第5話 光と闇が合わさって最強に見える

「皆さん、こんにちは。生徒会長の鎌田です」


 壇上に姿勢よく立った細身の男が、マイクを握っている。


「これから皆さんには、西門学園探検ラリーをしていただきます」


 高校生にもなってこれで盛り上がれというのは、なかなか難しい。

 隣の悪友は思いの外、はしゃいでいるが。


「もう先生方から説明されておられるかもしれませんが、当校では二クラス合同で行事が行われることが結構あります。例えば、課外活動や修学旅行、他にも文化祭などですね。その最初のイベントが、この二クラス合同オリエンテーションです」


 話す生徒会長の背後では、何か小道具の準備が着々と進められている。


「いま、この第一体育館に来られているのはAとBクラスの皆さんですが、それぞれのクラスからランダムで二人一組を作っていただきます。こちら……」


 生徒会長が示す先、そこには穴の開いた段ボール箱。


「……から、一つクジを引いていただき、クジに書いてある番号でペアを作っていただきます」


 ペアで何かをさせるつもりなのだろうか。

 もう少し人数の多い班でもいいと思うんだが……どうも伝統っぽいので気にしないでおこう。


「では、各自くじを引いてください。引いた番号のところの旗の下に集合してくださいね」


 後ろでもごそごそしてると思ったが、いつの間にか1から30までの数字がかかれた旗が立てられている。


「行こうぜ、蒼真」

「ああ。今日は別行動になりそうだな」


 別に一緒にいたいというわけじゃないが、知り合いらしい知り合いが耀司しかいないので、些か周囲とのコミュニケーションに不安を感じているだけだ。

 そういう甘ったれた感覚を取り払って別のクラスに仲間を作るのが今回の趣旨なのだろうが、とっかかりにするべき同じクラスの人間も、俺にとっては「はじめまして」と挨拶する相手なので、文字通りぼっちスタートだ。


「さぁ、どうぞ」


 生徒会役員らしき先輩女子が箱を差し出してくれたので、そこに手を突っ込む。

 掴み上げたクジは『3』の数字。


「オレ、5だったわ」


 隣でくじを引く耀司が、俺と同じ数字がかかれた札をひらひらさせている。


「俺は3だ」

「んじゃ、行こうぜ」


 耀司と共に旗がたてられた場所へ向かう。

 しばしして現れたのは、見知った顔だった。


「レグナなのです」

「公共の場所でその名を呼ばないでくれないか、プレセア・アドミニール」


 なんという中二病なやりとり。

 周囲に鼻で笑われやしないかと心配になる。


「公共でなければいいのです?」

「他の誰の耳にも入らないならな。それで、日月が俺の相棒ってわけか?」

「そのようなのです」


 『3』とかかれた札を俺に見せる日月。

 周囲を見渡すと、それぞれのペアが微妙に緊張した様子で自己紹介などしている。

 人見知りな俺としては、日月とペアで良かったと考えるべきか?


 殺された相手を見てほっとするというのも変な話だが。


「男女ペアで固定ではないのですね?」

「そうみたいだな」


 二つ隣の旗にいる耀司は、筋骨隆々の坊主男子とペアらしい。

 恨みがましい視線を感じるが、知ったことか。

 その陽キャ系の魅力を、今日はその男子に発揮するといい。


「ペアはできましたか?」


 生徒会長が壇上から見渡しつつ、うんうんと頷く。


「では、自己紹介して握手を! もしかしたら見知った相手かもしれませんが、その場合もお願いします」


 それは昨日済ませた、といったら免除してくれないだろうか。

 ダメだな。

 教師も生徒会も見張ってやがる。


「青天目蒼真。以下略」

「日月昴なのです。同じく以下略なのです」


 小さく笑い合いつつ、少し緊張して握手する。

 お互いに前世は殺し合った仲だ。

 昨日、紆余曲折の末に理解と和解に至ったとはいえ、まだ完全にお互いを信用しきれてはいない。


「自己紹介が終わったら、旗に添えてあるプリントを確認してください」


 生徒会長のマイクに従って、旗を調べると丸められた用紙が見つかった。


「五つのチェックポイントが記されているはずです。それを順番通りに回って課題をこなし、ここに戻ってくるのが本日のオリエンテーションとなっています!」


 二人してメモを覗き込む。


「えーと……なになに」


 一ヵ所目は音楽室。

 二ヵ所目は保健室。

 三ヵ所目は屋上プール。

 四ヵ所目はⅢ-B教室。

 五ヵ所目は西門学園記念館。


 保健室は昨日行ったのでわかるが……他は初見だな。


「学内の地図を見るもよし、教師や先輩、同輩に尋ねるもよし、闇雲に探し回るもよし! 向かうための手段は問いません! 課題をこなしてここに戻ってくるのが目標です。いくつかの評価ポイントがあり、最優秀のペアには……ステキなプレゼントもありますよ!」


 妙にテンション高めだな、あの生徒会長。


「知ってる場所、あるか?」

「保健室はわかるのです」

「そりゃわかってる。他の場所だよ」


 この元勇者はボケ担当か何かだろうか。

 ペアになったからってコンビになったわけではないので、ツッコミ役を丸投げしないでほしい。


「あ、屋上プールは中央棟の屋上にあるはずなのです」

「音楽室は、おそらく実技研修棟の方だな。保健室からはそう遠くないはずだ」


 残るはⅢ-B教室と、西門学園記念館。

 この二つはなかなか手強そうだ。


「がんばるのです。素敵なプレゼントを手に入れるのです」

「え、ガチでやるのか? クリア目的でだらだらではなく?」

「やるからには最優秀を目指すのです! 光と闇のツートップなのです、成せば成るのです!」

「闇しか見えない……」


 やる気を燃やす元勇者に俺は少しばかりげんなりする。

 こういうのは、不得意なんだ。

 協力プレイとか、競争とか……一人でじっくり派なんだよ、俺はさ。


「では、スタート! 新入生諸君の健闘を期待します!」

「さぁ、レグナ! 行くのです!」

「ええい、その名で呼ぶな!」


 ちくしょう……この元勇者は記憶力も悪いらしい。

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