第7話  赤いドレスの女

  プロローグ


 野島と亜里沙は、夜空に円を描く大観覧車の前に立った。

十五分ごとに打ち上げ花火のような演出がなされ、光が観覧車を夜空に浮かび上がらせている。この観覧車は、1999年にこの地に移築され全高112m・定員最大480名をほこり世界最大級の時計機能を持つものであり、今もって、21地区のシンボルであることに変わりはなかった。

 野島と亜里沙が所定の位置に着いた時、すでにコスモクロックのデジタル時計は、7:50を表示していた。

ゴンドラは止まることなく廻り続けていて乗客が降りると、次の乗客が吸い込まれるように乗り込んでいく。

 依頼者の山路弘和の秋色のブルゾンを着込んだ後ろ姿が五列程先に見えている。視認性を確保するためであった。せわしなく首が回り緊張している様子が伺える。野島は、ゴンドラに乗り込むための乗り場で待機せず、鉄製の階段下にいた。ここからでも十分見渡せるという判断であり、犯人に張り込みが気付かれるのを防ぐためであると亜里沙には説明をしていた。しかし、実際は単に高いところが苦手であったのだ。この判断が、想定をを狂わせることになった。野島の腕時計は、8時5分を指していた。約束の時間を5分程過ぎたことになる。

山路の乗るべくゴンドラが近づいてきているが、脅迫者らしい男は、見当たらないでいた。山路の後ろには、4組のカップルと一人の若い女だけである。


 ゴンドラの扉が開き、乗客が降りるのと前後するかのように、山路は後ろに並んでいた背の高い女に腕を掴まれ、箱の中に引きずり込まれて行ったように見えた。

野島の失態であった。乗り場に駆け上がった時には、すでに山路は姿を消していた。クライアントの命に係わる問題であった。


「亜里沙、女だ!」野島の五列後ろに待機していた亜里沙に、犯人像を告げた。

「赤いドレスのね!」亜里沙も、赤いドレスは認識してはいたが、まさか犯人であるとは想像すらしていなかったのだ。

亜里沙を乗車口に残し、野島は階段を駆け下りると降車口に向かった。ゴンドラが一周し、降車口に達するのには15分程かかるのだ。もはや、逃げ場はないと言えた。飛び降りるしか方法はないはずである。

待つとなると、15分が非常に長く感じられる。途切れることなく、降車口から人が吐き出されて来る。赤いドレスの女が姿を見せない。すでに5分は過ぎている。 張り込みになれているはずの野島でさえ、いら立ちを覚えた。

突然、野島は降りてくる乗客をかき分け階段を逆走した。回転するゴンドラの前にいま降りたばかりの山路の姿があった。

「山路さん、女は何処ですか?」野島が詰め寄った。

「それが・・・」山路の手には、赤いドレスと目隠しが握られていた。

「亜里沙、男かも知れないぞ!」野島の声が、大きく階段に響き渡った。

「男って、どういう事?」悲鳴に似た亜里沙の声が、鉄製の階段下から上がって来た。野島が、観覧車の出入り口に駆け下りた時には、すでに四方に散らばるカップルの中に紛れ、脅迫者はすでにその姿を消していたのである。

港の水の上に浮かぶ観覧車のイルミネーションは、何ごともなかったかのように静かに揺れ続けていた。


 1 依頼人山路弘和


 『ホテル・ニューグランド』前の街路樹も大分色付き始めている。この港町にも一年ぶりの秋の訪れである。今年ほど、季節の移ろいを早く感じたことなど、なかったと言える。この禍の中で、人々は自分の進むべき方向性を決める羅針盤を失いつつあるのではなかろうか。

しかし、信じていい。侘しき晩秋から厳しい冬を迎えたとしても、必ず芽吹く春は訪れることを・・・。また、厳冬の中でさえ、愛は枯れることなく、花開くその日の来ることを密やかに待っていることを・・・。


 午前中の出来事である。

野島は、亜里沙からの連絡で調査先から、山下町にある事務所に急いで戻った。 約束の時間よりわずかではあるが、5分ほど早く着きそうである。

「お待たせしました」野島は、木製の扉を気負いもなく開けると挨拶をした。

慣れとは、恐ろしいものである。熟達すると、開けにくい扉さえ、従順になる。

「山路さんが、お待ちです」亜里沙が、よそゆきの声で応える。

ひび割れた黒い革のソファーに座っていたのは、五十がらみの細身の男であった。技術職または、研究者といった風体である。

「ご相談とは、どういったご用件でしょうか?」もはや、定番通りの質問である。

「実は最近、妻の行動に少し違和感を感じていまして、俗な言葉で言いますと、

男がいるのではと、思っていたところ・・・」                 戸惑いながらも、実直そうな山路は話し始めた。横浜みなと探偵事務所にとって久しぶりと言える浮気調査の依頼らしい。亜里沙の口元がわずかに綻んで見えた。

難事件続きの当事務所にとっては、正直比較的楽そうだと言える案件である。命の危険に遭遇する可能性が低いだけでも、亜里沙にとっては喜ばしいのだ。


「・・・、今朝私の携帯にこんなメールが入っていたのです」

山路は、野島に画面を見せた。

『あなたの大事な奥さんの男関係を知っている者です。

 その証拠を示す卑猥な写真も我々は持っている。

 今夜8時に、コスモクロックのゴンドラに一人で乗ってください。

 写真を渡す条件を、その時に伝えます。

 警察に話せばどうなるかは、ご自分で想像してみてください』


「これって、単なる浮気調査の依頼じゃないってこと?」目が訴えていた。

亜里沙は、野島の横顔を見ながらため息をついた。

「そういう事になるな・・・」野島が、刑事の眼で文面を追っている。

「こんなメールが入らなければ、しばらくは美沙緒の様子を見て見ないふりをしようと思っていたのですが・・・」

「奥様の最近の様子に、変わられたことがあったのですね」亜里沙が聞いた。

「私の仕事が忙しいせいもあって、一緒に外食をすることも無くなっていて・・・

子供もいないせいか、寂しい思いをさせていたのは事実なのです。

ところが最近は、美沙緒一人での外出が増え、かえって生き生きとした表情を見せるようになったのです。多少化粧ののりも良くなったような・・・」

美沙緒(みさお)という名前に、亜里沙の眼が泳いだ。

「山路さん、失礼ですが、どのような仕事をされていますか?」 野島が聞いた。

依頼人の生業を知るのは、かなり重要な要素でもある。

「通信機器メーカーのエンジニアです」

「随分と、こう言っては何ですが、堅い仕事というか・・・」野島の推測通りの人物であった。

「奥様は、どのような感じの人なのですか?」亜里沙が、遠慮がちに言った。

「妻は、結婚前から少々派手好きなところがありましてね、何が良かったのか、こんな私と一緒になってくれるなんて思いもよらない事でした」

「そうなんですね。今でも変わらず奥様を愛していらっしゃるのですね?」

「もちろんです。私にとって美沙緒以上の女はいませんから・・・」

野島と亜里沙は、目を合わせるとお互い視線をそらした。


「山路さん、今回のご依頼はどういうことに・・・」亜里沙が、確信を突いた。

ことによっては、刑事事件に発展しそうな案件でもあったのだ。

「美沙緒だとされている写真もまだ見ていませんし、彼らの要求が何であるのかも分かっていません。みなと探偵事務所さんには脅迫者の特定と私の身の安全をお願いしたいのです。よろしくお願いします」


