第23話
「秋山さん、本当に良かったんですか?」
「そうだよあっきー、あっきーにとっては人生の一大チャンスだったんだよ?」
「やかましいわ!」
確かにこんな俺にとっては恋人が出来るチャンスだったのかもしれない。
それでも嘘をついてまでする事ではない。
そんなの、彼女をより傷つけるだけだ。
「まぁでも、結局決めるのは律自身なんだし外野がどうのこうの言うことじゃねぇだろ。
お前らだってなんで振ったんだよって言われる気持ちが分からない訳でもないだろ?」
敦也は俺の気持ちを汲んでくれたのかそんな事を言ってくれる。
敦也の言う通りここには告白をされたことが何度もあるメンツが揃っていた。
今では少ないが寧々だってみんなが小さかった小学生の頃はとてもモテたのだ。
そう思うと自分の場違い感が凄いが前に同じことを言って敦也と喧嘩になったことがあるためそれは口に出さない。
「そうだね、あっきーごめんね?」
「私も、すいませんでした···」
「いいよ、気にするなって。
それよりこんなところにいたら風邪ひくし早く帰ろうぜ?」
「あ、私部活···」
「俺も忘れてたわ···」
こいつらはやっぱり馬鹿だなと俺は2人を見て再確認する。
「うぅ、どうしよう、さとちゃんに殺される〜」
「俺は竹下先輩に殺される〜」
「なら早く行ってこい」
「あっきーは私たちに死ねって言いたいの!?」
「お前らが勝手に覗きに来たんだろ···自業自得だ」
「うぇ〜白愛ちゃんーあっきーが酷い〜」
寧々に抱きつかれた小鳥遊さんはすごく困惑した顔をしていた。
「え、えっと···頑張ってください?」
何故か最後に疑問符が着いているような気がするが寧々も小鳥遊さんに言われては受け入れるしかない。
屋上をのそのそと後にする2人の顔はこれから死地に向かう人のソレだ。
「じゃあ小鳥遊さん、帰ろっか?」
「そうですね····」
俺たちはそのまま屋上を後にするとここにはいない2人の話をしていた。
「それで、先程寧々ちゃんが言ってたさとちゃんって···?」
「あぁ、数学科の佐藤先生だよ、あの人普段は穏やかなのに熱が入るとそこら辺の大人よりおっかないんだよね」
まぁ寧々の場合はさとちゃんが期待してるから他の人よりも多くしごかれるんだろうけどな···
普段授業を寝てる寧々が唯一起きてるのが数学だ。
もし数学の授業でバスケ部が寝ようものなら···
ダメだな、この先は想像しては行けない気がする。
何故か俺もさとちゃんにはしごかれるのだが、その時の姿があのオヤジと重なるとかマジで危険だろ。
そんな事を考えているといつの間にか下駄箱に着いていた。
今朝は手紙が入っていたが、今の下駄箱には俺の靴しかない。
それを見ると自分が振ってしまったのだと再確認してしまう。
「はぁ、」
ため息を着きながら思わず隣を見ると小鳥遊さんが固まっていた。
「どうしたの?まさかラブレター?」
俺はそう冗談めかして下駄箱を覗こうとすると彼女は靴を取るとバタンと勢いよく下駄箱を閉める。
その信じられないものを見たような顔に俺は思わず聞く。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です···ちょっとトイレに行ってきます」
そのまま彼女は靴を持ったままトイレに行ってしまう。
明らかに同様しているかのような様子に少し心配になる。
少しすると彼女は何事も無かったかのような顔で戻ってくるが目の下が若干ピンク色になっていた。
「どうしたんですか?早く帰りましょう?」
俺が少し固まっていたのを不審に思ったのか首を傾げながらそう言ってくる。
「あ、あぁじゃあ行こっか」
この時俺は彼女のそのいかにも普通だという雰囲気に騙されていたのかもしれない。
今まで、何度も見てきたはずなのに。
俺にはその些細な変化の意味に気づくことが出来なかった。
だから、いつも後になって後悔する。
彼なら、彼女なら大丈夫。
きっと何事もないだろう。
そんなことを思っているから俺には小さなSOSに気づくことができないんだ。
そして気づいた頃にはもう手遅れなのだ。
◇▢◇▢◇
「それで、シフト表はどちらがやるんですか?」
「あぁ、それなら俺がやっとくよ」
「でもいいんですか?勉強をしたいって···」
「まぁたしかにそうなんだけど···」
一昨日や昨日は小鳥遊さんに世話になりっぱなしで昨日のホームルームも彼女1人でやってくれたのだ。
ここで俺が彼女に任してしまうのは絶対にあってはならない
