第30話 ウードの作戦

 オーガはそのタフさからか、自身が傷つく事を恐れないで攻撃をしてきている。

 先ほどの連携も、防衛するというより、より攻撃を当てやすくするためのように見えた。


 その証拠に今もクレスの攻撃を躱すことをせず、力いっぱいこん棒を振り下ろしている。

 そう、手加減した攻撃をする様子が見られないのだ。


「いくら皮膚が硬くても、自分自身の力に耐えれるほどじゃないだろう?」


『そんな事、失敗したら大ケガじゃ済まんぞ?』


「大丈夫、こう見えて結構目はいいんだぞ?それに、このままでは皆あいつらの餌になってしまう」


 さっきのゴブリンだったものの残骸の方に目をやる。

 負ければ自分たちの末路も、アレになるという事だ。

 それだけは絶対にさせない!


 クレスは大量に汗を流しつつ、既に限界に近い状態でなおも交戦している。

 オーガ達はイライラを募らせているものの、まだまだ体力を残しているように見えた。


 チャンスは一度きり。

 失敗すればさすがのオーガにも警戒されてしまい二度を同じ手は使えない。

 しかも、先に俺達を狙うようになってしまい、そのまま全滅もありえる。


「ヘルメス、やつらの動きを教えてくれ」


『本当にやるのか?…仕方ない、気取られるなよ?』


 スチャッと杖の尖った先の方を槍のように前に構えて、ヘルメスの声に耳を傾ける。

 クレスは3体相手に攻めきれず、次第に手数が減ってきている。


 グオオオオオオオッ!

 グガアアアッ!


 2体のオーガが雄叫びと共に、左右同時にクレスに攻撃を仕掛けた。

 そして、その後ろからもう一体のオーガが目をギラつかせながらクレスの隙を狙い、今まさに渾身の一撃を繰り出そうとしていた時だった。


『今だ!真ん中を奴を狙って突っ込めっ!』


「うらあああっ!クレス避けろおおっ!!!」


「お父さんっ!?」


 杖の尖った先を前に構えたまま、力いっぱい握り締めて一番後ろのオーガに突撃した。

 クレスは咄嗟にウードを避けつつ、右側のオーガに体当たりしつつ魔法を繰り出した。


「『電撃』!!」


 グガガガガガッガッ!!


 そして、ウードが突っ込んだオーガはウードに構わずにそのこん棒を振り下ろした。


『今だ、杖の先を上に向けるのだ!』

「おらああああっ!」


 言われたまま、そのまま杖の先を上に向ける。

 すると、丁度そこにオーガの腕が物凄い勢いで振り下ろされた。

 その勢いで、智慧の杖の先がオーガの腕に深々と突き刺さる。

 ウードは勢いに負けて、杖を離してしまい地べたに打ち付けられた。


 ガアアッ!!


 オーガは痛みに顔を一瞬顰めるも、そのくらいの傷を気にしないというように杖が刺さったまま、今度はウードを狙ってこん棒を振り下ろそうとした。

 その時。


『そのままやらせると思っとるのかデカブツめっ!『吸魔』!!』

 

 カッっと杖が光り、オーガのもつ魔力を急速に吸収していった。


 オーガから力が抜けるまで、ほんの数秒だった。

 グラリとオーガがよろける。


「クレスっ!」

「分かってる!」


 『電撃』で行動不能にしたオーガを蹴り飛ばして、すかさずもう一体のオーガの首を狙う。

 1対1なら今のクレスならオーガの勝負は見えたようなものだ。


 ズシャッ・・・ドスン。


 『加速』を掛けたままのクレスの動きについて行けず、もう一体のオーガの首はあっけなくその胴からすべり落ちた。

 そして討ち取ったオーガを踏み台にして軽く『飛翔』する、その勢いのまま魔力を失ってフラついているオーガの首も一閃して刎ねた。


 そして最後に『電撃』で行動不能に陥っていたオーガの胸に深々と剣を突き刺して、その息の根を止める事に成功するのだった。


 はぁ…はぁ…。


 クレスのあがった生き遣いが辺りに木霊する。

 やった…のか!?


「うおおおっ、クレス流石俺の娘ぇ~っ!!」


「お父さんの馬鹿っ!!」


 感激のあまり、クレスに抱き着こうとするがその前にお叱りを受けてしまう。

 あれっ、おかしいな。

 こういう時は感動のシーンになると思ったんだが。


「どうしてあんな無茶したの!?いくら押されてたからって、下手したらお父さん死んでたかもしれないんだよ?」


「いや、でもだな。あのままだとクレスが…」


「お父さんが死んだら、私は…私はどうしたらいいのっ?嫌だよ、そんなの」


「す、すまん…」


 少し涙目になったクレスに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 確かに、イチかバチかの掛けに近かったからな。


 だがクレスのあの動きは、俺が何をしようとしているか咄嗟に分かったように見えた。

 我が娘ながら、流石としか言いようがないな。


「だが、それでも俺を信じてくれたんだな」


「最初は、本当にそのまま体当たりするかと思ったけど、腕を目掛けて杖で刺そうとしたのが見えたから…。だから、一瞬なら動きが止まると思ったの。でも、まさかそのまま動けなくなるまでとは思って無かったわ…。あれは、ジャイアントウーズを討伐した時のチカラ?」


「ああ、ヘルメスの『魔力吸収』だよ。俺の力だけじゃ刺さらないとは思ったからな。相手の力を利用すればいけると思ったんだ」


 その話を聞いてクレスは、感心するというよりも呆れた顔をしながら『お父さんって、たま~にそういう無茶をするよね』と言われてしまった。


「でも、ありがとうお父さん、ヘルメス。おかげでなんとか切り抜けれたね」


「ああ、早くレイラとマリアを連れてここを脱出しよう。こんな所にオーガがいるなんて異常事態だ」


「そうだね…。ここら辺に出るだなんて聞いた事ないものね」


 なぜか嫌な予感が止まらない。

 オーガ達を倒した俺達は、脱出するためレイラとマリアの所に戻ろうとした。


 ──その時だった。


 ズシンッ…ズシンッ…ズシン…。

 オーガ達がやって来た方から、大きな足音が近づいて来る。


 急いで、倒れているオーガから智慧の杖を引き抜いて後ろに下がる。

 クレスもまだ肩で息をしながら、その音が来る方を見ていた。


 そして暗くて良く見えない暗闇の中から、徐々にその姿を現していく。

 現れたのは、さっきのオーガ達よりも一回り大きい。


『ガハハハハハッ!面白い小娘がいたものだな。手下どもが人間をどう料理したのか見に来た筈がまさか全部やられちまってるとはなッ。キサマら、生きて帰れると思うなよッ!!』


 なんと、そいつは人語を話す巨大なオーガだった。

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