臨時の神さま異世界珍道中 好き勝手にやらせていただきます

@asami-ko

第1話 貴方、神になりませんか?

 「貴方、神になりませんか?」


 キッチリ七三分された髪型に黒縁眼鏡をかけた、いかにも真面目な役人といういで立ちの男に突然冒頭の言葉を投げかけられたら人はどう言う対応をするのが正解なのだろう?と疑問に思いつつ俺は「はぁ…」と気のない返事を返してみる。

 それにしても、どうしてこうなったと首を捻り記憶を遡って考えてみよう。

 

 俺の名前は鈴木真すずきまこと

 特に可も無く不可も無い平凡な名前に、何処にでもいる平均的な一般人を自認している。

 母親は幼い頃に交通事故で亡くなり、男手ひとつで育ててくれた父親は4年前に脳幹出血で倒れ、辛うじて命は取り止めたが、ほぼ寝たきりで日常生活全てに介助が必要になった為、大学を中退しフリーターをしながら父親と暮らしてきた。

 しかしこの春、闘病の末、父親も亡くなった。 

 25歳で天涯孤独になったが、父親が残してくれた遺産のおかげで今は、のんびりしながら大学への再度通うか、就職するか検討中だった。

  

 軽くて重い自己紹介は終わろう


 今日は晴れてはいたが、風がもの凄く強かったのに暇だからと散歩がてら本屋に行く事にしたのが間違いだった。

 建設中のマンションの前を通りかかった丁度その時、強風が吹き抜け轟音と共に上から資材が降ってきたが、いざって時に体は咄嗟に動いてくれないみたいで、やばいと思った時にはもう強烈で壮絶な痛みが襲ってきたのが、最後の記憶。

 気がついたら此処にいて普通に座っていた。

 

 一体どうなってんのよ?

 

 辺りをゆっくりと見渡してここは役所と勝手に判断したよね。

 だって窓口から役人らしき人が、番号を呼びかけると薄らぼんやりした人影らしきものがそこに向かうんだもん。

 死役所だよきっと…

 周りにいるのは薄らぼんやりした影のみで、人と認識できるものは役人らしき窓口の人達だけなんだよ?

 状況がいまいちよくわからないが、自分は死んだからここにいるんだなと漠然と理解し、当たり前のように自分の死を受け入れちゃったよね。


 自分のことでなんですが、順応力高すぎて笑う。


 死後の世界が役所みたいなのは、閻魔殿!みたいなのをイメージしてたから、ちょっと残念だったけど、なんとなく日本らしいと自分を納得させてたら、キョロキョロしている俺に気がついた役人が、何故かギョッとしたように目を丸くし口をあんぐりと開けたので、ビクッー!

 「おい!アレ!まだ寿命が尽きてない魂だぞ!」

 俺を指差し叫んだ役人の声に他の役人も俺の存在に気が付き、ざわめきが広がっていった。

 「嘘だろ?!誰か、上の人を呼んでこい!」

 「あぁ…最悪だ…これ全体責任になるのかな?これ物理で何人か首がとぶんじゃないか?」

 

 不穏なセリフが聞こえ、俺の動悸も激しくなっちゃう…

 え?なんなの?俺はいたらマズイのか?いたくているんじゃ無いけど、注目されることに慣れてないせいで、申し訳なさにしょっぱい気持ちになったよね…

 

 ドキドキしながら精一杯さりげなさを装っていると、如何にも真面目な役人ですという男の人が俺の所にやってきた。


 「失礼、申し訳ありませんが、鈴木様でいらっしゃいますか?」

 思いのほか優しい声で話しかけられ、ぎこちなく頷いてみる。

 「…鈴木 しん様でいらっしゃいますでしょうか?」

 「いえ。まことです。真と書いてまことと読みます」

 俺の返事を聞いて愕然とした役人さんは、悲壮な表情で一瞬俯くと、気を取り直したように笑顔で俺に別室で詳しく話をしたいと申し出たので快諾し、役人さんに案内され移動していたけど、俺が目に入る度に仕事中の役人達が驚いた表情をするから、とんでもなく面倒な事に巻き込まれてしまった感がヒシヒシで、厄介事の匂いがプンプンしてる…

 

 そして、冒頭の台詞を聞くハメになるのだ。

 回想終わり⭐︎

 

 「…いや、その…話が見えない…俺は一体何に巻き込まれているんだ?」


 神にならないか?なんてスカウト聞いたことないと真面目役人にこちらも至って真面目に首を傾げる。


 「失礼しました。思いのほか私も動揺しているようで、つい先走ってしまいました。では、最初から私のことはたかむらとお呼び下さい。」


 篁さんは照れたように頭を掻き、クイっと眼鏡をあげる。

 その動きめっちゃ似合う〜

 「まず、この度鈴木様は建設現場の事故でお亡くなりになりました。資材が落ちてきて下敷きになったのです。」

 

 「あ〜やっぱり死にましたか…すんげー痛かったのに今は全然元気なんでそうだろうなって、ここは死後の世界なんですね」

 

 ふっ死んだのは想定内さっ!

