おふとん天国
――ベッドで誰かと過ごす朝って、こんなに楽しかったっけ……
僕は、いや、僕らは布団から出られずにいた。
「あ、ヤバっ、家に連絡しないと」
僕は慌ててスマホを手に取り、自宅へ連絡する。
『もしもし、母さん。ゴメン、酔いつぶれちゃってさ。うん、今、先輩の家にいるから。そう、休みだから。ゆっくり帰るからさ。昼飯はいらない。うん、じゃあね』
高校を卒業し東京の大学に入学してから、ずっと一人暮らしだったので、こんな風に家に電話するのは初めてだ。
――あ、怜と暮してた時は何回か電話したことがあったっけ
僕が怜のことを思い出していると、篠崎さんが「よいしょよいしょ」と身体を寄せてきた。そして嬉しそうな顔で言った。
「ねぇ今井くん。今日はゆっくりお帰りになるんですか?」
「そうですね。仕事も休みだし。それに今はまだ、この布団から脱出できる自信がないんです、気持ち良すぎて。あ、でも、篠崎さん迷惑では?」
「そうねー、ハッキリ言って迷惑かな。でも可愛い後輩を無下にするわけにもいかないからね。もう少し付き合ってあげるわ」
ここぞとばかりに先輩面をする。
「いえ、迷惑ならすぐ帰りますよ」
「だからいいって言ってるでしょ。ホントはもっとこうしていたいくせに」
「そう言う篠崎さんこそ」
「えへへ、バレたか」
布団の中で篠崎さんが身体を寄せてきた。再び『むにゅ』を感じる。
「ねぇ、その待ち受け画面素敵ね」
「えっ、そうですか?」
「とても可愛いわね。どこかでダウンロードしたの?」
「それは内緒です。僕のお守りなんですよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ大切なものなんだね」
「はい。僕の宝物です」
僕が見つめるスマホの画面には、可愛いらしい天使のイラストが映し出されていた。
「あのー、篠崎先輩に折り入ってお願いがあるんですが、聞いてもらっていいですか?」
「なになに? 言ってごらん」
「はい、ちょっと言いづらいんですが、下着を着てもらってもいいですか? さっきから刺激的な膨らみがむにゅむにゅと当たるもので……」
「あぁゴメンね。普段はマッパで寝てるもんだから。襲うなら今がチャンスだよ」
「篠崎さん!帰りますよ!」
「冗談だって! すぐ真に受けるんだから。ちょっと待っててね」
ガバッ
篠崎さんは布団から出ると、いきなり着ていたシャツを脱いだ。驚いたことに下も履いていなかった。細い背中と小さなヒップが丸見えになった。
「おわっ!ちょっ!篠崎さんっ、服着てください、服っ!」
僕は見てはいけないと思い、目を背ける。
「あ、気にしなくていいよ。大したもんじゃないし」
「いや、そういう問題じゃあないですから」
「ウブだなあ、今井くんは」
篠崎さんはケタケタ笑った。
「篠崎さんが男前すぎるんですよ!」
この人といると、人と接する為に身につけてきた鎧が、ポロポロと剥がれ落ちていく気がする。
まるで、春の陽射しに包まれているような暖かな安らぎを感じていた。
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