【5話】恐い

 長い時間座っていたのだろうか。

 僅かに痺れる足の感覚と共に、瑠樺はぼんやりとした意識の中で目を開ける。


 見慣れない壁や天井、視界に映った景色ここは見知らぬ場所で、瑠樺は不安になり周囲を警戒するように見渡す。


 ――ここは……? なんで私、こんな所に……


 薄暗くて段ボール箱が山積みになっている様子からして、ここはどこかの倉庫らしい。

 まだはっきりとしない意識の中で、最後の記憶を振り返る。


 だが、次第にはっきりとしていく視界の中に数人の男たちの姿を捉えた。

 瑠樺は思わず驚いて立ち上がろうとするが、体と椅子を縄で縛られているせいで身動きが取れず、上手く立ち上がれない。


 その時、瑠樺は意識が途絶える前の記憶を思い出す。


 ――そうだ。家の前で確か口元をハンカチで押さえつけられて、それで……!


 状況からして自分は誘拐されたのだろうか。

 口元にテープを張り付けられているせいで上手く声をあげることもできず、瑠樺は不安で鼓動が早くなる感覚を覚えた。


 男たちがそれぞれ煙草を吸ったり楽しそうに話している様子を警戒しながら、脱出を試みようと腕に力を入れて男たちにバレないように暴れる。

 だが、どれだけ体に力を込めても縄がちぎれることはない。


 その時、不意に煙草を吸っていた一人の男と目が合う。


 男は瑠樺の顔をしばらく見つめると、煙草を咥えたまま口を弓形に描いてニヤリと微笑んだ。


 ――まずい。


 男は煙草を指に持ち直し、一直線にこちらへ向かって歩いてくる。

 間もなくして瑠樺の目の前に立つと、男は瑠樺の顔を覗き込んだ。


「おーい、こいつ気がついたぞ」


 男の言葉が倉庫内に響き渡ると共に、周囲の男たちは一斉に瑠樺へ視線を向けると瑠樺を囲うように皆がザワザワとこちらへ集まった。


 そうすると、一人だけスーツを着ている男が瑠樺の目の前に現れる。

 スーツの男は瑠樺と視線を合わせると、嬉しそうに口を弓形に反らす。


 男は瑠樺の顎に指を這わせて顔を少し引き寄せ、溜息を吐くと口を開いた。


「やっぱりいい顔してるよねこの子。せっかくの美人なのに、ただ殺すだけじゃ勿体ないよなぁ……」


 『殺す』という言葉を聞いた途端、瑠樺の体は分かりやすく震えてその額に冷や汗が伝う。


 ――この人たち、私を殺すつもりなの?!


 危険を感じた瑠樺は、再び暴れる。

 だが、その時に瑠樺の脳裏をひとつの考えが過ぎた。


 ――まさか、この人たちが私の家族を殺した犯人、なの……?!



 だとすれば、瑠樺を誘拐して殺そうとする男たちに納得がいく。


 それに気づいた途端、瑠樺は男たちを強く睨む。


 自分の家族を奪ったかもしれない人たちが、目の前にいるのだ。


「おい、あの薬持ってこい。どうせ殺すんだし、ちょっとくらい遊んでも構わないだろうよ」


「了解しました!」


 その時、スーツの男が下っ端らしき男へと指示を出す。

 下っ端らしき男が元気よく返事すると、倉庫の奥へと消えていった。


 瑠樺がその男の様子に気を取られていたその時、突然スーツの男が勢いよく瑠樺の着ているセーラー服を手勢いよく掴んだ。


 ――そして、勢いよく左右に引っ張られることでセーラー服は引き裂けて下着姿が晒された。


「ッ――?!」


 突然の事に瑠樺は目を見開き、思わず羞恥心に叫ぼうとする。

 だが、口元に張り付けられたテープのせいで、思うように叫ぶ事すらできない。


 ――私を、どうする気……?!


 流石の瑠樺でも、自分が次にどうされるのかは分かっていた。

 だが、その現実を否定したい一心で瑠樺はじたばたと暴れ続ける。


「っはは、やっぱこの瞬間は最高だよなぁ」


 スーツの男は瑠樺の下着姿を見て舌をじゅるりと舐め回し、瑠樺の脚をベタベタと触り始めた。

 吐き気の込み上げるような不快感に、瞳をギュッと閉じてそっぽを向く瑠樺。


 けれど、スーツの男が瑠樺のスカートの中にまで手を入れた事によって、瑠樺は驚いて目を見開くと“やめて”と訴えるかのように涙目でスーツの男を見つめた。


「あぁ、これは堪んねぇ! もう俺限界だわ……!」


 スーツの男はそう言いながら、右手を自分のズボンに手を伸ばす。

 そしてズボンのチャックを下ろしながら、反対の腕で口から溢れる唾液を拭った。


「リーダー、用意ができました」


 その時、先程の下っ端らしき男がひとつの注射器を手にして小走りで戻ってくる。

 下っ端はリーダーと呼んだスーツの男へ注射器を差し出すと、スーツの男は奪うように手に取った。


 スーツの男は瑠樺の顎を乱暴に掴むと、自分と視線を強引に合わさせる。

 そして注射器を見せつけると共に、注射器を上に向けて少しだけ中身を押し出す。


 数滴ほどの液体が男の右手を伝って零れ落ちていく様子を、瑠樺はただ見つめる事しかできなかった。

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