 俺があっけらかんと死を受け入れたので、篁さんはちょっとビックリしたようだが、申し訳なさそうに、そうですと続きを話だした。


 「ここは、死後の魂の窓口です。本来、人間の魂は数回転生を繰り返しますが、魂自体にも寿命があります。言葉は悪いですが、魂も消耗品なんです。ですから、窓口で魂の転生回数、残りの寿命を確認しその後の魂の行き先を確認するのがこの場所になります。」


 「寿命ですか?そういえば俺を見た役人さんが寿命が残ってるって叫んでいたような」

 びびってたよね、あの役人さん。

 あれ?この流れってもしや…

 不穏流れを察知してしまい眉間に皺がよる

 

 俺の言葉に篁さんは本当に申し訳なさそうに眉を八の字に下げ、頭も下げた。


 「はい。本来、転生にかかるコストは膨大でキッチリ一回の転生分の寿命を全うしていただくのが決まりです。魂の寿命と生の寿命は別なので、一回の生がものすごく短い人もいれば、長い人もいます。生の寿命の長短にはその人の性格や善悪は関係なく、あくまでも魂の力の強さで決まります」


 「善悪は関係ない?それじゃあ良い事をすれば永く生きられるみたいなことはないの?」


 「はい。魂には善悪ではなく、魂の強さ、輝きが求められるからです。勿論、悪行を推奨するわけではありませんよ。魂は気持ちが良いとか、心地が良いと感じる環境にいる方が強くなります。ほとんどの人は善行を心地良いと感じますが、稀に悪行を心地良いと感じる人もいますからね」


 「根っからの悪人ですか?」


 「はい。魂が心地良く強くなれば、魂自体の寿命が延びます。そうすれば一回の生の寿命も永くなる傾向ですが、例えば生に絶望して生きていく事が苦痛でしょうがない場合は善良な人だろうと魂が傷つき寿命が短くなりますね。魂は生の感情を記憶しませんが、記録はしていますので絶望が深いほど、転生後の生が短くなりそれにより魂の寿命も短くなります」

 

 へぇーなんか意外な事実ですね…

 「なんだか理不尽だな…善良で繊細な人ほど生きづらいんですね」


 「そうですね。残念ですが、神々にとって人類は小さすぎて見えづらいんです。例えばですが、人だってたくさんの蟻の善悪を見極めることはできませんよね。個を区別だってできないでしょう?蟻は蟻でしかない。」


 「え?蟻?…うん、まぁね。蟻の観察したとしてもよっぽど変わった個種でもない限り見分けもつかないよな…神様にとって人間が蟻なら単純に魂の強さで見るっていうのもわかる気もする」

 

 内心、すげー例えだし、ぶっちゃけるなってちょっとひいたよね。

 

 「ご理解頂けて良かったです。それで鈴木様の寿命の件なんですが、実は本来まだ生の寿命はあと60年はありました。担当の死神が名前と時間を読み違え、本来鈴木 しん様52歳をお迎えするところを鈴木 まこと様を無理矢理連れてきてしまったようです。本来あの場で寿命を終えるしん様はまこと様の数分前に無事に通り過ぎていますし、生き延びたことで数年寿命も延びています」


 「………。」

 や、やっぱりーーそうだと思ってました!!

 予想していても動揺する…

  

 「…そ、そこでなんですが、本来ならばまこと様を生き返らせてしん様をお連れすればいいのですが、なにぶんまこと様のお身体は修復不可能なほどの傷を負っておりますし、あの状態で生きていれば確実にゾンビと認識されるでしょうからそれはできません。」


 篁さんが言いづらそうに目を逸らしつつ俺の遺体の状態を説明してくれるが、でしょうね…としか俺としても答えられない。

 あの資材の下敷きになったなら体が無事のわけがない。

 俺の寿命があと60年はあったと聞けば、悔しいし両親が残してくれた遺産や家、それに両親の墓は今後どうなるんだとモヤモヤしてしまう。

 心には、言ってやりたい文句や苛立ちが山程浮かぶが、ここでゴネても何も解決しないことを頭では理解してしまう。

 俺ってばいい人過ぎない?


 黙ってしまった俺をどう思ったのか、篁さんが少しオロオロしながら様子を伺っているのを感じたので、重いため息を一つついて、顔をしっかり上げる。

 

 「それで、神になりませんかとはどういうことですか?」

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