第2話 再会
今日は大事なオーディション。
合格すれば、メジャーデビューと謳っているような、ありがちな企画だ。
この手のオーディションには何回も挑戦しているが、受かった試しがない。
今回の審査方法は、自身で作詞作曲した楽曲を歌唱するというものだ。
歌の技術力はもちろん、楽曲センスも問われる。
俺は、このオーディションの為に書き下ろした渾身の一曲を持ってきた。
「次の方、どうぞ。」
どうやら、俺の番が回ってきたらしい。
緊張はあまりしていない。もう慣れっこだ。
スタジオに入ると、審査員が数人横並びで座っていた。
「新道ナオヤです。よろしくお願いします!」
俺は渾身の一曲を自身で作ったカラオケにのせて歌いきった。
「ありがとうございました。」
審査員達の表情を見る限りでは、まずまずな手ごたえを感じた。
何やら、ひそひそと相談をしている。
すると、ゆっくりと、1人の審査員が口を開いた。
「ん~、悪くはないんだけど・・」
少しの間があったあと、一言こう言われた。
「普通・・・なんだよねぇ・・・」
俺はこの言葉が嫌いだ。
昔から、テストの点数も平均くらい、通知簿も平均数字がいつも並んでいた。
何をやるにしても、人並み程度にはこなせるが、それ以上の評価はない。
しかしそれは、言い換えれば、個性が無いと言われてるようだ。
「もう少し自分の武器を身につけてから、チャレンジしてください。」
今回のオーディションも、落選で終わってしまった。
帰りに渋谷のパワーレコードに寄ってみた。
特に何か目的の物があるわけではないが、真っ直ぐ家に帰るのが嫌な気分だった。
「はぁ・・俺の個性って何だろうな・・」
そんなことを考えながら、いつもチェックするShineのコーナーへと向かった。
すると、1人の女子高生が、ヘッドフォンで新譜を試聴していた。
「へぇ、女子高生からも支持されてるのか。人気が出てきた証拠だな。
それにしても、どこかで見たような・・・」
サラサラな長い黒髪に、真っ白な素肌。間違いない。あのときぶつかった女子高生だ。
俺は、またオッサン呼ばわりされるかもしれないと思い、その場を立ち去ろうとしたが、
どうにも今日はオーディションも落ちたせいか、何でも良いからアクションを起こしたいという
変な欲求が働いていた。
恐る恐る、女子高生の肩をトントンと叩いてみた。
女子高生はヘッドフォンを外し、こちらを振り向いた。
「や、やぁ!こないだはごめんね。覚えてないかもだけど。」
女子高生は驚く様子もなく、口を開いた。
「人違いです。近寄らないでください。」
俺はすぐに声をかけたことを後悔した。
今日だけは自分という人間全てを否定されている気分に陥った。
「ははは・・まぁ・・そうだよな・・ぶつかったくらいで覚えてるわけないよな・・」
今日は早く帰ろう。そう心に決め、立ち去ろうとしたそのとき、
「ぶつかった・・あぁ、スクランブル交差点でぶつかった人ですか。」
俺は嬉しかった。やっと認知してもらった。
ただそれだけでも、俺という人間を認知してもらったのが嬉しかった。
「そうそう!良かった~、またオジサン呼ばわりされるかとひやひやしたよ。
君もShine好きなの?」
「・・・最近、良く聴いてます。」
とりあえず会話してあげている雰囲気が満載なのが伝わった。
俺も、会話をしたところで、この後どこかに誘うだとか、特別何も考えてはいなかった。
ただ、今日という1日に、何かいつもと違う日常が欲しかっただけだ。
「新譜も良いけど、カップリングの曲がすげー良いから、是非聴いてみてね!それじゃ。」
普通に会話できただけでも、もう満足だ。これ以上何も望んじゃいけない。
仮にも相手は女子高生。深追いするのはやめよう。
「あの・・オジサンじゃないんですか?」
ショックだった。ただただ、ショックだった。
女子高生からみたら、そんなに老けているのか?
「俺・・そんなに老けてみえるかな?」
「いえ、声が低かったのと、話しかけてくるのがオジサンが多いので・・」
「まだ24歳だよ!君からしたらオジサンなのかもしれないけど!」
さすがに少しムキになってしまった。
だが、女子高生は特に表情を変えることもなかった。
「それは失礼しました。でわ・・・」
女子高生は、軽く会釈をして、隣に立て掛けていた杖を持ち、
その場を立ち去ろうとした。
俺はそのときまで気がつかなかった。
だから自分がオジサン呼ばわりされていたんだと。
女子高生は、杖をコツコツと地面に突きながら、歩きだした。
そう、彼女は盲目の女子高生だっだのだ。
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