誕生

バブみ道日丿宮組

お題:間違った始まり 制限時間:15分

誕生

 産まれたのはきっと奇跡だったに違いない。命が産まれるというのは自然界にとっても偉大なことで誰もが感謝する。

 けれど、それは母親にとってなだけで自分は、というわけじゃない。

 家を出たことは始まりで、きっかけは父親との接触だった。肉親だというのにその手は私のすべてを奪った。家族でなければそういう間違った生活もあったのかもしれない。ただ欲に堕落する毎日。人によってはいいものかもしれない。

 私は、私は好まない。

 産まれたことを恨むくらいに。

 父親の過ちは正さなければならない。全てを元に戻すことはできないけど、限りなく消滅することは可能だ。一度壊されたものが再び壊れることはないから生きてくのは簡単。

「……」

 そこに優しさなんてものはない。生きてることが罪だと思うくらいに。

 この選択肢をとったのは私で、進むのも私。

 どこまでいっても父親の指先の感触は消えない。かつてあの人の遺伝子であったことを考えると、私もそういう人間に近いかもしれない。

 解体作業は数分足らずで終わり、回収作業も始まった。

「おじさん、代金はこれで」

 差し伸ばした手は私を包む。

 命を産む行為。神秘的な情景。

 でも、でも。

 私を私と決定づけるものはここにはない。

 流れる水滴が私というのであれば、滴るものは私の全てかもしれない。それを吸うものは一体なんなのだろう。命を奪うものか? あるいは作り出すものか?

 わかってるのは音が生まれ、声があがることだ。

「……もう終わりなの?」

 決して不満足なわけじゃない。ただ終わってしまうことがひどく残念に思ってしまう。終わらない永遠。そんなものが存在してるかはわからない。

 けれど、私が産まれたという行為は残る。

 再び始まった行為に身を任せて、私は青い空を見上げた。

 

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誕生 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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