母という存在

バブみ道日丿宮組

お題:マイナーな母性 制限時間:15分

母という存在

「あなたのお母さんになりたいんだ」

「なにいってんだお前」

 突然の暴露に困惑する俺に、

「だっておっぱい好きでしょ?」

 胸を強調させてくる彼女。

「好きではあってもそれは母親を求めてるわけじゃないから」

「そう? 赤ちゃんはおっぱい求めるよね?」

 それは俺が赤ちゃんだといいたいのだろうか……。

「それにあたしお母さんって一度やってみたかったんだ」

「歳とって恋愛すれば自然とそうなるだろ」

 相手がいるかはさておき。

「ううん。あたしは未来がないから」

 うつむき加減が尋常なくて、何を言ったらいいのか迷ってると、

「あたし生まれつき病気でさ。数十年というか高校が終わるまで持たないって言われてるんだ」

 彼女はゆっくりと語りだす。

「だからさ、あなたのお母さんになってみたいんだ。おかしいかな?」

 ははっとから元気を出す彼女に何を言えるだろうか?

「みんな自由だよね。見てて面白いよ。うん凄い」

 教室から彼女は外を見る。

 そこでは部活動に勤しむ生徒たちの姿がある。

 そういえば彼女は中学から一緒なのに部活動に入ったり、サークルに入ったり、むしろ遊んでるところをみたことがない。

「あたしはね。人工的に作られた子なんだって。だからさ結婚して子どもを作ることはもともと出来ないんだ」

「そんなことは……」

 言葉が続かない。俺に断言できる判断材料なんてない。

「ううん。研究所の両親みたいな人が急な真面目な顔してさ、いろいろ教えてくれたんだ。もう時間がないからって」

「……そうか」

「だから、お母さんにさせてくれないかな。あたしが唯一学校で楽しい時間を作ってくれたあなたに」

 他にも楽しい時間はあったはずなのに、どうして俺なんかを選ぶんだろうか。両親だって俺を捨てて家を出てった。誰も俺を欲しがるやつなんていない。

「もしかして辛いこと思い出せちゃったかな? ごめんね」

「なんで謝るんだよ。俺のほうが悪いだろう」

 もうすぐ死ぬって聞いて自分のことを考えるなんて酷いやつだ。

 酷いか……。数年しか付き合ってない人間にそう思えるように俺もなったのか。

 巡る記憶は子供の頃の孤独さ。勉強だけが友だちだった日々。誰とも響かない付き合い。それらが俺を作ってたはずなのに。

「……ならまず引っ越してこないとな」

 そんな俺が頼られたのなら、約束を果たすべきなのだろう。

「うん♪」

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母という存在 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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