害蟲駆除係ってナニ?
@TAIJU408
転職しました。
父さん母さんお元気ですか。ぼくは元気です。
たとえ職場がどんなに理不尽に満ちた環境でも――。
「ににに、庭、庭ァ! 庭に二体また湧いてましたよちゃんと仕事しなさいこの愚鈍! 汚物!」
「(ッチ)あいあい了解しあしたぁー」
「舌うち聞こえてますからね無礼者……『
「ぬああっっっづ――おまっ、何すんねんああっつ! ちょっと服燃えたやんけ!」
「いいからさっさと働いて。でなきゃ次はそのいかにも軽薄な頭髪がきれいさっぱりなくなりますよ」
何が軽薄やねん。ぼくのはおしゃれパーマですぅ。
失礼な物言いに思わず眉根が寄る。が、大人しくさっき入ってきた玄関口を逆戻りして庭への一歩をふみだす。ぼく偉ない?
眼前には庭。
というか森――これ入ったら抜け出されへん森っつか「もしかして:樹海」やな? な? と尋ねつつ殴りたくなる野趣あふれる「お庭」が広がっている。どないせえちゅうねん。
ほんまに人使い荒いうえに人への敬意に欠けたアマ(?)やで。愚鈍て。汚物て。
そんなけこっちディスってあんな火ぃ出せるんやったら、自分で退治せえっちゅうねん。たかが――
「ゴ〇ブリくらい殺せるやろ。ふつう」
「いやっ!」
おっと思わずやつ、ことGの名前を口走ったらまた炎が飛んできたァ! 今日は強火だァ!
(絶対自分で処せるやんGごとき……)
(うるさい汚いあんな汚物オブ汚物が神聖なる禁域に湧くだけでも許しがたいのにわたっ、わたしのっっ、神聖なる炎術を用いてややや焼き虫になどいやあああっ想像させないで!)
振り返るとクソデカ火の玉が後ろからごこごごごごごと不吉に轟きながら迫って来ていた。アカーン!
「ぎええ錯乱すなすなすなすな、ぼ、ぼく殺したらGどないすんねんそれこそやろ?!」
「――ッハ!」
背後で火の玉が消失。ぼく、ほっ。
仕方なく改めて歩みだす。お供は、「諦観」の二文字や。
(ここのだだっ広い庭で小さな命が二つほどウロチョロするくらい許したれや。こんなん何日かかるかわからんで。むしろやる前から無理ですやん。もうこの庭森やもん。大自然やもん。)
ハイ諦めとか割とウソです。内心は文句たらたらです。脳内で白目をむくぼくの背に、我を取り戻したらしい麗しいお声がかかった。
「くれぐれもー今日中にー片付けるようにーー」
玄関口から、自分は微動だにしない上司からのタイムリミット宣言いただきました。
みんなこれ追い打ちって言うんやで。「科目:人にしてはいけないこと」のテストに出すで先生は。
(鬼やん。背後に鬼おるやん。退治すんやったらむしろこっちやん)
(鬼ではありません、半神です。愚鈍)
(うおおおなんでこんなやつにコキ使われらなあかんねんんんんんn)
ぼくは走り出した。どんなけ理不尽な指令でも仕事せなあかんのや。
この自称半分神さま、略して「半神さま」に逆らったらアカンのは、悲しいかなこの数週間で骨の髄から理解してもうてるねん。泣いていい?
父さん母さん、前職場に勤めていたころは会社の真っ黒くろくろブラックホールっぷりにたくさん心配をおかけしたうえに心苦しいのですが、この度再びご報告しなければなりません。
ぼく、
一周まわってあれ、ホワイトじゃね? あ違うわ視界が真っ白になっただけだったわ疲労でな! ってことが頻回にあるくらいにはしょっぱさMAXな労働環境です。
今日も汗と涙と鼻水で海ができそう。
ぼくは心の中でオトンとオカンに遺書に近い何かをしたためながら、本日のお仕事(過剰追加業務)のため走り続ける。目指すは黒くて素早い生命体だ。
え? ほんでぼくの職務内容はて?
ここは半神さまの御座所。
禁域とされる庭――否。森に囲まれた新しい職場。
本来ここにはあってはならない存在を排除するために雇われたぼく。
与えられた仕事はG退治要員。つまりは――、
「なんやねん害蟲駆除て――業者でも雇えやっぼけっ」
※6/22に加筆修正。ルビや改行など。
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