しかし、結果的に山路の身の安全は確保したとはいえず、脅迫者の特定さえも出来ずに取り逃がすことになったのである。野島には珍しく失態と言えるものであった。

野島は、いま実際に目の前で展開された状況を理解するために、改めて山路から詳しい話を事務所で聞くことにした。脅迫者の真の狙いは何であったのか?単に金だけの要求であれば、美沙緒を脅かせば済む話なのだ。


「山路さん、ゴンドラの中で何があったのですか?」

野島は、単純な浮気調査が大きな謎を抱えた事件に姿を変えたことを実感した。

「あの時、ゴンドラに乗り込んで来たのは赤い服を着た女でした。でも、すぐに目隠しをされてしまったので、相手の顔は覚えていないのです」

「あなたの手に、赤いドレスが残されていたという事は、脱いでゴンドラから出たことは間違いがない。しかし、我々は最後まで赤いドレスの女を追ってしまった。

山路さん、犯人の声はどうだったんです?」

「間違いなく、女の声でした」

普通、一人の女がここまで念入りに計画を立て実行するなど、野島の経験からも考えられないことであった。

「女は、なんて言ったんです?」

「目隠しを少しずらされ、写真を見ることを強要されました。でも、写真が鮮明ではなく、男の上にいる女が妻であるかは正直判断しかねたのです。ここ数年、妻とは寝室も別で、よく覚えていなくて・・・、これは余計な事でした」

話を聞いていた亜里沙の表情が、すこし曇って見えた。

「相手の要求は何だったのです?」野島は、苛立たし気に聞いた。

「写真と交換に、会社で開発中の情報を渡せという事でした」

「開発中の情報に、何か思い当たることがあるんですね」野島は、断定をした。

「確かに、いま開発中のあるプロジェクトに関わっていまして、完成は間近なのです。詳しくは説明出来ませんが・・・」

「すると、犯人は奥様がターゲットというより、情報を手に入れるために利用されたと考える方が自然ですね」

「そこは、何とも・・・。妻の浮気もかなり前からのようでして・・・」

歯切れの悪い山路であった。

「では、アプローチを代えて、奥様の線から調査を開始しましょう。亜里沙、明日から奥様を追尾してくれ」

「分かりました」追尾は、亜里沙の得意分野と言えた。

「妻から、話を聞くのは、少し待ってもらえませんか?」山路は、不安を隠せなかった。

「山路さん、調査方法に関しては私たちを信頼して任せてもらえませんか。私は、奥様の気持ちを考えながらお話を引き出すつもりなので、どうか安心して下さい。

単なる心の迷いではなく、誰かに利用されている可能性もあります。ここは、一刻も早く真実を知る必要があるのですから」 亜里沙は、真摯に訴えた。


 2 調査開始


 山路の自宅は、新杉田駅から歩いて二分ほどの『ラ・ビスタ新杉田』4階にある。

山路弘和が出社してから、すでに二時間が経っていた。

週明けの月曜ということで、駅に向かう人波は途切れていない。妻の美沙緒の動きが週初めからある保証はなかったが、これも賭けである。調査は、短期間で終わるにこしたことはないのである。

 10時を5分程過ぎた頃、地下の駐車場から白のBMWが上がって来た。ナンバーは、間違いなかった。運転者の顔を写真の記憶とすり合わせる。間違いなく、美沙緒である。

亜里沙の赤いミニクーパーが後を追う。

BMWは、横須賀街道を北上し、桜木町駅前を過ぎると右折し、みなとみらい地区に入った。美沙緒の行く手に、『横浜グランドベイ・コンチネンタル』が見えた。

亜里沙にとっては、テリトリーとも言えるホテルである。

美沙緒は、二階のフロントには寄らず直接エレベーターに乗ると上にあがって行った。表示ランプは、27Fで降りたことを示している。

このホテルにおいて、27Fはクラブグランドベイ・コンチネンタルフロアと呼ばれクラブ会員専用階となっているのだ。企業が何らかの目的のために利用する頻度が高いのである。一般の主婦が会員であるとは考えられないが、合鍵を持っているのは事実であろう。


 亜里沙は、野島に連絡を入れるとここまでの経緯を話し、27Fの予約者名簿の入手を頼むと、5Fの支配人室にいるはずの支配人秘書西田清美に連絡を取った。

このホテルの中枢部はすべて5Fに集約されているが、宿泊客は知る由もなかった。

西田清美は第2話に登場し、ハマのフィクサーと呼ばれる小谷光秀からスパイとして送り込まれていたが、戸部署による反社の逮捕時に亜里沙の身代わりになったことから恩赦され、無罪放免扱いとなっていたのである。そして、秘書としての有能さから引き続き総支配人本城真の下で働いていたのであった。

「清美さん、亜里沙です。いま調査でこのホテルに来てるんだけど、一つお願いがあるの」「あら、亜里沙さん、元気だった? 何かしら……」

亜里沙は、願い事を手短に話すと清美の了解を取ることが出来た。また、野島から連絡が入り宿泊部課長を尋ねるように指示があった。

「クラブでご使用の部屋は、現在5室でしてこれが名簿です。くれぐれもお客様のご迷惑にならないようにお願いします。お世話になった野島様のご依頼ですが、今回限りという事で・・・」本来は、非公開の顧客情報という事で課長は釘を刺すことを忘れなかった。

 名簿には、大手企業名が4社ほどが書かれていた。これだけでは、美沙緒には結び付いて行かないのだ。しかし、一部屋だけは他とは明らかに毛色が違っていた。

名簿には、『韓国横濱領事館』とあった。

美沙緒との関係性が想像できないのは同じである。亜里沙は、またしても賭けに出た。


 清美に頼み込んで手に入れたホテルの制服に着替えた亜里沙が、2703号室のドアを迷いもなくノックした。息を整えると、上着が小さいせいか胸が苦しい。

「は~い」甘えた声のあと、足早にドアに近づく気配があり、躊躇なく開かれた。

ネグリジェ姿の女は、目を大きく開いたまま身動きが取れずにいた。明らかに

誰かを待っていた様子である。大きな胸が呼吸の度に隆起を繰り返した。

「お呼びになりましたか?」亜里沙は落ち着いた立ち姿で頭を下げた。

「よっ、呼んでませんけど!」女は、迷惑そうな様子で声を荒げた。

女は、美沙緒であった。40歳半ばには見えない若さがあり、女盛りといった印象である。依頼人の弘和との夫婦関係がかえって不自然に感じられるほどである。

「これは、失礼を致しました。御用の節は、ご遠慮なくお申し付け下さいませ」 亜里沙は慣れない日本語を話すと、長居は無用とばかりその場を速やかに離れた。

美沙緒本人の確認が取れれば、半分は役割を果たせたと言える。

エレベーターの扉が開くと、若い男が降りて来た。背が高く瘦せ型ではあるが、スーツの下の肉体は筋肉質であることが伺える。まさに、夫の弘和とは真反対の人物であった。亜里沙の視線は、無意識に男の後ろ姿を追っていた。疑いもなく、男は2703号室に消えていったのだ。


