第2章
第25話:寒村
「俺は旅の商人だ、ここを開けてくれ」
俺はようやくたどり着いた小さな村の前で大声を出して呼びかけた。
村は石と木で造られた城壁で護られている。
いや、城壁というのは大げさかな。
戦国時代の事を知っている人間なら、城や城壁が立派な建物ばかりではないと知っているが、普通の人は城や城壁と言われたら石造りの立派なものを想像するからな。
「なにもんだ、てめえ。
こんな所までやってくる商人なんかいやしねえぞ。
だます気ならもっと考えてしゃべるんだな」
中年くらいかな、それとも意外と若いのかな。
衣食住に苦労すると、老けて見えるからな。
話の内容からすると、とんでもない僻地の村のようだ。
こんな場所だと、国どころか領主にも護ってもらえないかもしれない。
ろくに畑もなさそうだし、税の取れない所を護るような為政者はいないからな。
金にならない所に行商人が来る事もないか。
「ここは何という村で、どこの国に属しているのですか」
「そんな事を話す必要などない」
これは困ったな。
どうしてもこの村と関係を持ちたいわけではないが、できるだけ効率的にやりたいから、どこに主要な街があって、欲しものがどこで手に入るかは知りたいのだ。
苦労して作ったであろう門や塀を破壊するのは、俺の性分ではない。
下手に破壊して、修理する前に魔物や獣の襲われて、村人が死んでしまったりしたら、思いっきり自責の念に心を痛めることになるだろう。
「私は本当に商人なのですよ。
広い砂漠をようやく横断してここにたどり着いたのです。
別にあなた方をだまそうとしているわけではありません。
商売ができる大きな街の場所が知りたいだけなのです。
教えてくださるのなら、物々交換で商売させていただきます。
まずはこの村の名前と属している国の事を教えてください」
「何度も同じ事を聞くな、こんな僻地の村に名前なんかねぇ。
所属している国だと、税が払えなくて逃げてきた者たちに国なんてねえ」
なるほど、隠れ里と言うべき存在なのだな。
平家の落人伝説にあるような、人跡未踏の山奥にある村。
国の役人に見つかれば皆殺しにされると恐れて、他の人間とは一切かかわらないようにしている村なのだろう。
まあ、平家のような身分のある者ではなく、税の払えなくなった平民だけど。
それにしても、結構気のいい人なのかもしれないな。
本当なら一番隠さなければいけない事を話してくれている。
「では村の名前も国の名前も教えていただかなくて大丈夫です。
商売ができそうな大きな街の場所を教えてください。
教えて下さったらな、物々交換で商売をさせていただきます。
そう言う事情なら、不足している物も多いのではありませんか」
「なに、不足している物だと……
村長が来るまで待っていろ」
やれ、やれ、時間のかかる事だ。
こういう場合の定番は、緊急に必要な命にかかわるような品物がなかったり、急病で死にかけている人がいるのが定番だよな。
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