白髪の天使様には光がない
takoyaki
第1話
俺の名前は秋山 律。
北条高校に通う1年生だ。
北条高校には東館と西館の2つがあり、東館には1年生と2年生の教室があり、その他にも美術室などの副教科の部屋もいくつかあったりする。
そして西館には3年生の教室や職員室などがある。
普段なら通るはずのない西館の廊下を俺は今歩いていた。
3年生達の誰だこいつという目線がチクチクと身体に刺さるので、俺は逃げるようにそそくさと1階の奥にある職員室へと早歩きで進む。
いつになっても職員室とは緊張するものである。
まぁ、ある程度問題を起こさなければ今日の俺のように日誌を届けるぐらいの理由でしか行かないような場所なので慣れるわけもなかった。
そもそも慣れたくはないなと思いつつ職員室のドアをノックする。
「1年4組の秋山です。青山先生はいますか?」
そう聞くと奥の方からガサゴサとしながら若い女性が慌ててやってくる。
「あー秋山くん、どうしたの?」
「日誌を持ってきたんで」
「あぁ、日誌ねありがと、」
「んじゃ俺はこれで」
「待ちなさい」
「····何してるんですか?」
そう言って腕を見ると青山先生は俺の腕をガシッと掴んでいた。
そして大きな物が腕に当たっていた。
「いやまじで何してるんすか?」
「今日、秋山くんが日直だったよね?」
「そりゃ、日誌も俺が持ってきたんで···」
「いやーちょうど良かったよ、頼みがあるんだけどいいかな?」
「いや、お断りします」
こういうのは大体面倒事だ。
だから、必死に避けるに限る。
「いやいや、遠慮する必要はないんだよ?」
「遠慮なんてしてませんよ!離してくださいよ!」
「実はね!来年の文理選択の紙を小鳥遊さんがまだ、出してないんだよ!」
だからなんだよ、と言いたくなる。
先生の方を見るとニヤァと笑っている。
「悩みを聞いたからには手伝ってもらうよ?」
「横暴だ!!」
「ちょっと!職員室前で変なこと言わないでよ!」
「じゃあ変なことしないでくださいよ!」
「お願い!日直でしょ?担任命令よ!」
「担任にそんな権限はないはずですよ!?」
「いいじゃない、紙を貰って来るだけよ!?」
「それができなかったからあんた今困ってんでしょ!?絶対嫌ですよ!俺は早く帰りたいんです!!」
「大丈夫だって!どうせ家に帰っても秋山くん一人暮らしなんだし遅れても平気でしょ!」
「そういうのって先生としてどうなんですか!?」
「男ならグダグダ言わない!小鳥遊さんならいつも通りまだ教室に残ってるはずだから!さぁレッツラゴー!」
先生は俺の背中を押すとそそくさと職員室に戻っていく。
「はぁ、」
ため息をつきながら俺は東館を歩いていた。
すると後ろから背中を叩かれる。
「痛っ!」
「よっ!律、どうしたんだ?お前がこんな時間まで学校に残ってるなんて···いつもならすぐに家に帰るくせに」
「日直だったんだよ、それより敦也こそ何してんだよ。お前、サッカー部だろ?練習は?」
田中 敦也、中学の頃からの親友だ。
彼はサッカー部で1年なのに、レギュラー入りするほど運動神経がよく、顔も良いと来たので女子達からはかなりモテていた。
「水筒忘れたから取りに来ただけだよ。それと···」
「それと、私もいるよ!」
「あ、寧々もいたんだ」
敦也の後ろからピョコっと出てきたのは加藤 寧々。
身長が中学1年生ほどしかなく本人もその事をとても気にしていた。
だから、あれ?いたの?とか言ってしまえば彼女はガチで怒る。
「あ?おい、律。それは私の身長が低いってことを揶揄してんのか?」
「悪い悪い、そんなつもりは無いから!」
全く、その体の何処からそんなどす黒い声を出してんだか···
「てか、寧々は何でここに?バスケ部だろ?」
「バッシュ忘れたの。んでアッキーこそなんでここに?」
彼女は驚くことにバスケ部であり、しかも敦也同様レギュラー入りまでしている。
顔は整っているがあまりモテる訳では無い、その理由は主に2つあり、まず1つは身長のせいで彼女を好きになれば周りからロリコンと言われるからだ。
もちろんそれを彼女自身の前で言わないのはもはや暗黙の了解だ。
もし言ったらなどと見え透いたことは考えるだけ無駄だ。