 二人がフロント階に現れたのは、三時間後のことである。久々に長い張り込みであった。愛し合う男女にとっては短く感じる時間も、所在なく一人で待ち続ける時間の長さに嫌気を感じ始めていたところであった。すでに、午後2時を回っている。

「助かったわ!」亜里沙は、思わずため息をついていた。

エレベーターを降りた二人は、示し合わせたように別々の方向に歩き出していた。

亜里沙は、当然男のあとを追う。男は若いと言っても、30歳後半であろうか。

充分男の色香を備えている。女として、美沙緒の気持ちも分からないではない。そんな男なのである。50歳の何処にでもいそうな冴えない男と、30歳後半のダンディとも言える男との勝負など無意味な話である。条件さえそろえば、垣根は簡単に越えられるものなのかも知れない。亜里沙は、その条件が何なのか興味は尽きなかったが・・・。


 男の白いレクサスは、山下公園通りを抜けると急坂を登っていった。この先には、『港が見える丘公園』がある。その交差点を右折し『外人墓地』を通り過ぎると『ヤマテクラブ』付近で男の車はスピードを落とした。亜里沙も気付かれないように、ミニクーパーを徐行させる。左手に、近代的ではあるが屋根が瓦敷きの特徴的な建物が目に入って来た。

まさしく『韓国横濱領事館』であった。レクサスは、警官に見守られながら広い敷地に吸い込まれるように入って行った。亜里沙は、自分が目にしたことが良く理解出来ないでいた。まるで現実感のない映画を観た後のような感覚であったのだ。


 3 美沙緒の告白


 若い男と、40歳半ばの女との組み合わせである。男女の愛に歳の差はないとはいえ、単純に割り切れる話でもなかった。偶然の出会いが、二人を強い愛で結び付けたのであろうか。これがもし事実であれば、それほど責められる話でもないと思う亜里沙がいた。もちろん、道義的な面が残されているとしてもだ。しかし、現実には、夫が脅迫文を受け取っているのだから、何かが隠されていると考えられる。

ごく普通の日本の主婦と、外国の領事官との逢瀬である。亜里沙は探偵であった。

真実を知りたいと思う心が、何よりも勝っていた。


 亜里沙は、午後4時に事務所に戻った。空腹に気付き、ランチを逃したことに今更ながら後悔をしていた。ホテルでの張り込みである。ハンバーガーを食べながらとはいかないのだ。

「いま、戻りました!」

「亜里沙、ご苦労さん!」野島は、亜里沙の顔を見てホッとした表情を見せた。

亜里沙は、今日のこれまでの経緯を話し、野島とこれからの調査方法について話し合った。

「今回は、やはり美沙緒さんの単純な浮気話ではない気がするの。相手が領事官だという事実から、何かに巻き込まれたと考える方が自然じゃないかしら」

「そうだな。美沙緒さんには失礼だと思うが、あまりにも不自然で不可解な話だ。

美沙緒さんを守るためにも、いま周りで起きていることを正直に話して彼女の考えを聞く方が想像するより結論は早いだろうな。亜里沙、明日はこの線でいってくれ」


 美沙緒は、美魔女と言っても良いくらいな、女から見ても充分に美しく魅力的な女性であることに間違いはなかった。しかし、既婚の女性と男の結びつきはそんな単純な理由では無いはずである。必ず、思いもよらぬ理由があるはずなのだ。

妻の夫に対する情熱の枯渇なのか、またその反対もあり得るのである。真実は、まだ明らかにされていない。探偵が必要とされる理由の一つがここにあった。

こんな言葉もある。『男と女の愛はミステリー、夫婦の仲はヒストリーである』


 翌日、野島は弘和のフォローにまわるという事で、亜里沙一人が美沙緒を尋ねることになった。気合が入ると、時間の進みが遅く感じられる。事務所の時計はやっと9時になったばかりである。少し早いと思いながらも、手は受話器を握っていた。

「わたくし、興信所の渡邊と申しますが、奥様でいらっしゃいますか?

少々奥様にお話をお伺いたいことがございまして、お電話を差し上げました」

「興信所って、どういうことですか?」

「奥様には、心当たりのあることだと思いますが?」

「………、分かりました」

美沙緒は、遅かれ早かれこのような事態が訪れることを覚悟していた様子であった。

亜里沙は、約束の10時きっかりに山路家のインタフォンを鳴らした。弘和が留守であることを予め調べておいた。

「どうぞ、お入り下さい」ドアが開かれるのと同時に中から声が掛かった。

人目を避けている様子である。亜里沙は、応接間に通されるとすぐ本題に入った。

「実は、弘和様からある件での調査依頼がありまして、その過程で奥様のある行動を知る事になったのです。弘和様は奥様を責めている訳ではなく、むしろ奥様の身の安全を心配しておられます。少しでも、いま弘和様が被っている事件の解決の糸口になればと、お伺いしたわけなのです」

「そうですか、何処かで見られていたという事なのですね。何時かは、こういう日が来るとは覚悟はしていましたけれど………それが、今日だとは………」

「弘和様には、全てを申し上げるつもりはありません。私は、奥様の味方です。

どうか、いきさつを私だけに話してもらえませんか?」

亜里沙は、美沙緒の出会いが仕組まれたものでは無く、偶然または必然であることを願っていたのだ。


「私たちは、結婚してから20年になるのかしら、あいにく子供は出来ませんでしたけど。夫は、真面目な性格で衣食住には何ら困らない生活をさせて貰っています。

その点では、すごく感謝をしているのです。

他人から見れば、何不自由のない生活の何処に不満があるのだと、お思いでしょうね。でも、人間の幸福感というのは人それぞれでしょ。突き詰めれば、何のために人生を生きているのかという事だと思うの。

3か月程前のことだったかしら、夫の部下であるという女から主人と別れてくれという手紙を受け取ったのです」

「ちょっと、待ってください!そんな、話聞いてませんけど………」

美沙緒の思いがけない告白に、亜里沙はショックを受けたのだった。

「知らないはずです。私は言ってませんのでね」

「そうでしたか……」

「でも、だからと言って『はい、分かりました』と、素直に別れてあげる理由もないのは、あなたにも分かるわね。確かに、20年も経てば『ときめき』など、紙に書いた字のように色褪せて、お互いに失っているのは当たり前のことです。      夫が日常に『ときめき』を求めて若い女に走ったのかどうかは分かりません。私は、あえて事実を知ろうとは思わなかったのです。

身体を動かすことで、心のバランスを取ろうと考えた私は、『コンチネンタルホテル』のフィットネスクラブに入会したの。その時に知り合ったのが、今の彼という訳なんです。

 私は、夫のために日常をしっかり支える代わりに、非日常においては本来持っている欲望に従って、素直に生きようと決めたのです。たとえ、短い時間であってもね。

もしかしたら、夫も同じ考えなのではと、思ったこともあったわ……。

渡邊さん、あなたは映画がお好きかしら?」

「ええ、好きですけれど………」

「映画でも、小説でも、主人公に感情移入することで日常の自分とは違う人の人生を生きることよね。これって、私はとても大事な事だと思うの。だから、芸術として存在するのね。

