第10話 君の詩、僕の歌。

ひかりの父、ヒロシが去った後、ナオヤは再び病室へと戻った。


「ひかり、カーテン開けるよ。」


「あ、ナオヤさん。お父さんは・・?」


「お父さんなら、もう帰られたよ。ひかりの目が見えるようになるまでに、外見磨きしとくんだってさ。」


「なにそれ、バカみたい。」


ひかりは嬉しかった。

父親が会いにきてくれたことと、手術が終わった後も、来てくれるんだと。

離れ離れでも、気にかけてくれていた事実が嬉しかった。


「俺もまさかいきなりお父さんと話すことになるなんて、びっくりしたよ。でも、凄く良いお父さんだった。ひかりはみんなから愛されてるね。」


「そういうナオヤさんも、こんな短期間で私の家族全員と仲良くなってるのは凄いです。」


「まだカナタくんとはそこまで話せてないけどね。」


「カナタも言ってましたよ。良い人そうだって。あと、歌も上手って。」


「えー!カナタくんにも俺の歌聴かせたの!?恥ずかしいなー!」


「お母さんにも聴かせましたよ。みんな、ナオヤさんのファンです。」


「ありがとう。凄く嬉しいよ。あ、歌詞の方は進んでる?」


「はい。書いてみると、なんだか新鮮で楽しいです。ただ、見られるのは恥ずかしいですが・・」


「え~早く見たいな~!完成まで、楽しみに待ってるよ。」


「はい!頑張ります。」



ひかりは、消灯した後でも、歌詞を書き続けた。

まさか自分でもこんなに夢中になるとは思ってもみなかった。

これもきっと、ナオヤが作ってくれた曲だからこそ、想いが溢れているのだろう。


あっという間に、手術前夜を迎えた。


いつも通り、朝食を食べると、健康状態のチェックが始まった。

血圧ともに、至って普通の健康体だ。

入院している間、母が必要以上に食べ物を差し入れするので、家にいるときより食べている気がする。

今思うと、もう3年以上もの間、自分の姿を見ていないのか。

今の自分はどんな顔をしているんだろう。でも、あまりそこに不安はなかった。

それは、ナオヤが私を愛してくれているからだ。

ナオヤから伝わる愛情が、私の自信に繋がっていた。


午前中に母と弟がお見舞いにきた。

明日のエールと、着替えと、大好きなクッキーを持ってきてくれた。

ナオヤは夕方頃来るらしい。実はまだ、歌詞の一部だけが完成していなかった。


「早くここだけ完成させないと・・!」


・・・スースー・・・

ひかりは、昨晩夜通し歌詞を考えていたせいか、疲れて寝てしまった。


「・・・・んん・・あれ、寝ちゃってた・・」


「お目覚めですか、お姫様。」


「え!?ナオヤさん!?」


「スヤスヤ寝てるから、起こすのも悪いな~と思って。」


「そんな、すみません・・。」


「それより、ついに明日だね!気持ちのほどはいかがですか?」


「大丈夫です。不安はありません。」


「あとは神様に祈るだけだね。大丈夫、絶対成功するよ!あ、歌詞は完成した?」


「・・・・実は、一部だけまだ完成してないところがあって・・・」


「ううん、俺の無茶ぶりに答えてくれて、ほんとありがとね。よし!じゃあその一部は俺が引き受けます!」


「初めて宿題が間に合いませんでした・・すみません・・。」


「それくらい真剣に考えてくれたってことだもんね。じゃあこの歌は、手術が終わって真っ先にひかりちゃんに聴かせれるように、明日レコーディングするよ!」


「え!?明日ですか!?」


「うん!ひかりちゃんが頑張ってるのに、俺は何もしていないのは嫌なんだ。だから、一緒に頑張ってるんだよって思っててほしい。」


ナオヤは、そっとひかりの手を握った。

こんな素敵な人に出会えて、本当に良かったと、ひかりは心の中で神様に感謝した。

もし本当に神様がいるのなら、明日の手術が成功しますようにと、二人は願った。


「じゃあ、明日は手術が終わる頃にくるよ。先生の話だと、長時間にわたる手術みたいだね。」


「そうみたいですね・・。でも、私は麻酔で眠ったままらしいんで、あっという間なんでしょうか。」


「目が開いたときに、不細工な俺が真っ先に目に飛び込んできたらごめんね!」


「ふふふ、その時は、他人のフリをしておきます。」


「言ったな~!あ、そうだ、俺の事が分かるように、写メ撮っておこう!ひかりちゃん、携帯貸して!」


ナオヤは、ひかりの肩を抱き寄せ、携帯を内側カメラにした。


「ほら、ひかりちゃんも笑って、ピースして!」


「こ、こうですか・・」


目が見えなくなってから、写真を撮る機会が無かった為、

ピースをする事が久しぶりだった。ナオヤは、いつも私をあの頃へと戻してくれる。


「はい、チーズ!!」


カシャ!


「これで、ひかりちゃんが起きたときに俺が居なくても、会ったときすぐ認識できるね。」


「はい。できれば、写真じゃなくて、先に実物が見たいです。」


「了解しました、お姫様。」


カラカラカラカラ

廊下でナースが食事を運ぶ音が聞こえる。

そろそろ夕食の時間だ。


「じゃあ俺はそろそろ帰るよ。ひかりちゃん、明日は一緒に頑張ろう!!」


「はい!ナオヤさん、本当にありがとうございました。」


「ちょっと、なんか最後みたいな言い方やめてよー!目が見えるようになったら、色んなところにデート行こうね!」


「ナオヤさんのバイクに乗れるの、楽しみにしてます。」


ナオヤは、カーテンを開けようとしたが、思いだしたかのように、

ひかりに近づいた。


「そうだ。ひかり、手術成功のおまじないがあるんだけど、やってもいいかな?」


「え、おまじないですか?」


「うん。そのままじっとしててね・・」


チュッ


「・・・!!!!????」


「これで成功間違いなし!!」


一瞬の出来事だった。まさかキスされるなんて。

ひかりは顔が真っ赤になった。


「・・・・これがおまじないですか?」


「そ、そうだよ。おまじない!」


「・・・・このおまじないは、私だけにしてくださいね・・。」


ナオヤも顔が赤くなった。ひかりはたまに独占欲を出すような発言をするときがある。

そのとき、たまらなく愛おしくなる。


「も、もちろん!!!!」


ナオヤはカーテンを開いた。


「それじゃ、また明日!」


「はい、また明日。おやすみなさい。」

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