えっちゃんは素敵な大人に

小学校の五年生六年生と同じクラスで、黒縁メガネに長い黒髪、おとなしい性格からついたあだ名は図書係。僕はそんな彼女に恋をした。


そうは言っても小学生。告白する勇気などあるわけもなく、そんなことがあったんだって胸の奥に大切にしまっておくやつだ。


中学では別のクラスで、全く接点も無くなっていたが、高校一年の時に再び同じクラスになった。


クラスの中での彼女は、みんなの話をいつもニコニコしながら聞いていた。陽だまりのような彼女の笑顔に、僕は2度目の恋をした。淡い初恋とは違って『彼女が好きだ』とハッキリ言えるやつだ。

でも僕はその気持ちを彼女に告げることができなかった。いつもつるんでいた仲間の一人が熱烈に彼女のことが好きで、よく相談を持ちかけられていたのだ。

僕はその度に自分の気持ちを押し殺して、彼の恋を応援していた。


ところが皮肉なもので、高校一年の文化祭で僕は彼女に告白された。

嬉しかったが、僕の口から出てきた返事は『ごめん』の一言。

仲間の気持ちを知っていて、彼女と付き合うことはできなかった。

僕のほのかな片思いはこれ以上ない悔しい形でピリオドを打った。


翌年のクリスマスになって、友人が彼女にアタックするも玉砕。なんでも好きな人がいると断られたそうだ。傷心の彼だったが、バレンタインデーに部活の後輩から告白されリア充となった。


仲間の幸せを見届けた僕は、翌月のホワイトデーに今更どの面下げてと思いつつ、初めて彼女に気持ちを伝えた。一年半前に自分が振った女の子に告白するという、相手の気持ちを考えない自分勝手な告白だ。

それでも返事はOK。僕は謝りながら彼女に感謝した。


それから付き合い始めたが、僕が東京の大学へ入学したため遠距離恋愛となり、結局一年半ほどで二人の恋は終わった。

お互い嫌いになって別れたわけじゃないので、こんなふうに話ができるのかもしれない。


僕がフードコートに到着しキョロキョロと辺りを見回していると、彼女が両手を大きく振って僕を呼んでくれた。


「お待たせ!ごめん、待たせちゃって」


「ううん、こっちこそ急にごめんね。何年ぶりかな?今井君に会うの」


メガネからコンタクトへ、ロングからショートへ、そして髪色を変え、僕の知っている彼女とは別人だった。図書係の面影は消え、明るくハツラツとした女性になっていた。


「どう? 私、だいぶ変わったでしょう? 今井くん、惚れ直しちゃったんじゃない? ねぇ、じゃあさ、ヨリ戻してみる?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る