 彼と、顔見知りになるのに時間は掛からなかった。そして、ごく自然にトレーニングが終わった後に食事をする仲になって行ったの。ホテルでの出来事だし、それからのことは、大人のあなたなら想像出来るわね。

普通に考えて、40半ばの女に、まだ青臭いとも言える30後半の男が近づくには、 それなりの訳があるものだと覚悟はしていたわ。でも、夫には望むべくもない優しさで私を女として扱ってくれたの。これだけでも、私には充分だった……」

美沙緒は、男と知り合った経緯を隠さず語ってくれたと言えた。


「ところで、私の身の安全というのはどういう意味なんですか?」

美沙緒は、疑問に思っていたことを亜里沙に聞いた。

「誤解しないで欲しいのですけれど、まだ彼が事件の当事者とは決まっているわけではないのですが、ただ、奥様の交際写真をネタにご主人が脅迫されていることは事実なのです。このことで、彼が何者なのかを知りたいと、我々はご主人から調査依頼を受けているのです」

亜里沙は、現在分かっている範囲内の事実の説明に努めた。

「その彼の名前を教えてもらえますか?」

「工藤恒彦さんです。通信機器メーカーの営業をしていると言ってましたけれど」

「会話の中で、ご主人の話題は出ませんでしたか?」

「たまたま、夫と同じ業種という事で夫の会社が話題になったことが何回かあった気はしますけれど………」

美沙緒の話によって、初めて工藤と弘和が繋がった。

「美沙緒さん、まだ工藤さんと関係を続けるおつもりですか?」

「あなたは、どういう意味でおっしゃってるのかしら?」

「事実だけをお話します。工藤さんは、通信機器メーカーの営業ではありません。韓国の領事館勤務だと思われるのです」

亜里沙は、これまでの経緯を詳しく話してあげた。美沙緒の顔が美しく歪んでいる。

「嘘!うそよ! 私は信じないわ」

美沙緒の疑いの眼差しと共に、歪んだ沈黙がしばらく続いていた。


「………………………。」沈黙を破って、美沙緒が話し出した。

「結果的に、夫に迷惑を掛けることになってしまったのかしら…。

でも、最初から工藤さんの狙いがそこにあったとは考えられないの。私は、今でも

彼が真剣に愛してくれていると思っているわ。それは、私も同じよ。

亜里沙さん、明日工藤さんと会う約束をしているの。そこで、彼に確かめることにするわ。良いかしら? 例え、真実を知っても私は後悔しない。絶対に…………。」


 4 弘和の告白


 野島は、第三京浜を京浜川崎で降りると、右折し府中街道に入ると新丸子駅を目指した。山路弘和の勤務する『テルシステム(株)』は、駅前にあった。昭和34年創業の社員数100名あまりの業界では中堅メーカーとして知られている。業務内容は、無線通信用機器・超音波応用機器の設計ならびに製造が主なものであった。 弘和は、第一技術部のリーダーである。

「山路さん、ご休憩中のところ申し訳ありません」

「いえいえ、一時間ほど時間を取りましたので大丈夫です」

「その後、犯人からは何か接触はありましたか?」

「それが、ないのですよ」

沈黙はかえって、相手の出方が分からない分、不気味でさえあった。

「実は、山路さんを脅迫しているのは韓国領事館の関係者だと我々は推理をしているのですが、何か心当たりはありませんか? 開発中の情報というのが気になっているのですが・・・」

「さすがですね。もうそこまで調べられているとは・・・」

「韓国の関係者が欲しがっている情報というのは、国益に関する情報では?」

「そうですか、もう隠す必要もなくなりましたね。調査の手助けになるのであれば、話せる範囲内でお話しましょう。

『テルシステム』が、通信機器の設計開発が主な業務であることは、ご存じだと思います。私が、電気音響工学が専門であるという事から、防衛省から極秘プロジェクトの開発責任者として任命されているのです。新しいソーナー探知機の開発が主な目的です。専門的な話になりますが、国土を守るには、海中でいち早く相手を探知する優れたソーナー技術が必要とされる時代なのです。それが、我が社で研究を進めている『ビームフォーミング』という技術の転用なのです。

私の想像通り、彼らの狙いはこのデータを入手することが目的だったのです。事務所では、国家機密であることからお話することが出来なかったのですが、ここだけの話として受け取ってください」弘和は、自分の立場を顧みずかなり具体的に話してくれたと言えた。


 この成り行きを見ていたかのように、弘和の携帯にメールの着信があった。

「野島さん、これを見て下さい」慌てた様子で、弘和は携帯を手渡した。

『例の完成データをUSBに保存して、今夜中に奥さんのバッグの中に入れておいてください。もしこれが実行されなければ、奥さんの命は保証できません。

警察に届けても、結果は同じです。これが、最後の取引であることを願っています』

弘和の行動が把握されていることは、間違いなかった。協力者が、周辺にいる可能性があった。

「弘和さん、最近あなたの周りで以前とは違った変化が起きていませんでしたか?

例えば、新たな人間関係が出来たなどですが・・・」

「いえ、特にありませんが・・・、半年程前になりますか、新人の女性スタッフが

新しく配属されたくらいですね」

「そうですか・・・、ちなみに、その女性の名前は?」

「瀬川恵美くんですかね、それが何か?」

「いえ、特には・・・。弘和さん、偽のデーダを保存したUSBメモリーを犯人の言う通り奥さんのバッグの中に入れておいてください。明日必ず奥さんに接触してくるはずです。我々は犯人の実像を暴き、無事に奥さんを取り戻しますので安心して下さい」

「分かりました。どうか、妻を無事に・・、よろしくお願いします」


 5 工藤恒彦の正体


 翌日の朝、美沙緒は約束の時間に遅れることなく横浜グランドベイ・コンチネンタルに向かっていた。その後を追うように白いレクサスが走っている。野島は、距離を保ちながらも慎重に追尾する。

亜里沙はすでに、ホテルで待機中であった。

 美沙緒を乗せたエレベーターは、前回と同じく27Fで止まった。それを確認した男が、追いかけるようにエレベーターに乗り込んで行った。

野島は、しばらくフロント階で時間を潰すことにしたのである。慌てることは、なかった。美沙緒にとっても最後の逢瀬になるはずである。

このホテルの一室で殺人が行われるなど、考えられないことであった。男の目的は、

データを手に入れることのはずである。美沙緒の命を奪う必要性など、どこにもないと言えた。仮に顔を見られたという理由であれば、最初から接触しなければ済んだ話なのだ。

 男は、部屋に入るなり美沙緒を強く抱きしめると、いつもと変わらぬ愛の言葉を囁いた。「みさ、逢たかったよ。こんな時間が永遠であったなら、どんなに素晴らしい事か・・・」「私もよ、恒彦…」