「うん、そういう事で俺がやるわ」
「そういうことってどう言うことですか?」
男の威厳···というのはなんか恥ずかしい
「まぁ深く気にするな」
「はぁ···なら2人で作るのはどうですか?その方が早く終わりますよ?」
「あぁ、うん···」
どうしたものか、断る理由がない。
「じゃ、じゃあお願いしよっかな?」
「はい!お願いされました」
その頭に手を当てて笑顔で敬礼をする姿はとても可愛らしく、どこか儚く感じた。
その笑顔はどこかあの少女を彷彿とさせる
今にも消えそうで····
「あ、そうだ!あの···スーパーによりませんか?」
「え?なんか買いたいの?」
「はい、どうせなら一緒に食べたいじゃないですか」
どの道俺は作ってもらう側なので嫌だという選択肢は端からない。
「いいよ」
そのまま俺たちは近くのスーパーによる事にした。
「あらぁ、こんなところに若い夫婦がいるわね〜」
「初々しいわね〜私も昔のことを思い出しちゃう」
最寄りのスーパーということは近所の人達と会うことがあったとしてもなんのおかしいことも無い。
今の家のご近所さんとはあまり面識がないが元の家では母親がそういう集まりを家でするものだから近所の人達にはかなり俺や妹、それに凛の事が知られている。
そんな俺が学校で1番美人と言われている小鳥遊さんとスーパーなんてきていたらそういうことを勘ぐってしまうおば様達がいるのは仕方ないことだろう···
「清水さん···違いますから···」
「いやぁ、それにしても律ちゃんがこんなに大きくなったなんて〜もう感慨深いわね〜」
「ほんっとにあの頃はあんなに小さかったのにねぇ〜」
「あんなに可愛い彼女が出来てるなんて大人になったのね〜」
「あの子も見る目があるわねぇ〜律くんを選ぶなんて〜」
このゆるやかぁ〜な雰囲気だから世の子供たちがいつも待たされているのだろう···
「あ、あの···昔の秋山さんってどんな感じだったんですか?」
あれ?小鳥遊さん?それ聞きに行く必要が?
そんな事を聞けば彼女たちはもう止まらないだろう···
「あらやだぁ、律くん、彼女さんに秋山さんだなんて呼ばせてるの?ダメよ?カップルなら下の名前で呼ばなくちゃ!」
「そうよぉ?私の若い頃なんかみぃちゃんとかしぃくんって呼んでたんだから〜」
「若いわね〜」
「え、あ、えっと、それじゃあ···り、律···さん?」
いや、無理にそんなことしなくていいって···
でも何故だか、そう呼ばれることに喜んでしまっている自分がいた。
「まぁ、さんだなんてそんな他人行儀じゃ愛想つかされちゃうわよ?」
「まぁいいじゃない〜これも若さから生まれる味よ〜」
「それもそうねぇ〜それよりあなたお名前は?律ちゃんの昔のことを知りたいんでしょう?」
「わ、私は小鳥遊白愛です!」
「白愛ちゃん?可愛い名前ねぇ、さぞや良い親御さんにつけてもらったのねぇ」
「は、はい···2人は私にとって大切な人です」
「もうやだぁそんなことうちの息子が言ったら私感激して心臓止まっちゃうわ〜」
「うちの子もよぉ〜うちの子はいま反抗期だからくそババアなんて言うのよ?全く···」
「あぁ、それ分かります、でもそれがある事で自分達の子が自立していってるって感じるんですよねぇ〜」
「そうなんですよ〜」
「あ、あの···」
その空気に飲まれないように必死に小鳥遊さんは食らいつこうとする。
そこまでして俺の昔のことを知りたいんだろうか···
でも一つ言えることは
マジで話が進まねぇ!
「あぁそうだったわね、律ちゃんは昔から凛ちゃんや小夜ちゃんとやんちゃしてたわね〜」
「しまいには3人とも泥だらけになって帰ってきてねぇ〜」
「気付いたらどこかに行っちゃってるんだもの〜」
「そうだったわね〜1回律ちゃんが1日帰ってこないことがあってねぇ、あの時はご近所中があたふたしてたわね〜」
「静岡だなんて誰も思わなかったわよ〜」
よし、早く買い物を済ませて帰ろう。
そう思って小鳥遊さんの腕を引く。
「え?どうしたんですか?り···秋山さん?」
「早く帰ろう?」
「もう少しでその静岡の話が聞けますよ?」
「きかんでよろしいし、そのもう少しが一向にやってこなそうだからだよ!」
「あらぁ、律くんったら強引ねぇ〜」
「いつも2人に振り回されていたのに〜」
そんなゴタゴタがありながらも何とか抜け出すことに成功する。
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