第2話

「まず第1のお題はこれです」


 アズミがサラサラとホワイトボードに書いて行く。


『なぜホヘット嬢は男性にばかりすり寄るのか?』


「おい! アズミ! ホヘットに対して失礼だぞ!」


 途端にハインツが激昂する。


「まぁまぁ、殿下。落ち着いて下さいな。リラックスして楽に楽に。お茶でも飲んで」


「これが落ち着いていられるか! 大体お前はいつもホヘットに対して」

 

「殿下~ 冷静になりましょう~ まだホヘットさんは何も言ってないですよ~」


 ハインツの言葉に被せて、アズミは敢えてのんびりした口調でそう言った。


「わ、私はそんなつもりはなくて...ま、まだ貴族のマナーに慣れていない私を、み、皆さんが優しく教えて下さっているだけなんです...」


 ホヘットがたどたどしく答える。


「ふうん、そうなんですか。ホヘットさんが貴族になったのって一年前でしたっけ?」


「は、はい、そうです...」


 するとアズミはハインツに向き直って、


「ねぇ殿下。もし私が一年経っても王子妃教育が全く進んでいなかったとしたらどう思います? 冷静に客観的に見て」


「それは...」


 言い淀むハインツに向かってアズミは小声で頻りに「冷静に客観的に」と繰り返している。


「...サボッているとしか考えられないな...」


「そ、そんな! 酷いです! ハインツ様!」


「ホヘットさ~ん、今はあなたには聞いてませんから~ お口にチャックしていて下さいね~ マインツ様はどう思われます? 一年経っても何も覚えない仕事も出来ない官僚って? 冷静に客観的に見て」


「それは...怠慢だとしか言えませんね...」


「マインツ様まで酷い!」


「ホヘットさ~ん、お口にチャック~ ヤインツ様はどう思われます? 一年経っても剣も振れない馬にも乗れない騎士って? 冷静に客観的に見て」 


「それは...言語道断だな...」


「ヤインツ様まで!」


「ホヘットさ~ん、以下同文~ ラインツ様はどう思われます? 一年経っても魔法の一つも覚えられない魔道士って? 冷静に客観的に見て」


「それは...最悪ですね...」


「ラインツ様~!」


「ホヘットさ~ん、以下略~ ワインツ様はどう思われます? 一年経ってもお祈り一つ出来ない修道士って? 冷静に客観的に見て」 


「それは...最低ですね...」


「みんな酷いわぁ!」


 ついにホヘットは絶叫した。


「ホヘットさ~ん、これで分かりましたか~? あなたの『貴族のマナーに慣れていない』は一年経った今では免罪符にはならないんですよ~?」


 ホヘットは唇を噛んで悔しがった。

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