「でも、残念なことに今日は時間がないんだ。みさ、先にシャワーを浴びてくれないかな?」

「分かったわ、じゃ~、私が先に浴びるね」

「僕もすぐ行くから、待ってて・・・」いつもと変わらぬ、言葉の前戯である。

浴室から、シャワーを浴びている音が聞こえ始めてくると、恒彦はすぐに行動に移した。案の定、美沙緒のバッグに手を差し込むと、探り始めていた。

罪悪感からか、USBを捜し出すことに思いのほか手こずっていた。

これが美沙緒との最後の逢瀬だと考えると、心が揺れた。こんな形で終わりたくないと思う恒彦がいたのである。しかし、恒彦の思いを嘲笑うかのように固いスティックを手が捜し出していた。いつしか観た洋画のエンドロールが既視性を持って蘇り鏡の中で重なった。

歳の差をこえた恋の残り時間も、わずかである・・・。

 

 恒彦は、浴室に美沙緒を追った。

突然の乱入に驚いた美沙緒であったが、恒彦に身を任せた。

強く胸を揉まれ、激しく唇が塞がれた。

恒彦のいつもと違う激しさに、美沙緒は早くも身体の芯が熱く燃え始めているのを

知った。恒彦の指が美沙緒の足の間の芽を捕らえていた。思わず、熱いぬめりが

シャワーと溶け合い股間を流れていく。

言葉にならない二人の喘ぎが、狭い浴室に広がっていった・・・。

恋の終わりを確信した二人の愛の昇華だったのだろうか、気が付くと二人は燃え尽きたままベッドの上に横たわっていたのである。

永遠だと思われた二人の時間が、現実に引き裂かれて行く・・・。


 美沙緒は、後ろ髪を引かれる思いを断ち切るように話出していた。

「恒彦、正直に言って、私を利用したの?」美沙緒は、シャワーを浴びるふりをして

すべてを見ていたのだった。

「今日、全てを話すつもりだった・・・」恒彦は、あえて否定はしなかった。

「どういうことなの?」

「残念だけど、今日初めて美沙緒を裏切ってしまった・・・」

「どういう意味で言っているのか、私にはまったく理解が出来ない」美沙緒の悲痛な叫びであった。

「美沙緒は、僕にとって掛け替えのない存在であることには疑いようもない。   でも、二人が異質な世界に住んでいる以上交差すべきではなかったんだ。はっきり言えば、逢うべきではなかった・・・」

「それなのに、なぜ私に近づいたの?」

「信じてもらえないだろうが、最初から、美沙緒との交際に他意はなかったんだ。でも、結果的にこんな世界にみさを引き摺り込んでしまった自分が許せない。心から謝るよ」恒彦の偽ざる告白であった。


 その時、ドアをノックする音が小さく部屋に響いた。

美沙緒は、急いでバスタオルを身体に巻き付けると小走りにドアに駆け寄った。

そこには、野島と亜里沙が立っていた。

「どうぞ、私達の話はいま終わったわ」

美沙緒は、情事の名残を消そうともせず二人を部屋の中に招き入れた。異変に気が付いた恒彦は、慌てて服を着ながら言った。その声は掠れていた。

「あなた達は、誰なんだ?」

「俺たちは、浮気の調査で伺ったと言えばいいのかな・・・」野島の目は、刑事の目そのものであった。亜里沙は、美沙緒に服を着るように促した。


「まず、通称工藤恒彦くん、本名を明かしてもらおうか」

「あんた達に、何の権利があるって言うんだ」

「キミが言いたくなければ、私が説明しよう。美沙緒さんのためにもね。

キミは、偶然を装って美沙緒さんに近づいたんだ。弘和さんを脅迫し国家機密を手に入れるためにだ。そして、今日指示通り美沙緒さんのバックに隠されたUSB を手に入れ目的を達成したキミは、美沙緒さんを抹殺することで証拠を隠滅する計画を立てていたんだ、違うかな? 妻の不貞に気が付いた弘和さんが、みなと探偵事務所に調査依頼を頼んだ。このことがキミにとっては誤算だったということだ」


この時点ですでに、野島は工藤が美沙緒に対して殺意を持っていないことを確信していたのであった。しかし、工藤を追い詰めることで、嘘偽りのない真実を引き出そうとしていたのである。刑事時代の手法の一つであったのだ。

激高した工藤が反応した。

「何を証拠に、でたらめを言うな!」

「キミは、韓国の領事館の関係者だよ」

「言いがかりだ!」最後の抵抗であった。

野島は、クローゼットから上着を取り出し、内ポケットに手を入れるとUSBスティックと財布そして、名刺入れを恒彦の目の前に突き出していた。

「このUSBは、キミにくれてやるよ。手ぶらで帰るわけにはいかないだろうからね。入っているデータは、最新のものではなく三年も前のものだけどな。     しかし、この財布と名刺入れは預かっておく」

野島は、名刺を抜きだすと読み上げた。

「朴智元(パク チウォン)韓国横濱領事館 秘書官 と、書いてあるがキミのことだろう?どうなんだ?」

「・・・・・・」

「普通、領事官がスパイ行為はしないだろう。どこの所属か言ってもらおうか」

「あなたは、僕には不逮捕特権があるのを知らないのか? 領事館に電話をさせてくれ」パクは、権利をかざして解放を迫った。

野島は、あくまで冷静であった。

「残念ながら、領事官は外交官ではないんでね。これに関しては、適用されない。

おまけに、正当な任務遂行ではなく日本を欺く国家的犯罪だよ、これは・・・」

野島の言葉に、パクは肩を落とした。


落ち着きを取り戻した朴に、野島は寄り添った。

「パクさん、俺はキミを犯罪者に仕立てるつもりはないんだ。警察でもないしな。

事実を話し、二度と山路夫妻に近づかないことを約束してくれたら、解放してやってもいい。どうだ? 少しは、話す気になったかな?」

「ほんとに、解放してくれるのですね?」

パクは、真実を話す覚悟を決めたようである。

「推測の通り、僕はANSP(国家安全企画部)所属の人間です。横浜生まれの在日二世で国籍はハングクですが、気持ち的には自分は日本人でもあると思っているのです。しかし、日本での両親の苦労を考えると、祖国のためにも何か役に立ちたいという思いから領事館に勤めることにしたのです。仕事にも慣れ数年経った頃です、祖国は日本におけるスパイ活動を強要してきたのです。ハングクにいる両親を盾にされると、断ることなどとても出来なかった。任務はご存じの通り日本の飛躍的に進歩したレーダー探知システム『ビームフォーミング』の最新データを手に入れることでした。

