第80話:ダルべルド
「召喚魔術について知っている事を全て話せ。
一切の隠し立ては許さない。
それと、異世界に戻る方法も知っている全てを話せ。
異世界を往復する方法も研究していたはずだな、それも全部話せ」
俺は完全に支配下に置いたエルズミア伯爵トマスに厳しく問いただした。
ステータスに魔術狂と現れるくらいだ。
ありとあらゆる方法を研究していたに違いない。
サザーランド王国首脳部が無策なまま勇者召喚を行うはずがないのだ。
召喚した勇者がとても危険な存在だった場合、即座に追い返すしかない。
当然その研究をしていたはずなのだ。
俺はトマスを左腕に抱えて話を聞きながら、古代火竜と戦っていた。
いや、戦うというよりは誘導していた。
4人の勇者と魔術士たちにサザーランド王国首脳部を滅ぼした。
だが残った将兵まで殺させるわけにはいかない。
だから狂乱状態の古代火竜を挑発して砂漠の方に誘導していた。
砂漠はとても広いから、人間や動物の被害はほとんどない。
激減した魔物の生き残りが古代火竜のブレスで焼かれるくらいだ。
もし古代火竜が正常な状態での戦いなら、飛行されて困っていただろう。
高所恐怖症の俺は、空中戦をすることができない。
やったとしても上下左右の感覚が分からず、立体機動で戦う事ができない。
古代火竜から一方的に攻撃されていただろう。
「パーフェクトステータスリカバリー、パーフェクトステータスリカバリー」
俺は念のために状態異常を快復させる魔術を2度詠唱した。
普通なら英雄の俺が唱える魔術は1度で十分な効果を表す。
だが、今回は異常過ぎる状況で狂乱になっている。
敵対する相手に支配下に置く魔術2種類を2度重ね掛けされて、それに抵抗しようとして狂乱状態になっている。
しかも古代火竜という超希少で強力な種族がだ。
「パーフェクトステータスリカバリー、パーフェクトステータスリカバリー」
古代火竜はブレスを吐かなくなり、俺を追いかけるのも止めているが、憶病な俺は念のためにもう2度状態快復の魔術を詠唱した。
「ステータスオープン」
信じられない事だが、古代火竜が竜の姿のまま人の言葉を話した。
いや、もしかしたら竜の言葉なのかもしれない。
異世界召喚特典で自動翻訳されているのかもしれない。
そんな事はどうでもいいのだが、勝手にステータスを見られるのは腹が立つ。
「ステータスオープン」
今度は俺が古代火竜の状態を確認するためにステータスを見てやった。
古代火竜は狂乱状態から快復している。
なんか古代火竜が姿勢を正したように見えるが、何なのだろうか。
「どこの何方かは存じませんが、助けていただいた事、お礼申し上げます。
お陰様で薄汚い人間に支配されることなく、狂気からも解き放たれました。
ありがとうございました。
申しくれましたが、わたくし、ダルべルドと申します。
以後お見知りおきください」
人間の事を薄汚いと言われても反論できないのが哀しい。
確かに人間はとても醜悪な性質な者が多い。
特に今この場で、人間が古代火竜を魔術で操り人形や奴隷にしようとした直後だから、全く反論のしようがないのだが、同じ人間の俺に言うのは気が利かなすぎるぞ。
それとも、ダルべルドには俺が人間以外に生き物に見えるのだろうか。
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