KのーとinS Re:re:

炯斗

001

_神代も終わりかけ、次第に神の消え行く時代。

 ゲブラー、マスカルウィンより。





流れる雲も赤く染まる黄昏の大地。山々は高く聳え、その山肌は夕陽の赤を照り返す。

岩と砂利の大地に三つの人影が現れる。その影は赤の沈黙を容易に破り、風の嘆きすら掻き消した。

「はぁあ~、相変わらず真っ赤だねー。死んだまんまだ」

「………」

「だねぇ。少しくらい草でも生えたかと思ったけど」

十三年も経ってなお死の気配は色濃く残っている。どこまでも朱い赤。それは視覚出来る『死』だ。このマスカルウィンの地は、何年経っても死んだまま。貯まりに溜まった狂気は風に掻き回され、少しずつ少しずつ排斥されていく。何年か何万年、何億年と気の遠くなるような時間を掛けて、この土地は回復に向かっている。人間の目にはその歩みは見れなくても、確かに世界は自己再生を行っている。それでも、まだまだたった十数年。底に澱った狂気の渦。それはまだ草木の芽吹きすら許さない。

「…此処って、緑だった事あるのかね?」

言いながらKは振り返った。aもまたそれに倣う。背後で不服そうに顔を歪めるのは、背の高い長髪の男。

「何が言いたい?」

貝空の前身こそ、この世界を死地に変えた張本人だ。

「いや、厭味じゃなくてね?」

彼の不機嫌な様子に、Kは呆れた顔で言った。そんな遣り取りに構いもせず、aはもう一度辺りを見回す。

「確かに、マスカルウィンも最初からこんなじゃなかったんだろうな」

玄霊が生まれるより前、まだ死ぬ前のマスカルウィンは一体どんな世界だったのか。



「無理だ」

黒光舞う空間で、神秘の神ジズフは一言そう言った。

「え、なんで」

「俺が生まれてないから」

呆然としながらもKはジズフを仰ぎ見、ぼんやり開いたままの口から言葉を漏らした。

「…マスカルウィンが緑な処が見てみたいって言ったんだけど?」

ジズフもまた面倒くさそうにKを見下げた。

「だから、俺はそんな処見た事がない」

即ち、緑だったことがあるとしたら、それはジズフが生まれる前、若しくは死んだ後ということになる。神という長寿の存在が生まれる前か、死んだ後。それは過去へも未来へも膨大な時間を要するということだ。

「貝、おまえいつから居たのさ…ッ」

隣に控える貝空を揺さぶって叫ぶK。

「知らねぇ。貝って呼ぶな」

「ち。あーあ、見てみたかったのに」

くたっと体中の力を抜いて、貝空に凭れ掛かる。

「貝空が意外に年寄りだってのが判っただけか」

『これでお終い』と、aが大きく伸びをして還ろうとするが…

「…ぁあ…、行けない事もないかな…」

小さく洩れた呟きを、聞き逃すようなKでもなかった。


「え? カルキストって…まだ居たの?」

引き合わされた小さな緑色のカミサマは、そう言いながらKをじっと観察した。

「…かわいい」

KもKで呆っとその鬼神を見つめ、ぽつりとそう零した。彼女はにっこりと笑って賛辞と受け取る。

「ありがと。あたしサリルス。7の時と開扉を司ってるの」

「開扉…成程」

つまり彼女は、ゲートキーパー。あらゆる扉を開く鍵の神。例え次元の扉だろうと、開けられぬ扉はない。


開扉の神の助けを得て、Kとaはセフィロートの遥かな過去へと続く扉を潜る。

最後に、ジズフのしてやったり的な表情を見て、二人は同時に溜息を付いた。

―そうだった、と。

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