第25話

「それはどう言う意味ですか?」

「だから、秋山くんは白 愛ちゃんのこと好き?って聞いたの」


 それは教師が関わる問題なのだろうか···


「ノーコメントで、」

「おやぁ?その言い方は引っかかりますなぁ〜」


 うるせぇ、そしてうぜぇー


「それで?それがわざわざ呼んで聞きたかったことなんですか?」

「まぁそうだね·····大まかに言えばそうだね。

詳しく聞くとしたら秋山くんはこの一週間、白愛ちゃんとよく絡んでたみたいじゃない?」

「まぁそうですね、あなたが面倒事を押し付けてからはよく話してましたね」

「それ嫌味?」


 それ以外に何があるとでも?

 とはいえ、自分の担任にこれを言うのは良くないので我慢する。


「まぁいいや、それで?それで秋山くんは白愛ちゃんについてどんなことを感じた?なんでもいいの、悲しそうだったとか辛そうだったとか····そういうことはなかった?」

「随分、1人の生徒を気にかけてるんですね」


 教師としてその行いがどうなのかは知らないが世間から見れば教師とは公平に生徒を見てあげなければならないという風潮がある気がする。

 だとすれば青山先生のしてる事は悪いことなのかもしれない。


「ん〜、そういえばなんで秋山くんは今日私に大人しくついてきたの?何か聞きたい事かあったんでしょ?」


 青山先生は唐突に話を変えてくる。

 でも、このタイミングでその質問は·····


「お見通しって事ですか?」

「これでも、君の担任なのです」


 目の前に置かれたたこ焼きをつつきながら青山先生はそんなことを言う。


「それじゃあ聞きますけど、小鳥遊さんの中学生時代に何があったんです?」

「やっぱり、分かっちゃうよね····」


 あれだけ分かりやすくされたら中学生時代に何かが会ったことなんて誰でも容易く想像出来る。

 そしてその内容も····


「まぁ、簡単に言うならいじめだよね、あんなに可愛くてモテる、しかもアルビノっていう他の人とは違うところがある。

そんなの虐められない方がおかしいわよ」


 虐められない方がおかしい、そんな言葉を嫌でも言うしかないのが今の時代の現状だ。


「悲しいですね」

「悲しいのよ、とはいえ、その時の詳しい事は白愛ちゃんに許可を取らないとね」

「それだけで充分言ってはいけないはずなんですけどね」

「別に言わなくても気づいてたでしょ?」

「まぁ、なんとなくは····」

「それでその後は凄く精神状態が不安定だったの、当たり前だよね、自分が悪い訳じゃないのにいじめられちゃうんだもん。

何回か自殺しちゃいそうになったこともあったのよ」

「それは·····」


 今の小鳥遊さんからはそんな素振りを想像できなかった。


「まぁ、今は結構落ち着いてるんだけどね、いつ前みたいになってもおかしくないの。

だから本当は何があるか分からない学校には通わせないようにしようとしたんだけど彼女が行きたいって言うから白愛ちゃんのお母さんと知り合いだった私のいる学校に入学してきたの」

「そのことを知ってるのは?」

「学校の中だと私と校長先生、教頭先生、それに凛ちゃん」

「やっぱり凛は知ってたんですね」

「そうね、凛ちゃんに言ったら、それは運命的だねとか言ってたよ」


 凛の言う事は時々理解ができないことがある。

 それは彼女しか見えてない景色があるからだろう。

 俺は息を吹いてたこ焼きを覚ますと口の中に入れる。

 すると、やはり辛さが込み上げてくる。

 思わず俺はむせかえり水に手を伸ばす。


「オヤジ···八焼きを頼んだはずだが?」


 俺はそうオヤジに言うがオヤジは見向きもせずにたこ焼きを焼いている。

 とはいえ、俺が来るといつもの事なのだ····


「大丈夫?」

「大丈夫じゃないです·····」


 俺がしばらく辛さに悶えているとそれを待ってから青山先生は口を開く。


「結局さ、今彼女をこの世に繋ぎ止めてるのは親の存在なんだよね。

でもその糸はいつ切れてもおかしくはない。

理由はなんだって有り得るの、

親のことを嫌いになる、また彼女がいじめられる···とにかくその一つ一つが彼女を壊す原因になり得るの。

だからね、私はいつも怖いの。

白愛ちゃんはちゃんと家に帰ってるのかなって。

家に帰りたいと思ってくれるのかなって」


 確かに家に帰りたいと思わなかったのなら彼女はたとえ迷子になったとしても家を探すことは無い。

 そうなれば誰が彼女を見つけ出してあげられるのだろうか····


「白愛ちゃん、まだ科目選択の紙出てないでしょ?あれってさ、詰まるところ、彼女にとってそれを選ぶ必要が彼女の中にはないからだと思うの」

「どういうことですか?」

「私は先生だからさ、生徒たちの将来について話さなきゃならないの」


 それはそうだ。

 それこそが先生という仕事なのだろう。


「だから私はいつもこう聞くの、どうやって生きていきたい?って」

「別におかしくはないですよ」


 俺は青山先生にそうやって言葉を返す。


「そうだね、秋山くんにとっては当たり前のことだよね、でもね?

私は今までで1度だけ出会ったことがあるの···

その子はさ私がそう聞いたらこう返してきたの。

『どうして私が生きる前提なんですか?』って、」

「それはなんとも凄い子に出会いましたね」


 そもそもの前提が、土台が違う。

 俺たちにとっては生きるというのは考えるまでもなく普通のことだ。

 だが、その子にはそれがない。

 生きるために働く、働くのが当たり前。

 今の時代の人の頭にはどちらの方が強くあるのかを聞かれたらそんなのは後者だろう。

 だって俺たちは生きているのだから。

 その事に疑問を持つなんてことは生きていてもそうそうある事ではない。


「それでその子はどうなったんですか?」

「その子はある日忽然と姿を消して見つかった時にはもうこの世にはいなかった。

それから私はずっと考えてるの、あの時私はどう言葉をかけてあげるべきだったのか、

あの子はどういう言葉をかけて欲しかったのか、

私にはあの子が何を考えていたのか理解できなかった。

理解してあげられなかったの····

人ってさ、あんなに元気に笑ってても一瞬で笑わなくなるの····

あの子にとって自分の命っていうのはそれほどに軽い物だった。

さっきも言ったでしょ?白愛ちゃんがちゃんと家に帰りたいと思ってくれるのかなって怖くなるのは、

あの子みたいに気づいたらいなくなってるかもしれないからなの」


 そういう青山先生の目からは涙が零れていた。


「あの子には、この世界を生きる意味が···光がなかったの。

白愛ちゃんを見てるとどうしてもあの子に重なっちゃうの、白愛ちゃんには、この先を生きる意味がないのかもしれないって、

そしたらさ、選択科目の紙を出す必要なんてないと思わない?だって····」


 だって····

 青山先生がその先を言うことは無かった。

 けれど俺には伝わっていた。

 だって、生きる意味を失った人間にはこの先のことなんて必要ないから····

 別にこれは難しい話ではないんだろう。

 例えば余命が残り数ヶ月の人にこの先どうなりたいかなんて必要のないものだ。

 そう言われれば簡単な事だ。

 だけど、言われなければ気づくことがない。

 前提が違うとは、それほどまでに恐ろしい。

 そう思うと俺の口からはボソッと言葉が誰にも聞こえない大きさで零れていた。


「光のない····天使様·····」

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