現代転生した元魔王は穏やかな陰キャライフを送りたい!~隣のクラスの美少女は俺を討伐した元勇者~
右薙 光介@ラノベ作家
邂逅編
第1話 プロローグじみた邂逅
「よし、よーし……一旦落ち着こう、なっ?」
「お前を聖滅した後にそうさせてもらうのです!」
「それじゃあ、意味ないだろッ!」
連続で放たれる高速の斬撃を受け流し、俺は目の前の少女にツッコミを入れる。
まったく、なんて日だ!
今日は心機一転の高校生活初日。
甘酸っぱくもキャッキャウフフな輝かしい高校生ライフがこれから始まるはずだったのに!
「滅びるがいいのです! 魔王レグナ!」
「恥ずかしいからその名前で俺を呼ばないでッ!」
迫るモップに高強度の魔法障壁を展開して備える。
何せあの『光るモップ』からは鉄鎧すら易々切り裂く斬撃が放たれてくるのだから。
「く……ッ!」
二度、三度と放たれる輝く斬撃。それを防ぐたびにビキビキとひびの入る障壁。
避けることは可能だが……そうすると、校舎に深刻なダメージが入ってしまうだろう。
俺達新入生の為に新しく建設されたピッカピカの新校舎が、まだ授業すら始まっていない初日で破壊される光景なんてのは見たくない!
「場所、場所を変えよう! ここだと他の人に迷惑がかかるから!」
「お前を生かしておく方がもっと危険で迷惑なのです!」
モップの柄を振りかぶった少女が、制服のスカートをはためかせて俺を睨みつける。
さすが、大した気迫だ。
「ひぇ……全然、人の話を聞かないところ、変わってないな」
「お前は随分軽薄になったのです」
「お互い、過去の事は忘れよう? 俺たち、もう魔王と勇者じゃないんだし」
「……お前が存在している以上、わたしもまた勇者なのですッ!」
「oh……症状が重篤化してるなぁ」
* * *
中二病、という言葉がある。
ウィキペディアによると『中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動を自虐する語。転じて、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラング』とされている。
かくいう俺も、かつてはその罹患者であった。
ちょっとした若気の至りというやつである。
そして、それによって大きな問題が発生するとは、全く予想していなかった。
──『俺の前世は魔王レグナ。異世界レムシータを恐怖のどん底に叩き落した最強の魔王!』
実に痛々しく、それでいてとてもとても可愛らしい前世妄想系の主張。
ありがちで、些かオリジナリティに欠けた設定である。
……これが、事実でさえなければ、だ。
その台詞を吐いた瞬間に七孔噴血してぶっ倒れた俺は、一週間謎の高熱にうなされ……目覚めた時にはすっかり『魔王レグナ』としての記憶がよみがえってしまっていた。
あまりにも恥ずかしい自分がいたたまれないので、いっそのこと『頭がおかしくなった』と自覚したかったが、やけに鮮明な記憶の数々がそれを否定し、あまつさえ記憶と一緒によみがえった『力』の数々が俺のささやかな希望を完全に打ち砕いた。
こうして、俺──
……とはいえ、相変わらず中身は俺のままであり、魔王の実感なんてまったくわかない。
瞬間移動ができたり、空が飛べるようになって便利だな、だとか、これでカツアゲから逃げられるな……程度の認識だったし、この世界をどうこうしようって気には全くならなかった。
魔王としてのかつての自分に嫌気がさしていたっていうのもあるし、せっかく今生は人間として誕生したのだから人間の生を思う存分、堪能したい。
そんな気持ちで周囲に半笑いされる中学時代を乗り切り……いよいよ高校デビューというこの時に、俺は出会ってしまったのだ。
そう、『勇者』に。
発端は、中学時代から付き合いのある、ある悪友の誘い。
「隣のクラスに超かわいい女子がいるらしい……興味あるだろ? ちょっと覗きに行こうぜ、魔王レグナ」
「次その名前で俺を呼んだら、お前の恥ずかしい過去を電子掲示板に公開してやる」
「うへへ。勘弁してください」
もと中二病仲間で、中学からの悪友である
こいつの誘いに乗ったのが運の尽きだった。
あの時、少しばかり斜に構えて「興味ないね」とソルジャークラス1stみたいな返事をしておけば、こんな事態にはならなかったはずだ。
つまるところ、俺は浮かれていたのだ。
新しい生活、新しい人間関係。
そして、『超かわいい女子』というキラーワードに。
そうして、向かった隣の教室。
そこに、彼女はいた。
「お、いたいた。
耀司が指さす先、姿勢よく座る小柄な女子の姿が目に入った。
「……どうしてお前は、初日からそういう情報を持ってるんだ?」
「わかってないな、蒼真。可愛い女子っていうのは、事前のリサーチをどれだけしたかで与える第一印象を変えられるんだぜ? しかし、確かに可愛いな」
やや短くまとめられた黒髪は艶やかで、整った目鼻立ちをしている。
全体的に華奢なのだが、姿勢の良さか脆さは感じない。
うん、なかなかの美少女だ。
しかし、なんだか言葉にできない悪い予感がする。
第六感だか第七感だか知らないが、できればはっきりとしたエビデンスを以て俺に警告してほしいものである。
「確かに可愛い。よし、戻ろう」
「声かけないのかよ?」
「陰キャに無理を言ってはいけないな、陽キャ野郎」
そんなことをぼそぼそ扉の傍で言い合っていると、背筋にぞわりと怖気が走った。
今生では感じたことがない類の気配……間違いない、これは殺気だ。
「む。おい、耀司……耀司?」
隣を見ると、耀司の姿はすでにない。
以前から逃げるのが得意な奴だとは気が付いていたが……なんて姿を消すのが早いんだ!
「そこのあなた、待つのです」
そそくさと退散しようとしたが、どうやら俺は失敗したようだ。
件の美少女はこちらに黒い双眸を向けて、今まさに席を立つところだった。
「……お、俺かな?」
「あなたなのです。妙な気配がするのです」
近寄ってきた少女は、思いのほか小さい。
しかし、その言葉には肝が冷えた気がした。
バレるわけがないと思いつつも、これは逃げられないという確信じみた諦観もあった。
「何がかな? ……日月さん?」
「……! 何故わたしの名前を知っているのです?」
「あー……、ちょっと知り合いから聞いて?」
警戒する少女に、精一杯の作り笑いをする。
陽キャなら爽やかに切り抜けようって場面かも知れないが、元魔王で現陰キャな俺にそんなスマートな返しができようはずもない。
「……」
「……」
お互い、やや見つめ合って。
「……!」
「……!」
そして、思い当たる。
魂の持つ輪郭を、互いに認識してしまう。
「──魔王、レグナ……!」
「勇者プレセア……か?」
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