第56話:情報収集

「いらっしゃい、いやっしゃい、いらっしゃい。

 水はいらないか水は、魔力で創り出したきれいな水だよ」


 市場では威勢のよい売り子の声が響いているが、モノは売れていない。

 だが、売り子の顔に不安や焦りの表情はない。

 売れない水は家に貯めておけばいい。

 この国で水を溜めておく事は日本で貯金しているのに等しい。

 水こそ、この国の主軸通過と言えるのかもしれない。

 これまでは。


 これからこの国の制度は大きく変わるかもしれない。

 俺がもたらした変革が、この国を一時的に苦しめてしまうかもしれない。

 地下用水路を引いた事で、この国は水に困らなくなる。

 水を貯金していた人には貨幣暴落に等しい事だろう。

 だが、水が手に入らなくて渇死する人が出るよりはいいと思うのだ。


「やあ、おばちゃん、今日も水を売ってもらいに来たよ」


 俺はいつも通り必要に水を買いに来た。


「やあ、いらっしゃい、いつも買ってくれてありがとね」


「おばちゃんの創る水は美味しいから当然だよ。

 ただちょっと砂漠で狩りをする時間が増えてしまったから、これからは猟師団の部下に買いに来てもらう事になるんだ、よろしく頼むよ」


「後ろにいる人たちだね、顔を覚えておくよ。

 しかし心配だね、そんなに砂漠の魔物の数が減っているのかい。

 サザーランド王国もしつこく責めて来ているんだろ。

 食糧不足になっちまうんじゃないかね」


「それは大丈夫だと聞いているよ、おばちゃん。

 サザーランド王国に攻撃に対して、王家は宣戦布告をしたそうだし、砂漠樹の実を渡さなくなったそうだよ。

 魔物が獲れなくて食糧が不足したら、王家が砂漠樹の実を配給してくれるよ」


「そうなのかい、だったらうれしいね。

 またあの美味しい砂漠樹の実を食べられるのならうれしいよ」


「その時にはサザーランド王国と戦わないといけないけどね」


「任せときな、私が兄ちゃんを護ってやるよ。

 これでも毎日戦闘スキルを鍛えてるんだよ」


「いやぁ、俺たちも毎日魔物相手に鍛えてるから大丈夫だよ。

 おばちゃんたちは王都を護っていてくれた方が、俺たちも安心して戦えるよ」


「あっはははは、そりゃそうだね」


「話しは変わるけど、この国にデザートワームの伝説は伝わってないかな」


「デザートワーム?

 あのバカでかいバケモノの事かい。

 聞いた事ないねぇ」


「デザートワームに限らず、強大で長生きな生き物の伝説を知らないかな。

 神でも竜でも精霊でも魔物でも構わない。

 なんなら召喚された勇者の話しでもいいんだ」


「う~ん、聞いた事ないねぇえ」


「他の人達にも聞いておいてくれないかな。

 もしおもしろい伝説があるのなら、本にして残しておきたいんだ。

 もし誰かから聞き出してくれたり思い出してくれたりしたら、お礼に大型ワームの皮をあげるからさ、頼むよ」


「そりゃ本当かい、1枚丸々くれるのかい」


「ああ、1匹分の皮を丸々お礼に渡すよ」


「そりゃ一財産だね、分かった、聞いておくよ」


 俺は市場にいる全員から情報を集める勢いで買い物をした。

 欲しくもないモノも大量に買った。

 とはいっても貴金属を代価に購入するわけではない。

 砂漠で狩った魔物の素材で物々交換するだけだから、損はない。

 猟師団の配下にも情報収集に動いてもらった。

 どうしてもデザートワームの正体を知りたかったからだ。


 呪いで身体を変化させられ、名前もスキルも奪われたというデザートワーム。

 デザートワームが悪い生き物なら、絶対に元に戻してはいけない。

 だが、悪人によって呪いをかけられているのなら、元の姿に戻してやりたい。

 いくらなんでもワームに姿を変えられるのはかわいそうすぎる。

 それに、俺の知るおとぎ話では、大抵悪い奴が善人に呪いをかけている。


 だがそれはあくまで日本で俺が知っている範囲のおとぎ話だ。

 この世界では正義の味方が悪人に呪いをかけているこ事もあり得る。

 まあ、その場合は呪いとは表記されずに天罰や神罰と表記されると思う。

 そうは思うが、間違って取り返しのつかないことになってはいけない。

 王宮の書庫を片っ端から調べるほかないかな。

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