キュンしちゃいました
ソーシャルディスタンスとまではいかないが、元の位置に戻って星空を眺めていた。
僕は羽月ちゃんのファーストキスが甘酸っぱいレモンの味どころか、臭いニンニクの味にならなくて良かったとホッと胸を撫で下ろしていた。
もしあのままキスしていたら、彼女にとって絶対トラウマになっていたはずだ。
そしてそんなことを考えていたら、
先程の至近距離の羽月ちゃんの画像が、ご丁寧にもスローモーションで脳内リピされていて、再び心臓の鼓動が速くなっていった。
――俺、羽月ちゃんのことを異性として好きになってる……
未遂に終わったがキスしようとしたのは事実だ。
JKだのお子ちゃまだの言っていたが、いつの間にか彼女の魅力に引き寄せられ、恋愛感情が芽生えていたようだ。自分でも気づかぬうちに LIKE から LOVE になっていたのだった。
そんな俺のドキドキなど気づかない羽月ちゃんが、仕切り直しするかのようにコホンと咳をしてから言った。
「今井さん、ちょっと離れちゃったので、手を繋いでもいいですか?」
最近は会うとすぐに、何も言わずに僕の左手を握ってくるようになっていたので、改めてお願いされて緊張してしまった。
「ひぇっ、ぃひぃよ」
緊張のあまり、彼女の歌声のようにフラットしてしまった。
「ありがとうございます」
クスクスと笑いながら、ぎゅっと手を握ってきた。そして「ねぇねぇ」といった感じで、その手に強弱をつけてくる。
気になって彼女を見ると、僕のことを見ながら小悪魔のように悪戯っぽい表情を浮かべている。
初めて見せるその表情に、僕はドキドキしながらも、
「こら、オトナをからかうんじゃない」
と、彼女をたしなめた。
「はぁい」と反省をしつつも、彼女は嬉しそうに言った。
「でも今井さん、顔が真っ赤ですよ」
「……!?」
僕は恥ずかしさに何も言えずにプイと横を向いた。
「嘘です。暗くて顔の色までは見えません」
羽月ちゃんの言葉にちょっとだけホッとしたが、照れてるのはバレている。
「いつもお兄さんみたいに頼りがいのある今井さんですけど、こんな可愛いとこあるんですね。キュンしちゃいました」
羽月ちゃん、キミは気づいてないだろうけど、そんな世界中の幸せを独り占めしたような笑顔を向けられたら、俺は何も言えなくなっちゃうんだぜ。
重篤な恋患いで真っ赤に染まっているであろう自分の顔を隠してくれている、夜の闇に感謝した。
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