第35話
◇▢◇▢◇
遅くなりましたすいません···
◇▢◇▢◇
「それで?先生、家庭科室借りてくれました?」
「えぇ、でもほかのクラスも使うからそんなに長い時間は使えないわよ?」
「大丈夫ですよ!私楽しみでこの土日に色々考えて案をちょっとずつ作ってきましたから!それにまだ準備期間は始まったばかりなんでもっと作りたいです!先週決めたお化け役の人の採寸もしなきゃですし!」
小林さんは自分の得意なことになるとよく喋り出すなと私は思いながらもそれを優しく見守る。
「それじゃそろそろ行く?」
「はい!」
「なら、美紀ちゃん?」
私はいつものように固まって鈴木さん達と話し込んでいる美紀ちゃんを呼びに行く。
「なんですか?先生」
「家庭科室の鍵借りたから行きましょ?」
「あ〜そういえば美紀衣装作るんだっけ?」
「私もお化け役やるから可愛いの作ってよー?」
「おっけー」
「それなんだけどもし良かったら鈴木さん達も一緒に行く?」
早速私は美紀ちゃん達を目の届く範囲に留めさせようとそんな提案をする。
「えぇー、まぁ裁縫なんてあんまやってきてないし教えてくれるならいいんじゃない?」
「じゃあ行きましょうか」
「青山先生なんか必死だね〜」
「ほ、ほら、あんま時間を取ってあげられなかったから人数を増やしてあげた方がいいかなって」
「まぁ私はみんなと話せるからいいけどね〜」
「あーたしかに〜文化祭なんて正直面倒だったからね〜」
そう言いながらもちゃんと着いてきていることに少し安堵しつつ彼女達を先導する。
「秋山くんもいい?借りちゃうけど」
「大丈夫ですよー」
「小林ちゃんもいい?」
「が、頑張ります」
「何を!?」
カチコチに固まりながらも小林さんは訳の分からないことを言う。
教師も警察も同じだ。
証拠がなければ大したことは出来ない。
できるのはせいぜい目を光らせて問題を少しでも起きないようにすることだけだ。
とはいえ、この時期教師も忙しい。
基本的には生徒会がやることになっているが地域の自治体とも協力しての行事なので先生たちはその連絡とかで忙しいのだ。
だからあまり時間は取れない。
それを踏まえて秋山くんにお願いをしたのだがどうなるかは分からない。
それでも、私はこうするのが1番だと思っている。
「それじゃあしゅっぱーつ!」
「先生、もういい歳なんだから····」
「ちょっと待ちなさい?美紀ちゃん?私はまだ三十ちょっとよ?」
「尚更ダメでしょ」
「ねー!三十なんてもうおばさんでしょ!」
「こ、この子達は···!というかあなた達が若すぎるのよ!
あなた達だって気付いたら歳をとってるのよ····」
「先生、話が重いですよー」
私がそんな変え難い現実と向き合っているとさらさらと流されそのまま彼女達は私を置いて家庭科室へと向かっていくのでそれについて行く形で私も後を追う。
その私の後をコソコソと小林ちゃんも着いてくる。
◇▢◇▢◇
俺は今小鳥遊さんを探して西館に来ていたのだがそこでなるべくこの北条祭が終わるまであまり巻き込まれたくなかった人達と巡り会ってしまう。
「おっ、律、いい所に」
「げっ、凛···」
「姉のような存在の私にその反応はどうなのかな?」
「あぁ、うんそれについては謝るから、それと今俺大事な用事があるからじゃあ····」
いてててて、腕を掴まないでくれ、
それに弟のような存在である俺にその力で掴むのはおかしいのでは?
「俺は嫌だ、俺は生徒会じゃない」
「有志の人ってことで」
「断る!」
「実はね、今まで参加を断られてたオクターズって今ちょっと有名な人達が急に出演してもいいって言ってくれたんだよ」
ふむ、知らんな誰だそれ。
ってかそもそも
「勝手に巻き込もうとするな、俺は何も聞いてない」
「嘘だー今だれそれ?みたいな顔してたじゃない?聞いてたよね?手伝って」
「横暴だ!ってかほんとに誰だよそいつら」
「私もよく知らないけど今どきの子には結構人気みたいだよ?バンドらしくてね、全くさ、有名だから断れないし、これならドタキャンの方がまだ良かったよ。
おかげでスケジュール組み直しだ。
だから手伝って欲しいの、各方面に時間がズレるから謝罪の電話とかもしなきゃだしさ」
そう言って凛は隣に立っていた眼鏡をかけた男の人に「ねぇ?」と話しかける。
するとその人は申し訳なさそうに俺に謝ってくる。
「ごめんね、律くん?で合ってるかな?この前も自分がいない時に手伝って貰ってみたいで」
「いえいえ、いいんですよ。お互い様ですから。
ところで貴方は?」
「あ、自己紹介してませんでしたね。
自分は、3年の杉村 悠人です。
生徒会の役職はこの前会ったと思うけど結愛と同じで副会長になります。
今後ともよろしく」
「よろしくお願いします」
とても礼儀正しく頭を下げながら挨拶をしてくるものだから俺も吊られて頭を下げてしまう。
「2人とも挨拶が済んだなら早く行こうか」
「待て、俺は行かないぞ」
「この前律がぎっくり腰になった時の借りは?」
「グッ、いや俺本当に用事があるから····」
「用事って?」
「小鳥遊さんがいなくなったんだよ」
「へぇ、それで?」
「それでって···」
凛は唐突に突き放したような言い方をする。
「投げ出した私が言うのもおかしいかもだけど律たちは別に家族でもなければ恋人なわけでもないんでしょ?だったらどうして律は彼女を探してあげなきゃ行けないの?」
「そ、れは····」
それは今まさに直面している問題だ。
ほんの少し話しただけ、ほんの少し彼女に踏み込んだだけ、ほんの少し知っただけ。
そんな俺に何が出来るのか、そもそも、何かをしてあげる資格が俺にあるのか。
それを人に言われることでより強く意識してしまう。
「まぁ重い話は置いといて彼女なら多分大丈夫だよ。
ってことで行くよ、律!」
凛に腕を引っ張られるが俺が抵抗することはなく、そのまま生徒会室へと連行される。
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