イルカ座は何処に

高速道路を降りて、あちこち観光地に寄り道しながら目的地へ到着した。


ネット調べたその公園は、芝生の広場になっていて寝転がって星を見るのに最適とのこと。

さらに周囲に灯りもなく、目が慣れるまでは暗闇に思えるほどで星空を堪能できるそうだ。

そしてトイレがあること。

女性がいる場合にはこれは最重要課題です。


駐車場に車を停めて、荷物を持って芝生広場へ移動する。ネットにあった通り、目が慣れていないのでよく見えないが、人気スポットのようでたくさんの人たちが来ているようだ。


場所を確保し、キャンプ用のマットを敷いた。


「さぁ、これでよしと。ここに寝転がって流星群を見るという作戦だよ」


「はいっ、隊長。了解しましたでありますっ!」


羽月ちゃんはピンと伸びた右手をしゅたっと上げて敬礼しながら答えた。

うん、ケロロに出てきそうでちょっと可愛い。


マットに寝転がると、彼女が大きな声を上げた。


「うわぁ、スゴイきれい……。今井さん、スゴいですよ。星がたくさん見えますよ。まるでプラネタリウムみたい……」


初めて見る満天の星に感動しているようだ。信州育ちの僕からしたらありふれた景色の一つでしかないが、都会っ子の羽月ちゃんには驚きでしかないのだろう。


スマホの星座アプリをかざしながら、二人で寝転がって夏の星座をなぞってゆく。


「今井さん今井さん、大変です。あそこにイルカ座があります。私、イルカが大好きなんです。うわっ、ちっちゃくて可愛いぃ!」


「え、どこどこ? わかんないなぁ…」


「あそこの明るい星の右斜め上17センチくらいのところにあるじゃないですか」


「17センチって……えー、やっぱりわかんないよ」


僕がそう言うと、彼女は少しじれったそうに、


「ほら、あそこですよ。私の指の差している方向です」


と言って身体ごと僕に寄せてきた。

彼女の右肩が僕の左肩に触れる。暗闇の中、そこからほのかな灯りが広がるような気がした。


「あっ、あそこか! わかったわかった。見えたよ。へぇ、たしかに小さくて可愛らしいね」

「見えましたか、良かったぁ」


何の気無しに彼女に顔を向けると、見たこともない至近距離に嬉しそうな笑顔があった。


彼女の瞳に映る僕の顔が見えるほどの距離に、思わず息を飲む。

彼女も予期せぬ距離に恥ずかしそうに瞳を閉じた。

彼女と触れた左肩から広がる灯りは、激しく熱を帯びて、僕の全身に広がってゆく。


「羽月ちゃん……」


僕が優しく囁くと、


「……はい」


彼女はマイナスイオンを帯びた優しい声で、そっと応えた。その潤んだ唇は、少しだけ開いてふるふると震えている。


僕は身を乗り出して、その震えを止めようと顔を近づけてゆく。

すべてがスローモーションで流れる中、鼓動だけが速くなる。


そして彼女の吐息が掛かるのを感じた次の瞬間、


「今井さん、口くっさーい!」


羽月ちゃんが叫んで、僕から離れた。


立場を無くして固まった僕の口からは、ニンニク臭がもわ〜んと吐き出されていた……。

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