第18話 パーティー編成はアライメントをあわせようぜ。

「よう、蒼真」

「ああ……」


 ゴールデンウィーク。

 約束の日……最寄り駅の一角、キャンプ企画の集合場所で俺は何とも言えない気持ちでため息をついた。

 人数は当初より大きく増えた、とは聞いた。


 そのメンバーに隣のクラスの奴がいるのはいいだろう。

 二クラス合同レクリエーションを通じてできた関係を良好に継続させるのは、とても素晴らしいことだと思う。

 広がる友人の輪。実に結構なことだ。


 女子がいるのもいいだろう。

 野郎ばっかりより、雰囲気がずっと華やぐ。


 しかして、その中に日月がいるというのは……どうなんだろう。


「おはようなのです」

「ああ、おはよう」


 適切に距離を取ろうと決めて、わざわざゴールデンウィークを忙しくしたのに、これでは台無しである。


「灰森君に誘ってもらったのです」

「そうか。よかったな」


 耀司め、どうせまたいつものお節介のつもりだろう。

 気遣いはありがたくはあるが、今回は悪手だぞ。


「なんだ、青天目も来たのか」

「あ、ああ……。相模も来たんだな」


 それでもって、相模までいるのはなかなか攻めてるな、耀司。

 あらかじめ参加メンバーを確認しなかった俺も悪いが、これだったら俺は不参加の方がよかったかもしれない。

 いまからでも用事を思い出すべきか?


「キャンプなんて初めてなのです。楽しみなのです」


 前世は魔物ひしめく『迷いの森』で野営してただろ。

 耀司に気を遣う必要はないんだぞ、日月。


「なぁ、耀司。一体どうなってるんだ?」


 小声で問いかける俺の肩に手を回して、耀司が俺を少し離れた場所に連れ出す。


「いろいろあったんだ」

「いろいろの内容に関して聞いてるんだぞ、耀司。急な用事を思い出しそうなんだが?」

「ちょっ……」


 別に耀司を困らせてやろうとか、そういうつもりは毛頭ないが『パーティのアライメント』というのは考慮が必要だ。

 古今東西、ローフルとイービルは同じパーティに編成できないんだぞ?


「説明するから、ちょい待ち」


 なかなか要領を得ない耀司の説明によると、事の次第はこうだ。

 まず、男だけではむさくるしかろうということで、耀司がクラスの女子……主に麻生さんに声をかけた。

 グッジョブと言えるだろう。


 そうなると、隣のクラスの奴も参加する手前、女子も隣クラスに声をかける。

 それでもって、俺がいるということで……そう、何故か俺がいるという理由で日月にも声がかかった。

 すると、日月は日月で、何故か俺がいるなら行くと返答し、さらにそれをどこからか知った相模と、その他有象無象が急遽参加を申し込んできた、と。

 同じクラスの奴の参加を断るわけにもいかず、さらにいうと企画段階において、俺と相模のちょっとした諍い事なんて知らなかった耀司はそれを承諾して……本日にいたるというわけだ。


「あらかじめ相談してくれたら、不参加にしたのに」

「ばっか、蒼真。そう言うと思ったから、黙ってたんだよ。お前が不参加じゃ意味ねーからな」

「そうなのか?」

「……蒼真はすぐに、まわりと距離置こうとすっからな。初動でミスった分、ダチのオレがフォローしてやろうって優しみだ」


 陰キャでコミュ障なだけで、別にクラスメートとは距離をとってるわけじゃないんだぞ。

 だが、心遣いは痛み入る。お前がいい奴だってのは、俺だってよく理解しているところだ。


「相模もまぁ、一年は一緒だしよ……距離感測りながら頼むわ」

「ま、俺はいいんだけどな」


 ただ、せっかくのキャンプの空気が悪くならないかって心配をしてるんだ。

 俺のせいで他のみんなが楽しめないなんて、本末転倒だろ?

 不得意なんだよ、集団行動とか仲良くないやつとなんとなく上手くやるってのは!


「何をこそこそしてるのです? BでLな展開なのです?」

「日月、盗み聞きはよくないな。そしてバラの腐臭がする展開は、ない」

「お、日月ちゃん。丁度いいや、蒼真を頼むわ」

「よくわからないけど、任されたのです」


 その場を離れようとする耀司からは別のメッセージがウィンクと共に、視線で送られてくる。

 口に出したのとは逆の意図だ。

 俺に日月のお守りをさせようって魂胆だな?


 まったく、勘違いとはいえお節介が過ぎる。

 だが、まぁ……この状況下だ。日月がやらかさないように見張る必要はあるか。


「日月。絶対に力は使うなよ。焚火に魔法で火をつけるとか厳禁だからな?」

「<着火ティンダー>程度、バレやしないのです」


 ほらみろ、すでに怪しい。


「いいか、日月。このキャンプの間……一切合切、どんな力も使うな」

「どうしてなのです?」

「普通の女子高校生は【身体強化】も【聖剣】も魔法も使わないもんだ」

「そ……青天目君はいいのです?」

「俺は普段からできるだけ使わないようにしてるからな。とにかく、約束だ」


 少し考えるそぶりをした日月が、小さくうなずく。


「わかったのです。約束なのです」

「フォローはする。『普通』になる努力をしろ」


 俺がそばにいたらそれも難しいとは思うが、力さえ使わなきゃちょっと残念な美少女で済む。

 何、じっとしていれば今回お前に釣られた男子諸君がお姫様のように扱ってくれるさ。


「そろそろ出発しようぜ」


 耀司の声に促されて荷物を担ぎ上げた俺達は、駅のホームへと順次進む。

 総勢十数名は一塊になって電車に乗り込み……一路、目的地であるキャンプ場へと向かった。


 目的地となるキャンプ場は電車で約一時間。

 山あいにある比較的新しいキャンプ場で、各種施設やグランピング設備も整っているのでかなりお手軽だ。

 男子は牧野や俺が持ってきたテントを設営し、女子は鍵のかかるグランピングコテージを使用するらしい。


 いやはや……企画力にはただただ脱帽するばかりだ。

 陽キャというのはすごいな。


「青天目君?」

「ん?」


 外の景色を眺めていた俺に、誰かが不意に声をかけた。

 あまり聞かない声だ。

 振り返ると、あまり馴染みのない女子がこちらを見ている。


 さて、この娘は……誰だったか。

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