美沙緒さんと、ホテルのフィットネスクラブで会ったのは、全くの偶然でした。

計画的なものでは無かったのです。気心も知れ一緒に食事をしながらの会話の中で、夫が『テルシステム』の技術者であることを知ったのです。

私の心は揺れました。この偶然を生かして有利に計画を進めるべきだと思う心と、

美沙緒を引き摺り込んではならないとする心の葛藤でした。美沙緒を愛していたからです。夫のいる女性なのは、分かっていました。でも、愛してしまった・・・。

信じて下さい。美沙緒の命を交渉ごとに使うなんて一度も考えたことなどなかった。

でも、最後のデータの受け渡しで、美沙緒を裏切ってしまったのですから、もう、

愛する資格など失ってしまっている・・・」


「恒彦、あなたの話を信じるわ。誰が何といおうと、私だけは信じてあげる」

美沙緒は、恒彦の手をそっと握り絞めた。

「ありがとう。少しは救われる思いだよ」美沙緒の手を、力強く握りかえした。

「分かった。僕もキミを信じよう」野島も、亜里沙と目を合わせると続いた。


朴は、さらに話を続けた。

「しかし、最近耳を疑うような指令が祖国から出されたのです。

それは、手に入れたデータを中国領事館の人間に渡せと言う内容だったのです。

結果的に、自分は人民解放軍の中の海軍の手先として利用されていたことになった。

僕は、自国の利益のためなら命を捨てられたとしても、これが事実なら大韓民国も随分馬鹿にされたものです。もはや、任務など、どうでも良くなっていたのです・・」


「パクさん、よくここまで話してくれた。君にも大儀があったという事だな。

しかし、平和に暮らしている一般の人々を巻き込むことは、大儀でも何でもない。

単なる犯罪行為だと知るべきだよ。

人民解放軍の狙いは、想像がつく。第一列島線と呼ばれる沖縄・尖閣諸島を手に入れるためには、海を制することが必要になる。そこで、潜水艦に搭載可能な『ビームフォーミング』に目を付けた。本来ならば、日本とキミの国が力を合わせてこれらに立ち向かうべき時だと思うな。キミ達のような新しい考え方をする人間に将来を託すしかないとは思うが・・・」

 野島は、寂しくも現代の権力の犠牲者となった朴の未来を憂いた。


 6 赤いドレスの女の正体


 美沙緒は、恒彦との別れを惜しむように話し出した。

「朴さん、私にとっては恒彦さんのままでいいね。              、私はあなたから、楽しい思いをいっぱい貰ったわ。ありがとう。             

女は、いつでも自分の価値を化粧する鏡を見ながら模索しているものなの。日一日衰えていく肌に、女としての諦めも重なっていく。男の人には、分からないと思うけれど・・・

 でも、非日常の中で、失われてしまったと思っていた自分の価値に気付いた時に, 女は、一気に花開いて、美しさを取り戻していくものね。幸運にも私も気付かされた一人だった。恒彦にね。

私は、恨んでもいないし、恒彦には感謝の気持ちしかないわ。これまでの恒彦と過ごした時間、大切な思い出としてこれからも楽しく生きて行くわね」

「ありがとう、美沙緒さん・・・」朴は、安心した様子で見つめていた。


  突然、朴は、野島の顔を見るなり思い出したように話出した。

「野島さん、僕は気になっていることがあるのです。弘和さんと何回かメールをやり取りした中で、弘和さんが思いがけない条件を出して来たことがあるのです」

「何回ぐらい、やり取りしたんだ?」

「確か、10数回はしています」

「俺が見せられたのは、2回だけだな・・・」

「朴さん、そのやり取りを見せてくれないか?」

「残念ながら、削除してしまいました・・・」

「大事なことだ、間違いない事だろうね!」野島は、迫った。

「本当です。僕は、美沙緒さんの身を案じて・・・」

「恒彦、何のことを言ってるの?」美沙緒は、思わず声を出していた。

「確認するが、キミは瀬川恵美を知ってるか?」

「いえ、知りません。誰ですか?」

野島は、瀬川恵美が組織から送り込まれた人物ではないかと、疑っていたのだ。

「分かった! その思いがけない条件とは何だったんだ?」

「弘和さんからのメールは、データは渡してもいいが、見返りに美沙緒を消して欲しいという内容でした」

「嘘だわ! 嘘、信じられるもんですか!」美沙緒の顔が歪んだ。

「もちろん、僕は即座に断りました。美沙緒を愛していましたし、第一殺す必要などどこにもないのですから。自分の妻の殺害を依頼するなど、信じられませんでした」

「夫は、何て返してきたの?」美沙緒は、震える声で聞いた。

「すると、今のメールは、冗談だ。データは間違いなく渡すから、今のやり取りはすぐ削除するように指示されたのです。これは、残念だけど本当のことなんです」 朴は、美沙緒の肩を優しく抱くと、思いに寄り添った。


「亜里沙、すぐ瀬川恵美に会って裏を取るんだ。瀬川がすべてを知っているはずだ。

手遅れにならないうちに、証言を確保するんだ」

「了解です。美沙緒さん、ごめんなさい。わたし出かけるので……」

「朴さん、2,3日美沙緒さんと一緒にいてもらえないだろうか?」

「分かりました」朴は、美沙緒を見つめながら静かに言った。

野島は、美沙緒の安全を朴に託すと、旧知の加賀町警察巡査部長古畑のもとに向かったのである。


 亜里沙が、新丸子にある『テルシステム』に着いたのは、午後2時を10分程回ったころであった。受付で第一技術部の瀬川恵美の親戚のものだが、至急呼び出して欲しいと慌てた様子で願い出た。受付嬢は、亜里沙の言葉を信じたようである。

瀬川恵美は、20代後半に見える大柄な女性であった。亜里沙を見て、警戒心が浮かんでいる。

「瀬川恵美さんですね。私は、渡邊亜里沙って言います。山路さんとの関係のことでお話を聞きたいの。心配しないでいいのよ。あなたを助けてあげようと思って来たの。どこかで、少し話せる場所はないかしら?」

恵美は、亜里沙の物腰に少し安心した表情を見せた。

「ちょうど、いま会議室が空いているので、そこで良ければ・・・」

「もちろんよ」

亜里沙は、美沙緒を巡る出来事を掻いつまんで話すと、恵美の表情が明らかに変化した。大きな目に涙が滲んでいる。

「あなたは、山路さんに無理やり強要されたのね。それも卑劣なやり方で・・・」

恵美はテーブルに顔を伏せながら泣いた。亜里沙の手が優しく肩に触れている。

ひとしきり泣いた後、恵美は話し始めた。

「私がこの会社に採用されたのは、半年前のことでした。以前勤めていた会社から業績不振を理由に解雇されたのです。私には、すでに両親も他界し兄妹も多い事から

すぐに生活費にも困ることになったのです。でも、なかなか見つからなくて………。

そんな状況でしたから、採用が決まった時にはうれしくて涙が出る思いでした。

山路と関係が出来たのは、歓迎会とは裏腹の二人きりの食事会の夜だった。

お酒が飲めない私が気が付いた時には、すでにベッドの中だったのです。お前の首は

俺が握っているというのがあの人の口癖でした。私も覚悟を決めたのです。

奥さんがいるのですから、月の何日か我慢すれば、とりあえずの生活は守っていけるはずだと。私も、正直山路さんを尊敬している部分もありましたので ………… 」   


「一つ聞くけれど、コスモクロックで赤いドレスを着ていたのは、あなたね?」

「はい、私でした………。山路から、コスモクロックに乗せてあげるから赤いドレスを着てくれと言われた時には、いつものプレイの一つだと思い従ったまでだったのです。あの時、探偵さんが張り込んでいたなんて、わたし思いもよらなかった……。」

