その前に前提となる知識を説明します

 さて、ここまで辛抱強く読んでいただけたのであれば相応の忍耐力をお持ちなのでしょう。なにせLinuxだとか仮想マシンとか専門的な用語を並べているのに読み進めているのだから。あるいは、必要十分な前提知識をお持ちなのかもしれません。知識があるのはよいことですね。


 ただし、このあとのCrostini方式を構築する方法については、今まで以上に専門知識のオンパレードとなるため、いったん知識の整理をしなければなりません。読んでくださる皆さんの知識レベルをある程度の水準まで高めるためには必要な手順です。


・コマンド


 Crostiniとして動作するLinuxを操作するにあたって、WindowsやMac、Chrome OSのように画面で操作できません。基本的にはコマンドというもので操作を行います。これは『Linuxが理解できる英語の方言』です。たとえば、


「sudo apt update && sudo apt upgrade -y」


というコマンドがあります。これは複数のコマンドを組み合わせたものですが、


「一番強い権限で動いてほしいのだけど。インストールできるソフトの一覧を最新化してね。最新化が問題なくできたら、古くなっているアプリケーションを新しくしてね。新しくできる場合、私に確認しないで進めちゃっていいよ」


という意味になります。コンピューターとテキストチャットをするようなイメージですね。


・バージョン管理システム


 今回のクラウドストレージとして採用するものです。厳密には(厳密に言わなくても)クラウドストレージではないのですが、似たようなことが実現できます。ただし、Google Driveのように完全自動で同期するわけではなく、必要に応じてコマンドを実行して同期をします。


 本来はプログラムを作成する際に利用するシステムです。プログラムの変更履歴をすべて管理します。場合によっては任意のタイミングに資産を戻したり、別の人が変更した内容を取り込むことができます。当然、変更履歴を管理する以上、プログラムはバージョン管理システムのもと保存されるので、この点を今回は利用します。


・Git


 バージョン管理システムとして採用する仕組み、そして操作するためのコマンドです。管理対象の資産のまとまりをリポジトリと呼びます。


「git ****」


とコマンドを実行することで「Gitとして**してね」という意味になります。


 Gitについてはそれ自体で一つの本が作れてしまうようなものなので、ここではとりあえず『クラウドと同期するためのコマンド』程度に捉えておきましょう。


 とはいえ、基本的な操作の流れは概念としてでも理解する必要があるでしょう。


 クラウドにGitのリポジトリ(これをリモートリポジトリと呼びます)を用意して資産の同期を行います。ただし、Gitは同期するためにはローカルにバージョン管理する資産を持っていなければなりません。これをローカルリポジトリと呼びます。


 利用者はローカルリポジトリに対して資産の変更を行って変更の確定(コミット)を行います。そのうえで、ローカルリポジトリに行こなった変更をリポートリポジトリに反映(プッシュ)するという手順を踏みます。


 また、別の端末から資産をプッシュされている場合、ローカルリポジトリにその変更を取り込む操作が必要(プル)です。


・PWA


 Progressive Web Application、意訳すれば『次世代型ウェブアプリケーション』。ブラウザ上でしか操作できないウェブサービスをさも端末にインストールされたアプリケーションのように動作させる仕組みです。Chrome OSではChromeブラウザ以外にいくつかのアプリが標準的にインストールされているのですが、その実多くはPWAです。


 たとえばYouTubeもインストールされているのですが、実際には端末にインストールされているわけではなく、ウェブサイトのYouTubeをPWAとして利用しているのです。


 今回のCrostini方式では、Linux上にPWAとして動作可能なアプリをインストールして利用します。


 ―――


 あら、もしかして頭が痛くなってしまっていますか? そうであれば、いったん読み進めるのをやめて、購入したいChromebookを探してみましょう。あるいは作品の執筆に戻ってもよいかもしれません。なにせ、次の項目はCrostini上での環境構築について説明しますから。

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