盲目少女は「ヒカリ」を聴く。
御神苗マサシ
第1話 スクランブル交差点
ガタンゴトン-
とある日曜日の昼間。俺は電車に揺られながら渋谷に向かっていた。
初夏を感じさせるように、夏服を着ている人をちらほら見かける。
相変わらず人が多い。人混みは嫌いだ。
でも、イヤホンで音楽を聴きながら移動するのは嫌いじゃない。
同じ曲でも、家で聴くのとはまた違う感覚が味わえる。
俺は新道ナオヤ、24歳。見た目は少し茶髪で、今時な髪型をしていて、ギターを背負っている様が似合う細身体型。
夢を目指して日々奮闘している売れないミュージシャンだ。
売れていないミュージシャンなんて、世間では自称ミュージシャン呼ばわりだろう。
周りの同級生達は、就職して会社員になっている人がほとんどだ。
劣等感をちょっぴり感じながらも、どうにかして現状打破を狙っている。
周りには、「お前は良いよな、気楽で」と言われるが、そんなことはない。
将来のビジョンがまったく見えないまま、週4日程度のアルバイトをこなす。
このままで良いのだろうかと、常に自問自答を繰り返しては、ただ時間だけが過ぎていく。
そんな毎日ほど不安なものなどない。
いつしか俺は、少し卑屈な性格になっていた。
今日は、俺の大好きなアーティスト、Shine(シャイン)の新譜発売日だ。
透き通る様な歌声で、どこか儚さも感じられるような歌に魅了されている。
まだまだ一般的な認知度は低いが、これからブレイク間違いなしだろう。
いつもCDを買うときは、決まって渋谷のパワーレコードに足を運ぶ。CDが1枚無料で買えるほどポイントを貯めている常連だ。
そう、今日の最終目的地は、渋谷のパワーレコード。Shineの新譜を買う為だ。
渋谷駅を降りて、スクランブル交差点で信号待ち。
休日というのもあって、いつも以上に人が多く感じられる。
信号が青になり、大勢の人達が行き交う。
俺は、信号を渡りながら、イヤホンから流れている音楽が今まさにサビを迎えようとするその瞬間ー
ドン!
「いてて…」
どうやら人とぶつかったらしい。
そっと下を見ると、女子高生が倒れていた。
サラサラな長めの黒髪に、スカートから真っ白な素足が見える。
俺はすぐに手を差し伸べた。
「す、すみません!大丈夫ですか?」
休日にスクランブル交差点のど真ん中で女子高生とぶつかるなんて、ある意味運命的な出会いかと、心が躍った。
だが、そんな期待は一緒にして砕け散った。
「触んな!オッサン!」
女子高生は手を払いのけ、大きい声でそう叫んだ。
俺は頭が真っ白になり、ただひたすら謝り続けた。
「ご、ごめんなさい!俺がちゃんと前を見て歩いていなかったから…本当にごめんなさい!!」
ムスっとした表情で、女子高生は何も言わず、スッと立ち上がり、その場を立ち去った。
俺は、呆然とその場で立ち尽くし、オッサン呼ばわりされた事に傷ついていた。
「俺…まだ若いよな…それとも女子高生からしたらオッサンなのか…?」
それが、彼女との出会いだった。
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