僕の世界に降る無色透明な雨は キミ色に彩られてゆく
きひら◇もとむ
パッシング レイン <1>
昨日までの連日の雨が嘘のように、朝から雲ひとつない快晴が広がった。
天気予報によると最高気温は35度を超え、梅雨明け宣言されるだろうとキャスターが言っていた。
今年も夏が始まる。
気がつくと、『今年の夏こそは……』なんて恋に遊びに気合いが入ってたのが、遠い昔のことのように思えた。
この炎天下に仕事をする人間としては、『早く秋になってくれ』と願わずにはいられない。
そんなことを考えながら、車は公園の駐車場へ向かっていた。
一番大きい木の下のスペースに、運良く入れ替わりで車を停めることができた。
木と太陽の位置関係で、時間によってはジリジリと直射日光を浴びる場所もあるが、このスペースはその心配も無い。
いつものように窓を三分の一ほど開けて、エンジンを切り、シートをリクライニングさせた。
マイナスイオンを纏った風が心地いい。
僕は、あっという間にうとうとしていた。
遠くで子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。セミの鳴き声と重なり、夏の訪れを感じさせる。
――夏だなぁ
目を閉じたまま、僕はいつかの夏の日を思い出していた。
街を見下ろす小高い丘の上に立つ一本の大木。これ以上ないってほどの青空に白い雲。生命力溢れる草木の緑。木漏れ日の下で、高原の風を吹かれながら昼寝をしている。
『やっと見つけた。やっぱりここにいたんだね』
聞き慣れたマイナスイオンを纏った声がした。目を開けると、そこには両手で押さえたぶかぶかの麦わら帽子を被り、まっ白いワンピースの裾を風になびかせた彼女が笑っていた。
自分が世界で一番幸せだと思っていたあの頃、隣にはいつも彼女がいた……。
美しくも切ない記憶から現実に舞い戻ろうと、僕が少しだけ潤んだ瞳を開けたとき、
「やっと見つけた!やっぱりここにいたんですね!」
記憶の中の彼女に似た、マイナスイオンを纏った声がした。
声の方に視線を向けると、真っ白いセーラー服でスカートの裾を少しだけ風になびかせた女子高生が笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます