後はどうにもならないみたい。


「おお、起きたか。おはよう、クレス」


「うん、おはようお父さん」


 なんか、こういう会話は久々に感じてしまう。

 ついこの間まで、寮生活をしていたし、卒業してからもすぐに冒険者として活動を始めたので、宿屋に泊まる事も多く、家で過ごす時間がほとんど無かった。


 その間、キールに家の事を任せっきりになっていて、少し申し訳ない気分になる。

 元気にしているかな、キール。

 まだ、最後に会ってから数日しか経ってないけど、ちょっと寂しく感じる。


「マリアとレイラは本邸で朝ご飯を戴いてくるみたいだから、二人で食べようか」


「うん、お父さんの作った朝食食べるの久々だね」


「ああ、そうだったか?まぁ、相変わらず大したものは作れないけどな」


 そう言いながら、焼いたパンをバスケットに入れてテーブルに置き、皿の上には焼いたベーコンと目玉焼きがジュージューいっている。


 味付けはシンプルに塩とコショウの様だ。

 でも、朝はそれが一番美味しい。

 

「いただきまーす!」


「ああ、召し上がれ」


「でも、卵なんてどうしたの?安くないでしょう」


「ああ、さっき朝市に行ってきたんだ。採れたての卵だったし、栄養満点だからな。クレスも疲れているだろうと思って買ってきたんだ」


 サイハテにいるときは、ニワトリを飼っていたんで1~2日に1回くらいは卵を食べれたけど、町では買うしかない。

 最初、その値段を聞いてビックリしたのを覚えている。


 でも、折角買ってきてくれたものだし、温かいうちに食べちゃおう。


 う~ん、美味しい!

 うちのニワトリより、少し味が濃い気がする。

 きっと、美味しい餌を食べさせているんだろうなぁ。


 半熟の黄身がとろーりと口に広がって、幸せでいっぱいになる。

 さらに、そこに塩味の聞いたベーコンを放り込む。

 そこで焼き立てのパンを頬張ったら…。

 美味しい~~!


「はは、相変わらず美味しそうに食べるなぁ。見てるこっちが幸せになるよ。さて俺も食べてしまおう」


「あはは、だって美味しいんだもん」


 二人笑顔のまま、もきゅもきゅ朝ご飯を食べてから、マチスさんの邸宅に向かった。

 そこでマリアとレイラと合流する。


 昨日貰えなかったというギルドからの褒賞金とランクアップ承認を受ける為に、最低限の装備をつけて全員で冒険者ギルドへ向かうのでした。

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