第6話〈オレンジと男らしさ〉1
「お~い!邪魔するで~!!」
「邪魔するんやったら帰ってくれ!」
翌日の正午。
コテコテの関西ノリでお見舞いに来た虎太郎の族仲間竜也に、患者達は苦笑いを噛み殺す。
「ビックリしたわ!虎でも骨折れるんやな~!」
「アホか!俺も人間やわ!」
比較的声の大きい二人の会話は病室中に響き、それを求めてもいない患者達は次々と退室していく。
「お土産は?」
虎太郎が伸ばした手に「ちゃんと持ってきたで、ホレっ!」と竜也は改造車専門雑誌を袋ごと手渡す。
「お~!珍しいな!金どうした!?」
余程予想外だったのか虎太郎は驚きを隠せない。
「久しぶりにパチンコ勝ったんや」
嬉しそうに財布の中身をひけらかす竜也だが「勝ったんやったらメロン買って来いよメロン!」と虎太郎は他の患者達が貰っている果物を指差す。
「じゃあコレやるわ!」
さりげなく盗りに行こうと立ち上がる竜也に「他人のやねーか!」と虎太郎は置いていた空き缶を投げつける。
「オ~イ~、何すんねん~」
赤髪短髪の見た目とは裏腹に、以外と律儀な竜也はぼやきながら空き缶を拾いごみ箱に捨てる。
「良いよ、コレあげるよ~」
突然閉じていたカーテンを開き、二人の会話に割り込んできたのは秋人だった。
「めっちゃ良い奴やん!お礼にコレやるわ」
竜也はさっき虎太郎にあげたばかりの雑誌を、読み始めている虎太郎から取り上げ秋人に手渡し。「毎度あり~!ほらっ果物手に入れたぞ!」と上機嫌で果物をカゴごと没収して、虎太郎に見せびらかす。
「ぜっ‥‥全部は駄目だよ~、バイク乗らないからコレ読まないし~」
「はぁ~!?くれるんちゃうのか?」
カゴを持ち上げた手を止める竜也。
「え‥‥、ぜ‥‥全部だと親に怪しまれるから‥‥」
オドオドとした口調で、秋人は渡された雑誌を読もうともせず差し出す。
「冗談や、ええから早うソレ返せ」
気の合うヤンキー二人は、オレンジを二つ取りゲラゲラと笑いあっているが「そうだよね‥‥、冗談だよね」と秋人は苦笑いを浮かべ、慌てて雑誌を返し一人頷いている。
「おもろい奴やな~」
まだ笑い続けている竜也に「竜!そいつ実は俺のバンド仲間や!」と虎太郎は冗談っぽく伝えるが「ソレは嘘やろ~!解った~!縦笛役か~?」と竜也は全く信じていない。
「アホかっ!ヘタレやけど一応俺の先生やぞ」
真剣な表情を返す虎太郎と、照れるように頷く秋人だが「虎っ!腕上げたな‥‥!」と竜也はからかうように秋人を指差し、ベットの上で笑い転げている。
「まあええわ‥‥」
説明するのも面倒臭さそうな虎太郎が再び雑誌を読みだすと「けどバイクって、ちょっと憧れるよね~」と何気なく呟いた秋人の一言で事態は一変していく。
「虎のバイク乗らしたったら良いやん!俺はもう帰るし」
早速立ち上がり帰ろうとする竜也を「シバくぞ!お前今来たばっかりやし、まだええやろ」と虎太郎は捕まえようとして脅迫的に引き止めるが「アカンアカン‥‥、運動不足やから、また右手の運動しに行ってくるわ」とさらりとかわした竜也は、距離をとって聞き入れようとはしない。
「何が右手の運動や!只パチンコ打つだけやろが!」
虎太郎が投げつける物を探し始めると「解った!じゃあ家迄送ったろ」と竜也は自慢げにバイクの鍵を見せつける。
受付で外出許可の申請を終えた二人は、竜也のバイク置場迄移動するが「ええな~、俺も行こうかな‥‥」と虎太郎はまだ悩み続けていた。
「ジャァ~ン!!愛車のスマイルドラゴンや!!」
所々改造された原付きを竜也は両手を拡げ自慢するが、虎太郎は聞き飽きているのか気怠そうに拍手を送る。
「オォ~!!凄いね~!!」
大袈裟に秋人だけは感動するが、見るからに心が篭っていない。
「さあー!二人共乗ってくれ!」
竜也が三人乗りを勧めると、虎太郎は当たり前のように乗り込むが「え~!?三人乗りは駄目だよ~!」と秋人はチラチラ周りを気にして中々乗り込まない。
「大丈夫や!ええから早う乗れ!シバくぞ!」
虎太郎がシートを叩き急かすと、秋人は諦めた様子で渋々シートに座る。
「さあー!行くで-!」
竜也の運転で移動を開始した三人は、大通りを避けて裏道を通り無事虎太郎の家近くに辿り着いた。
原付きから降りると秋人は興味深そうに辺りを見回すが、虎太郎は構うでもなく歩き始める。
「一稼ぎ終わったら迎えにきたるわ」
急かすように竜也が手を振り走り去ると「ええな~!どうせ負けるに決まってるけどな」とまだ名残惜しげな虎太郎は悔し紛れに小石を蹴飛ばす。
何処にでも在るような農道を少し歩くと、見えてきたのは築三十年は経っていそうな民家だった。
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