悪魔武器をレンタルしたほうがずっと楽

ちびまるフォイ

禁断の魅力

「この村の平和は俺が守ります!」


「おお勇者様だ!」

「勇者さまが来てくれた!」

「これでこの村はもう大丈夫だ!」


村の人が喜んでくれたのは最初だけで、

いざ戦いがはじまってボコボコにされているさまを見ているうちに期待感や希望は失っていった。


「どうせあいつは今日も負ける」


口にこそ出さなくても誰もがそう思っていた。

それは勇者自身もだった。


「なんで勝てないんだ……こんなに努力しているのに……」


答えは明らかで自分に戦いの素質がなかった。

いくら鍛錬してもシンプルに才能がなければ負けてしまう。

村の人の期待に答えたい気持ちと、伴っていない実力との板挟みに悩んでいた。


そんなある日のこと。


「あれは……?」


村のはずれに小さな店を見つけた。


「いらっしゃい。レンタル悪魔武器へようこそ」


「あ、悪魔武器?」


「さよう。これさえあれば赤子ですら魔王を倒せる一品です」

「なんだって!?」


「レンタルしますか?」


答える前にお金を払っていた。

それほどまでに力に飢えていた。


悪魔武器の剣を手に取ると体中に不気味なほど力がわいてきた。


「こ、これが悪魔武器……!」


そこに村人があわててやってきた。


「勇者さま大変です! 村にドラゴンが!」


「まかせろ!」


勇者はさっそくおろしたてのレンタル悪魔武器を使ってドラゴンに立ち向かった。

実際には立ち向かうというより、駆除というのに近かった。


レンタル悪魔武器を手にした勇者のひとふりで、ドラゴンは3枚におろされてしまった。

あまりに一方的な強さに勇者はすっかり虜になってしまった。


それからも村にやってくる魔物を瞬殺していると、

すっかり失っていた勇者への期待も取り戻した。


「ありがとう勇者さま! やっぱ頼りになるな!」


「はっはっは。そうだろうそうだろう!」


村人からも褒められいい気分になった頃、

ちょうど悪魔武器のレンタル期限が差し迫っていた。


レンタル悪魔武器屋へしぶしぶ戻ることに。


「ご利用ありがとうございました」


「あの、もう一度レンタルできませんか」


「可能ですよ。もちろんその分のお代はいただきますが」


「かまいません!」


勇者は悪魔武器をレンタルし、レンタル期間が終わるとまたレンタルし直し続けた。

村の人はそんな事情を知ることもなく、急激に強くなった勇者にただ喜んでいた。


悪魔武器の魅力に取りつかれてしまった勇者は、それからも途切れることなく悪魔武器を使い倒していた。

しだいに途切れてきたのは資金面だった。


「まずい……もうレンタルできないぞ……」


悪魔武器のレンタルは安くない。

それをコンスタントにレンタルできるのは石油王くらい。


かといって、ここで悪魔武器を手放してしまえばまた前に逆戻り。

せっかく村の人達からも信頼を得ることができたのに。


「やっぱり返そうか……」


そう思ったが足が動かない。


もしも、自分が持っている悪魔武器を返却しっぱなしにしたら

今度は別の誰かが悪魔武器をレンタルしてしまうかもしれない。


勇者の活躍があくまでも悪魔武器ありきだということもバレる。

もう誰も勇者を褒めちぎってくれる人はいなくなってしまう。

悪魔武器を持っていれば誰でも勇者になれるのだから。


勇者は結局、悪魔武器をレンタル終了日になってもなお返却せずにキープしつづけた。

さいさんに渡るレンタル屋からの催促状も無視を決め込んだ。


知らんぷりを続けていた勇者のもとに、ついに耐えきれなくなった悪魔武器のレンタル店員が怒りの足取りでやってきた。


「勇者さん、いい加減に悪魔武器を返してください!」


いつかこんな日が来るだろうと準備していた勇者は迷うことなく、返却するはずの悪魔武器で店員を両断した。


「ふふ……だ、誰に口を聞いてるんだ! 俺は勇者だぞ!

 そして今、誰よりも強く勇ましい男だ! この武器は俺のもの! 返す必要なんて無い!」


店員の遺体は村を襲ってきた魔物に食わせて消した。

それからも勇者は借りパクしっぱなしの悪魔武器で魔物を戦いつづけた。


「勇者さま、ありがとう!」

「今日も瞬殺でしたね! すごい!!」

「勇者さま、私とつきあってーー!」


「村の人を守るのが俺の使命ですから!!」


勇者は村のアイドルになった。

誰よりも慕われている勇者は鼻が高く毎日幸せだった。


「勇者さま、また新しい魔物が村に来ています!」


「お任せあれ。秒殺してきてやりますよ」


余裕たっぷりに悪魔武器を抜いた勇者だったが、急に悪魔武器が暴れ始める。


「な、なんだ!? ぶ、武器が勝手に!?」


「勇者さま! いったいなにを!?」


悪魔武器は勇者の腕を乗っ取り村人を次々に斬り捨てていった。


「逃げてくれ! 村のみんな! 早く逃げてくれーー!」


勇者は涙を流しながら叫ぶも、男も女も子供も老人も悪魔武器から逃れることはできずに斬り殺されてしまった。

あれだけ必死に守ろうとしていた村は勇者ひとりにより壊滅した。


「なんで……なんでこんなことに……うわぁあ!?」


失意に暮れる勇者だったが、レンタル期間を過ぎた悪魔武器からは触手が勇者の体へ突き刺さり腕と同化しはじめていた。

悪魔武器を手放そうにもくっついて離れない。

徐々に勇者自身から悪魔武器へと体の主導権が奪われていく。


悪魔武器が購入ではなくレンタルにされていた一番の理由がここにあった。

必要以上に所持してしまうと宿主を作ってしまうために定期的に手放す必要があった。


そんな注意をしてくれる悪魔武器レンタル屋もすでにこの世にいない。


「もうこれしかないっ!!」


みるみる武器と体がくっついていく勇者は、最後の意思を奮い立たせて自分の腕を斬り落とした。

声にならない悲鳴をあげて、地面にもんどり打って倒れた。


「もう悪魔武器なんて使わないぞ……」


斬り落とされた腕と悪魔武器は動かなくなった。

片腕を失った勇者はこれを戒めにしようと固く誓い、もう誰もいなくなった村を去った。



勇者は新しい村にやってくると、見慣れない店を見つけた。

店にはおどろおどろしい品々が飾られている。


「いらっしゃい。悪魔防具レンタル屋へようこそ。

 おや、お客さん片腕がないようですね。ぜひこの悪魔防具をつけてください。

 その傷だってあっという間に直せちゃいますよ」


勧められた勇者はまんざらでもない顔で答えた。


「じゃあ、ちょっとだけ……」


その後しばらくして、悪魔防具に乗っ取られた勇者により村は壊滅することとなる。

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