再生怪人は今日も戦えない
@akinu2
第1回 復活、狼怪人ウルフマジーン!
薄暗い部屋の中、一人の白衣を着た人物が目の前のコンソールを操作する。
その横では手術台のような物に横たわる大柄の人物。
いや、それは人と呼ぶにはあまりにも異形の存在。
全身を覆う毛皮に頭部は人ではなく、狼のそれに置き換わっている。
だが、その横たわる存在は息をしていない。
そう、死んでいるのである。
しかも、全身にチューブやケーブルなどが取り付けられて様々な機械に接続されている。
しかし、それを白衣の人物は意に介さずに目の前の事に集中している。
「さぁ、これで完璧じゃ! この電撃で蘇るのだぁ、ウルフマジーンよぉ!」
作業を終えた白衣の人物が声高々に宣言するとEnterキーを勢いよく押す。
その瞬間、横たわる存在に目に見えるほどの電撃が浴びせられる。
高負荷の電撃による発光の明滅と全身をガクガクと震わせるソレは電撃が収まると全身から微かな煙を燻らせている。
そして、それまでは確かに生命活動の兆候さえなかったソレがむくりと上半身を起こしたのだ。
「…こ、ここは?」
「目覚めたか、ウルフマジーンよ」
頭を押さえ、頭痛に耐えながら自身の名を呼ぶ者にソレは目を向ける。
「儂の事が分かるか、ウルフマジーン?」
「ハイ…貴方は…Dr.マッギア」
狼頭の存在、ウルフマジーンは自身を呼ぶ白衣の人物の名前を呼び返す。
「フム、儂の事は分かるようじゃな。記憶の再生も上手くいったか?」
「記憶…再生…? 何の事ですか、ドクター?」
白衣を着た頭部部分に人間の脳を収納しているガラスケースを接続している人型ロボットのような見た目の人物、Dr.マッギアにウルフマジーンは尋ね返す。
「ムッ、そうか…その事は覚えておらんのか。
良いか、ウルフマジーンよ。 お主は実は一度爆散しておる」
「爆散!? つ、つまり、お、俺は…」
「ウム、その想像通りじゃ…お主は一度死んでおる!!」
「死んでいた…俺が!?」
目覚めてすぐに衝撃的な事実を告げられて動揺を隠せないウルフマジーン。
「混乱する気持ちは分かる。
そもそも再生怪人第一号がおぬしじゃからな、前例もないのじゃしな」
「それは…俺ごときの為にありがとうございます」
「うん? まぁ、無事成功したようで何よりじゃ」
ウルフマジーンは自分が再生された理由について大まかな予想を立てている。
それは自分が失敗しても損失の少ない人材だからだ。
ウルフマジーンは名前や見た目の通り、狼をモチーフとした改造人間である。
その能力は『アスリートの3倍の筋力』である。
どのアスリートだよと言われても困る、そういう説明しか受けていないのだから。
しかも『満月の夜には更に2倍の筋力を得る』、
つまり満月の夜限定で能力は6倍になる。
……こう考えてみると物凄く不便な能力である。
ちなみに満月の周期は大体30日、要するに1か月に1回しかチャンスはない。
そして、
「それはつまり、俺はレスキューⅤに敗れたという事ですよね?」
彼らと敵対するヒーローの存在がある。
『世界災害対応緊急戦隊レスキューⅤ』。
あらゆる分野のスペシャリストから選抜され、
超科学による装備を身に纏う5人の戦士。
そんな彼らの基本スペックは、
計測された事はないが怪人とタイマン張っても勝てる筋力、
爆撃されても「うわぁー!」と吹っ飛ぶ程度で軽症で済んでる防御力、
一般人では目で追えないほどの走力、
そして有り余る超装備の数々。
うん、普通に能力で劣ってるとかいうレベルではない。
最早、ウルフマジーン程度のスペックではただの哀しき道化である。
それを理解していないウルフマジーンではない。
故にウルフマジーンは自分が使い捨ての駒としての価値しかないと思っている。
再生怪人の末路など、ちょっと目立つ戦闘員と変わらないのだと。
そうして、絶対勝てない戦場に送り出されるのだろうなと自嘲していた。
まぁ、精々目いっぱい奴らに一泡吹かせてやろうと心に誓う。
それが彼なりの怪人の矜持だった。
「いや違うけど?」
「へっ?」
しかし、そんな想いはあっさりと否定される。
「おぬしが死んだのはレスキューⅤと関わるけど、別に負けた訳じゃないぞ?
むしろ、世間的にはおぬし勝ってない?」
「はいぃ!?」
何と、目の前の自分を再生させた科学者は自分があの戦隊に勝ったという。
「ハハハ、何の冗談ですかドクター?
流石の俺もあいつらに勝てると思うほど自惚れてませんよ?」
「自惚れも何も…もしや」
そこでDr.マッギアは何やら深く考え込んで黙り込む。
おもむろに顔(のような部分)を上げると、ウルフマジーンに問いかけてくる。
「おぬし、今の西暦を答えてみるのじゃ」
「西暦ですか? えぇっと…2016年ですよね?」
ウルフマジーンは博士の問いかけに首を傾げながらも真面目に答える。
それを聞いて、Dr.マッギアは盛大な溜息を吐いた。
「矢張りか…どうやら再生は肝心な所で失敗していたようじゃな…」
「えっ!? 俺は何処も違和感を感じませんが!?」
「感じないも何も違和感だらけじゃ、ウルフマジーンよ。
心して聞け…今はな2021年じゃ!!」
「な、なんですとぉー!?」
こうして、自分が知らない間に5年の月日が経過していた再生怪人の苦悩の物語が幕の開けるのだった。
次回、第2回『変貌していた真新帝国ジェネ・ギア!』
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