「最後に聞かせて、奥様の美沙緒さんに手紙を送ったのは、あなたの意志なの?」

「違います。人の家庭を壊してまで自分が幸せになりたいと思ったことなどありませんから……」恵美は、強く否定したのだった。

「ありがとう、恵美さん。断片的だけどいくつか理解することが出来たわ。私が、 山路との縁を切ってあげる。いいわね?」

「はい、……。」


 7 山路和弘との対決


 野島は、加賀町警察の古畑を訪ねると助言を求めた。

「古畑くん、今までにこのような事案はあったかな。俺は、経験がないのだが」

野島は、これまでの経緯を説明すると、古畑に判断を仰いだのであった。

「部長、これは多分『教唆の未遂』に当てはまる事例だと思われます。教唆犯が殺人を依頼したが、実際には正犯者が犯罪行為に着手しなかった場合です。対象となった人物も無事であったなどの条件はありますが・・・。仮に、教唆の証拠を重ねても摘発は難しいでしょうね」                          教唆とは、他人をそそのかして犯罪の実行を決意させることである。

「そもそも当事者である韓国の領事官が日本の法廷に立ち、証言することなど現実的ではないですね。スパイ行為を認めることになりますからね」

古畑の助言は、真っ当であった。

「やっぱり、摘発は難しそうだな。しかし、事件は解決したとしてもこれで済ます訳にはいかないだろう。(第一、読者が納得しない)」野島の決意であった。


 野島と亜里沙は、山路の帰宅時間を考慮して夜半にマンションを訪れた。

「これは、突然ですね。良かった。ちょうど今、野島さんに連絡を取ろうと思っていたところでした。美沙緒のことが心配で何度も電話をしたのに出ないんです。

美沙緒は、大丈夫なんですか?」弘和の表情は、疲れ切っているように見えた。

「無事です。安心して下さい」

「美沙緒はいま、何処に?」

「しばらく、ホテルに留まるように言ってあります」

「・・・? データは、間違いなく相手に渡ったのですね?」

「山路さん、今回のあなたの目的は何だったのです?」

「もちろん美沙緒を、あいつ等から守るためですよ」

「あいつ等とは、誰なんですか?」

「良くは知らないが、暴力団か、何かでしょう」

「山路さん、あなたは知っているはずです。交渉先が韓国の領事館の関係者であることをね。彼らが、データを入手するためにあなたに近づいたのは事実です。

しかし、その交換条件は、多額の現金であったはずです。レベルの低い反社の連中とは違って、今どき人質を取ってその解放を交換条件にするなど、映画の世界じゃあるまいし、あり得ない話です」

「何を根拠に、でたらめを言うのもいい加減にしろ!」山路は明らかに豹変した。

「今回のストーリーを描いたのは、あなたです!」

「証拠を出せ! 証拠を!」

「領事官の携帯に、あなたの殺人教唆の証拠が残っている。対象者はあなたの妻である美沙緒さんだった。当然美沙緒さんは、無事に生きているのだから殺人未遂事件の扱いになる。ただ私は、あなたを『教唆の未遂』罪で告発しようと考えていたんだが、それは思ったより難しいというのが結論だ。しかし、あなたの失ったものは、大きいはずだよ。ここは、全てを正直に話して懺悔を乞うのが人の道ではないかな?」

「野島さん、残念なことに、あなたは私が考えていた以上に優秀だったという事だよ。石川町のあんな汚いビルの探偵事務所なんか、どうせ大した調査もしないだろうろうと思って飛び込んだんだよ。とんだお門違いだった」

「汚いは余計だろう。なぜ、探偵を使おうと思ったんだ?」

「それは、目的が達成された時に、証言してもらうためだった。最愛の妻を亡くしたかわいそうな夫を演じるためには、必要だと思ったのさ」

「山路さん、時間も遅い。そろそろ何があなたを『殺人教唆』に追い込んだのか

話してもらいましょうか?」

「ほんとに、告発しないと保証してくれたなら話してもいいが・・・」

「分かった。保証しよう・・・」


「そもそも、どんなに愛し合って結婚しても、20年も経てばただ一緒に暮らしてるだけの同居人に成り下がるのさ。愛し合っていたことさえ、忘れてしまう。

美沙緒も昔は、私に対して気遣いの出来る女だったんです。それが最近は、あたかも

私が存在していないかのような態度を取るようになった。まぁ、私が仕事にのめり込み過ぎて、美沙緒を構ってあげられなかったことも原因の一つであるとは思いますが・・・。

6か月程前のことです。瀬川恵美が入社してくると、私の世界が大きく広がったように思えたのです。この私を必要とする新たな人間の出現でした。恵美は、幼いころに父親を亡くしていたせいか、ずっと年上の男が好みだと言ってくれたのです。   私は、彼女に夢中になりました。二人が、恋仲になるのには大した時間がかからなかった・・・」

「嘘でしょ? わたし、頭がおかしくなりそう」亜里沙の偽ざる気持ちであった。

恵美の告白とは明らかに違っていたのである。

「亜里沙、とりあえず、最後まで聞こう」野島に促されると、再び話始めた。

「一か月前のことです。韓国の領事官と名乗る男が接触してきたのです。目的は、ご存じの通り『ビームフォーミング』技術の新しいデーダを手に入れることだった。 交換条件は、5、000万円と引き換えということでね。もし、このことを他言すれば、美沙緒の恥ずかしい写真が公になると釘を刺されたんだ。私は、困り果て結局恵美だけには相談をしたのです。彼女の結論は、驚いたことに美沙緒を殺してもらえれば、もっと多きな金額を手に出来るし、一挙両得になると、提案してきたのです。

私は、もちろん反対しましたよ。でも、最後は恵美に押し切られる形になって、交換条件として男に伝えたのです。しかし、男に強く拒否された時は、正直心底安心したものですよ」


「大きな金額とは?」亜里沙が聞いた。

「美沙緒にかけてある生命保険で、一億円です」

「受取人は?」

「私ですけど・・・」

「良かったわね、殺されなくて・・・」亜里沙は、皮肉を込めて言ったのだ。


 弘和の話が真実であるとするならば、『教唆の主犯』が大きく変わることになる。主犯が瀬川恵美になり、山路弘和が共犯者である。未遂に終わったことで、

二人に待ち受けていただろう過酷な未来が修正されることになった。

ここに、調査の限界があったのだ。みなと探偵事務所は、捜査権を持っていない。ましてや、逮捕権もである。彼らの話はあくまでも告白であり、供述ではないのだ。 告白は事実に沿っていなくても、罪とはされない。

