第30話
「ごめんね、愛美ちゃん、私先帰る!」
「え、あ、うん、気をつけて···?でもまだ定時じゃ····」
「教頭も!行ってきます!」
「ふむ、まぁいいでしょう、行ってきなさい」
◇▢◇▢◇
「ねぇ、このタクシーはどこに向かってるの?優美ちゃん····」
「着いてからのお楽しみですよ〜」
彼女はタクシーの中でいつものような笑顔を振りまきながらそう聞く。
「ねぇ、それは素の優美ちゃん?」
「どっちだと思います?」
「分からないから聞いてるのよ···」
「アハハ、そうですよね〜うーん、素だと問われればこれもある意味私にとっての素の部分かもしれないですね〜」
「もうちょっと簡単に言えない?」
私がそうやって優美ちゃんに聞くと彼女は未だに笑っている。
「そうですよね〜、先生は頭良くなんかないですもんね〜」
「喧嘩売ってるの?」
「違いますよ〜」
「はぁ、そんなに頭がいいならこの先選べる道は多いのに···」
「なら、この世から居なくなるのも私の道だと思いませんか?」
「思わないわよ····世の中にはなりたくてもなれない子だっているのよ?親とかにも申し訳ないとかは思わないの?」
そう聞いても彼女はポカンとしていた。
「あはは、何を言うのかと思ったら、全く思いませんよあんな親」
「何かあったの?」
彼女の親は基本的に穏やかなはずだ。
それも彼女と同じように、
だとすれば彼女の親もまた彼女のように本心をその笑顔の下に隠しているのかもしれない。
そう思うと私には何もわからなくなってしまう。
「どちらかといえば逆ですよ。
あの人たちは何もしてくれない。
何もくれなかった···」
「?、何かが欲しいの?だったら変なこと言ってないで生きてさえいれば貴方なら大体のことなら···」
私がそういったのと同時にタクシーは目的地らしい場所へと着く。
彼女は私の言ったことが聞こえていたはずなのにその返答をしないままタクシーから降りようとする。
私がお金を払い彼女の後に続いて外に出ると目の前には目的地らしき場所をバックにして彼女がこちらを見ていた。
「順番が違いますよ」
それだけ言うと彼女はそのお店に入っていく。
「八····焼き?」
そのお店の外観はとても新しくどうやら最近立ったばかりのようだった。
彼女を追ってそのお店に入ると中は居酒屋のような雰囲気だった。
だが、そのカウンター席にはとても小さい子がいた。
「ねぇ、オジさん!辛くないやつにしてって言ったじゃん!」
「あっはっは、言い出しっぺの坊主が食べなきゃ意味ねぇだろ」
「ねぇ律、どんな味がするの?私も食べていい?」
その小さい3人組はとても楽しそうにたこ焼きを食べていた。
「凛ねぇ、いいけど凛ねぇのもちょうだい!」
「えー、いいよ!」
その2人はとりかえっこしてお互いのたこ焼きを小さな口で頬張る。
それを見ながら私は優美ちゃんの後に着いて少し離れたカウンター席に着く。
すると男の子のたこ焼きを貰ったその少女は口を抑えて水を飲み込む。
「うぅ、食べなきゃ良かった···」
「凛ねぇ、大丈夫?」
その2人をみて隣にいたほかのふたりよりも小さい子が羨ましそうにする。
「私もー!凛ねぇ、律にぃ!私も食べるー!」
「「紗夜はダメー!」」
「まだ幼稚園生なんだからー!」
「やだー!私も食べるー!」
その様子を見てると彼女は私に話しかけてくる。
「あはは、もうバレちゃいましたね、本当は先生にドッキリを仕掛けようと思ってたんですけど···」
「そんなに辛いの?子供たちが食べてるみたいだけど」
「まぁ流石に子供に影響を与えない辛さに店主が加減をしてるはずですけどここのは本当に辛いんですよ?」
「普通のはないの?私そこまで辛いの好きじゃないんだけど···」
「そうであってくれなきゃドッキリはどの道意味なかったですね!」
「せんでええわ、それで?注文表はどこなの?」
「ふふん、ここにはありませんよ。
ってことで店主〜八八2つ〜」
「あいよ、」
少し厳つくてどこかヤのつく職業を彷彿とさせるその店主は返事をすると目の前の鉄板に具材を流し込む。
「ここって立ったばかり?」
「そうですね···確か今年の夏が終わる頃には立っていたと思いますよー?
ですよね?店主?」
「おうよ、にしても嬢ちゃんが人を連れてくるなんてな」
私はつい気になっていたことを店主に聞く。
「失礼ですけど店主の前の職業って···」
「安心しろ、堅気にゃ手を出さん」
「か、堅気って···優美ちゃん、あんまり怖い世界に手を出しちゃダメよ?」
「店主は大丈夫ですよ〜たまに相談とかに乗ってくれますからね〜」
「相談?ちなみに店主、彼女はどんな相談をしたんですか?」
私は何か彼女を救い出す手がかりになると思い店主に詰め寄る。
「そりゃ、嬢ちゃんに許可を貰わなきゃ言えねぇな、ってかあんたは嬢ちゃんの何なんだ?」
「私はこの子の担任です」
「そりゃ本当かい?」
店主は信じられなかったのか優美ちゃんの方をみて確認を取る。
彼女が頷いたことで納得したのか再び私の方を見るが彼は優美ちゃんのことについては固く口を開かなかった。
「あんたが嬢ちゃんの言う先生なら俺は何も言えねぇな。
ってか、担任と生徒がこんな時間にこんな場所に来ていいのか?」
「ダメですよ?」
「先生·····」
「あんた····まぁそれだけ嬢ちゃんのことを思ってるってことだろうけどな」
「なら!」
「けどダメだ、嬢ちゃんのことは嬢ちゃんに聞け」
「そうですよ〜私に聞いてください〜」
「聞いたら答えてくれるの?」
「物によりますね〜」
「じゃあ優美ちゃんは何に悩んでそんな結論に至ったの?」
私がストレートにそう聞くと彼女は笑顔で顔の前に小さなバツを作る。
「内緒で···とはいえそれは今からするお話の中で先生が気づいてくれたらきっと私は····」
だが、彼女がそれを最後まで言い切ることはなかった。
すると目の前にはたこ焼きが置かれる。
「さて!八八が来たので食べましょうか!」
「そういえば確認なんだけどこのお店には辛いのがあるのよね?それってどうやって頼むの?私ちょっと食べたくなってきたんだけど?」
私が笑顔を作ってそう聞けば彼女はたこ焼きを掴もうとしていたその割り箸を止める。
「な、内緒で····」
「はぁ、まぁいいわ」
少しくらい頭が刺激された方が良いかとも思い私はそれを軽々しくも口に運んでしまった。
最初の方は普通のたこ焼きだった。
むしろほかのたこ焼きよりも美味しいとさえ感じていた。
しかしそれはほんの少しの間だけだ。
それが過ぎれば当然···
「辛っ!!!!」
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