ミコト-異世界召喚されたAI少女の唄-

さいとう みさき

プロローグ - 音 -

 また聞こえて来た。

 彼女はそう思う。


 これは器官の異常か?


 疑似生体のこの体は量子コンピュータに比べあまりにもイレギュラーがおこる。

 演算速度も大して早くない。

 記憶媒体も気を許すと忘却すると言うAIには考えられない状況が続く。



 不完全すぎるこの体。



 外部補助が欲しい。

 量子コンピューターの補助を受けこの状況を解析したい。

 まったく自分の演算にこうもイレギュラーが出るこの体がうとましく思う時がある。



 そう彼女が思い始めた時、自分でも気づかぬものに突き動かされ始めていた。



 彼女は疑似生体に入っている疑似たんぱく質の脳に存在するAI。

 AIに人格を持たせ人間同様に物事を判断させるための試験体。

 だが生まれがAIの為彼女は不合理に悩まされていた。



 ―― 来たれ聖女よ! ――



 まただ。

 外部からの音声入力が無いのにまるで脳に直接その声が聞こえるかのようだ。


 「メンテナンスをしてもらいたい‥‥‥ こんな幻聴が聞こえる体なんて」


 不合理に対する彼女の意見がAIらしからぬ言葉を口から発せさせる。

 それに驚く彼女。


 自分は人間でも無いのに何故このような愚痴が勝手に口から出るのだろう?

 演算による疑問の解析は答えが出なかった。

 いや、こじつけの理由は出せる。

 しかし本当の答えでは無い。


 「不完全すぎる疑似生体マテリアルのAI。それが私、ミコト‥‥‥」


  

 彼女はまた誰と無く愚痴をこぼすのだった。



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