みなと探偵事務所の定款は、人を裁くことではなく、あくまで依頼人の求める調査にあったのである。



 8 『景徳鎮』での対決


「朴さん、この任務が終ったあと、キミの処遇はどうなるのかな?」

野島は、朴の将来を杞憂していたのだ。

「ANSP(国家安全企画部)は、この任務が成功裏に終わったならば、本来の

領事官に戻っても良いと言ってきています。僕としては、このまま日本に残り

両国の関係改善のためにこれからの人生を捧げたいと思っているのですが・・」

「分かった。みなと探偵事務所も、もう一頑張りするか、な、亜里沙!」


 10月も下旬になると、大分日の暮れるのも早くなる。この時間になると、関帝廟

通りも人影まばらである。時折冷たい風が吹き抜けていく。

コートの襟を立てた朴は、左に曲がり香港路に入ると『景徳鎮』に向かった。

二階の個室に案内をされると、そこには二人の男が待っていた。

中国大使館一等書記官の李春光と機関員按搭明である。

「朴さん、今回のあなたの働きに感謝です。無事に手に入ったようですね」     60歳絡みの小柄な李が、朴の労を労った。

「一つ確認したいことがあります。李さん、なぜ我が国があなた達のために危険を冒してまで、働かなければならないのですか?」朴は、率直な疑問をぶつけた。

「日本が共通の敵であると考えれば、我々は同志という事になるのです。違いますか?いわば、助け合いの精神ですよ。ANSPの指示はそういうことなのです」

「私には、日本が敵国であるという認識はありません。ましてや、民間人を犯罪に巻き込んでまで、無意味な情報収集活動をするなど言語道断だと思うのです」

「あなたも随分青臭い考え方をしていますね。自国の利益のために働くことの何処が悪いのです。オフィシャル・カバーといって、民間企業の持つ軍事利用可能な技術の収集など当たり前のことです。これは、何処の国でもやっていること。

それより、過去にあなたの国が受けた屈辱を悔しいと思わないのですか?それが、あなたの国の教育方針のはず、勉強が足りないよ!」一等書記官は、言い放った。


「あなたの国に、言われる筋合いはありません!」朴は、強く返した。

「つべこべ言わず、美味い飯を食べる前に、渡してもらいましょうか?」

「私は、あなたとの食事は遠慮します!」

朴が、上着の内ポケットからUSBスティックを取り出し、まさに李に手渡そうとした時に事件は起こった。

給仕のために現れた女給仕の肩に手が当たると、スティックが羽が生えたように

舞い上がり熱い中華スープの鍋の中に落ちて行ったのである。

「愚人!(愚か者)」李が、吠えた。

「済みませ~ん、すぐ作り直しますので~」

謝りながら、女給仕は素早く階段を降りて行った。

「おんな、持っていくんじゃないよ! 何てことよ。按、早く追っかけて!」

按が熱いスープ鍋の底からUSBを取り出すと、李に手渡した。USBからは、

湯気が上がっている。

「按、急いで帰るんだよ!」李の悲壮な声が店に響いている。

二人の帰る先は、大使館内の国家安全部の出先機関であることは明らかである。

スリットの入ったチャイニーズドレスを着た女給仕は、亜里沙であったのだ。

「朴さん、上手くいったみたいね」

「亜理紗さん、ジャストタイミングでしたね」

野島は、朴からデータの引き渡し場所が『景徳鎮』であると聞かされた時に思い付いた計画であった。鍋の中に落ちたUSBは、速やかに意味のないデータが入ったスティックに取り換えられていたのである。たとえ以前の古いデータであったとしても、いっさい渡すことを拒否する姿勢であったのだ。

「朴さんがUSBを李に渡そうとしたのは事実だし、あれは不可抗力よね。誰からも

責められる筋合いはないわ」

厨房から様子を見ていた野島が顔を出した。

「朴さん、これですべてが丸く収まるわけでもないだろう。しかし、県警の警備部に

今回の経緯を話せば、少しは彼らの報復を抑止できるかも知れない」

実際、今回の事案に中華人民共和国の国家安全部の関与が推測された場合、この情報は警視庁公安部外事第二課に引き継がれる可能性があったのだ。

「両国の未来には、君たちのような新しい世代の努力が必要なのは間違いのない事だ。期待しているよ、朴さん」

「野島さん、亜里沙さん、ありがとうございました。頑張ります」


 本来、一人ひとりは、話合えば理解し合える良き隣人なのであろう。人間の持っている本質など国が変わろうと違いはないはずである。しかし、組織や政治が絡んでくると人間の本質が歪められ、ミスリードされて行くのだ。そんな組織や政治の存在を許さないことも個人の大きな責任の一つであると思うのである。


 9エピローグ


 後日、美沙緒の姿がみなと探偵事務所にあった。

「この度は、本当にお世話になりました」

「いいえ、ところで弘和さんとは……?」亜里沙が、聞いた

「当然、出て行ってもらいましたよ。いつ殺されるか分からないんですもの…。

例え、悪い女にそそのかされたと言っても、許せませんから…

お互い、ときめきは失っていたとしても、日常の世界では情愛は感じていたのです。

それは、世間一般のご家庭も同じようなものだと、思いますけれど…。でも、今回の件で完全にそんな感情も霧のように消えてしまいました。

私には解放されたことで、明るい未来が待っています。失うものは何もないのですから。弘和にとっては、苦難の人生の始まりではないかしら…、本人は、もてたつもりでいるでしょうけど、若い女が何の目的もなく近づいて来るものですか…………。」


「はぁ、そうかも知れませんけど……」亜里沙は思わず、野島の顔を盗み見た。

「女は、強しだな」野島がポツリと呟いた。

「いえ、私はそう思ったことありませんけど~!」亜里沙の表情に、野島は愛層をくずした。温かい空気が部屋いっぱいに広がって行ったようである。

「ところで今日は、調査依頼人の弘和に代わってお支払いに来たのですけれど、おいくらかしら?」美沙緒の訪問の目的であったのだ。

「え、美沙緒さんが、お支払いを? ありがとうございます」

亜里沙が、いつものように野島の横顔を伺いながら言った。

「基本料金の30万で、お願いします」

「お二人で、調査対象以外でもご活躍されたのに、この金額でよろしいのですか?」

「はい、ではお言葉に甘えて、プラスランチの奢りという事でいかがでしょうか?

美沙緒さんも、随分といい思いをされたと思うので……。」

「分かりました。お支払いしますわ」

亜里沙の提案に、明るい笑い声が広がって行った。


 総括


 朴智元は、ANSPから任務を解かれ韓国横濱領事館で日韓の新しい未来のために精力的に活動しているそうだ。スパイ容疑で立件すべきであるという声のある中、県警警備部は、実害はなかった点と中国ルートの解明に協力することを条件に、立件を見送っていたのである。一方、山路弘和は、会社からデータの持ち出しを糾弾され、解雇された。交換条件の5,000万円も、もちろん手にはしていない。公安警察の情報によると人民解放軍に拉致されたようであるが、単なる噂であると信じたい。

瀬川恵美は、新任の第一技術部リーダーに取り入ると、早くもその才能を発揮しているそうである。赤いドレスの出番はあるのであろうか。気になるところである。



 この港街にも、自粛の影響は広がっている。

人々が、安心して暮らせる日常に戻るには、後どのくらいの月日が必要なのだろう。

いつか、振り返った時に苦労話として、懐かしく語り合えるのだろうか?

今は、いつか来る日を信じて日々暮らしていかなければならない現実がある。

人は、ふれあうことで相手の心のありようを理解し、愛することの意味を知る。

早くそんな日々に戻れることを祈る野島と亜里沙であった。



おわり

































 














 






 










 












 







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