ちなみに中学の頃それを本人の前で言ってしまった奴がいるそうだけどその翌日には白い布がぐるぐる巻かれたお化けと化したそうな···
そしてもう1つの理由というのは···
「青山先生にパシられて小鳥遊さんに文理選択の紙を貰いに行かなきゃならないんだよ」
「あーうん、まぁ、頑張れ」
「頑張ってね、アッキー」
「やめろ、慰めは必要ない···」
もう1つの理由はその小鳥遊さんにある。
小鳥遊 白愛。
男子なら誰でも振り返って見るような容姿端麗さ。
テストではいつも満点の成績優秀さ。
それに加え、彼女はアルビノであるために肌や髪は白く、反対に目はルビーのような真っ赤だった
その異色さがほかの女子との違いをより際立てていた。
それだけで男子の心など鷲掴みにできよう。
要するに男子人気を小鳥遊さん1人がほとんどかっさらっているのだ。
その為、天使などと呼ばれてたりもする。
だが、彼女と同じクラスである俺や敦也、寧々は何度もその現場に直撃することがある。
即ち告白の現場にだ。
人気のいない所でやればいいものを、わざわざクラスの皆が残っている時にやるもんだからまじまじと彼女の人間に対する冷たさというのを感じさせられる。
あれは天使なんかじゃない、みんなが見てるなどお構い無しにいつも同じ言葉で男達を撃退する。
「鏡を見てきては?」その短い文章にどれほどの男が崩れ去ったことやら、あれは天使とかじゃなくて人の心を持たないロボットそのものだとクラスでは、言われていた。
しかも何故かその噂は広がらない、いや、広がっているのかもしれないが我こそはと告白をする男子たちが毎日のようにやってくる。
最近ではこの学校って男子何人いるの?(笑)と思わずにはいられない。
「まぁ、告白する訳でもないんだしそんなに気落ちするなよ」
「そうだよ、」
「はぁ、ということで行ってきます」
どうせ今日も断る告白のために待たされているのだろう。
もはや、彼女に話しかけようとしただけでまたかという目で見られるのである。
「はぁ、」
俺は再度ため息をつきながら自分の教室に入っていく。
すると、誰だ?という目がこちらを向くがすぐに
あぁ、秋山かと自分たちの時間に戻っていく。
俺は教室を見渡すといつも通り、前の方の席でボーッとして時間を潰している小鳥遊さんがいた。
俺が小鳥遊さんの方へ行くと自分たちの時間に戻ったはずの目線が戻ってくる。
中にはコソコソと話してる声まで聞こえてくる。
「おいおい、見てたならわかるだろうよ、自分から砕けに行ったぞ秋山のやつ」
「まじかよ」
うっせぇ聞こえてんだよこの野郎。
俺はそう心でツッコミながら小鳥遊さんの前まで来る。
「あの、小鳥遊さん」
「えーっと貴方は確か··あぁ、アッキーさんですね」
「へ?」
「あれ?違いました?クラスの子がそう呼んでたはずですけど···」
「あの俺も、クラスの子なんですけど···」
「そうなんですか?」
知らなかったのかよ。
「いやーそれはすいません、それにしてもこの学校って男子多いと思いませんか?」
「いや別に?他と対して変わらないけど?」
「そうですか?」
「ただ、小鳥遊さんに関わる男子が多いだけじゃないですか?」
「あー、それもそうですね。それで?何の用ですか?今日は田川さんという方に待ってろと言われているんで出来ればすぐに済ませてくれると助かるんですが···」
あぁやっぱり告白待ちだったのかと俺は心で思う。
「来年の文理選択の紙を青山先生に頼まれたんだよ」
「あぁ、そういう事ですか、わざわざすいませんね」
「そう思うなら早くくれ、というか自分で出しに行ってくれると助かるんだけど···」
俺が早くくれと手を出すと彼女は変なことを言い出す。
「時にアッキーさん」
「秋山だ」
「それは失礼、では、秋山さん」
「なんだ?」
俺が手を出したこと、そしてその返事が少し遅くなっていることからもしかしたら成功したんじゃ?という声が聞こえて来て、とても恥ずかしくなってくる。
「私って文系だと思います?それとも理系だと思います?」
「······は?」
こうして、俺と彼女の目まぐるしく、楽しく、時に悲しい、そんな非日常のような日常が始まった。
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