私はコレでポメラやめました

 ところで、衣谷は一時期ポメラを使用していました。


 ポメラといえば、文章を書くことにのみ特化したツールとしてキングジム社より発売された製品です。極めて尖ったコンセプトのこの製品、買わない理由がありませんでした。


 しかし、すぐに使用をやめてしまったのです。それはなぜかと言うと、『容易に同期ができない』点にありました。同期といっているのは、クラウドストレージとの同期です。


 クラウドストレージといえば前述のGoogle DriveやMicrosoft OneDrive――衣谷が使い始めた当時はSkyDriveと呼ばれていました――といったサービスです。各社が管理する領域にファイルを保存してバックアップ・複数端末間の同期を行えるものです。


 衣谷は複数の端末を使用して執筆をしていました。あるときは自室のデスクトップ端末で、あるときは出先で、といった感じで。そうなると複数の端末の間で文章を同期することができるクラウドストレージはなくてはならないものになるわけです。


 しかしポメラ、よくも悪くも尖っています。インターネットに繋がる機能がないため、当然同期することができません。できるのはポメラ内のストレージに文章を保存することのみ。となれば、それを自室の端末で上書き保存しなければ同期できないのです。いや、これはもはや同期と言えるのでしょうか?


 衣谷は面倒くさがりであることを自負しています。自身でやらなくても勝手に同期してくれる仕組みがあるのにそれが利用できず、自身の操作を行わなければならないのはやっぱりだめでした。このデメリットを上回るメリットがポメラに見いだせなかったのです。


 話は戻って。


 そのような背景から、文章を書くための端末には以下の条件が必要と考えていました。


『バックアップができること』


『インターネット接続ができること』


『複数端末で同期をとることが可能であること』


『なるべくロックインが発生しないこと』


 クラウドストレージは複数端末の同期もさることながら、バックアップとしても利用できることが必要です。なぜなら、端末というものは常に壊れるリスクがあるからです。今使用している端末が壊れた時文章を救い出すことができなくなったら悲惨です。


 また、聞き慣れない言葉として『ロックイン』という語を使いました。これはICT用語になるのですが、『特定の製品・サービスがなければならない状況』を指します。たとえば、Macの端末でしか動かないソフト、Windowsの端末でしか動かないソフト、というのがあります。こういったソフトウェアを使用している場合、別の端末でも同じことをしようとすると同じオペレーティング・システム、ソフトウェアを使わなければならない状況が発生してしまいます。


 ですが、未来にそのオペレーティング・システムやソフトウェアが使用できるとは限りません。最悪の場合利用できるソフトウェアがなくなって文章を見ることすらできなくなってしまう可能性があります。WindowsやMacがなくなってしまう未来だって否定できません。


 そのため、標準的で代替が効くような方法で執筆環境を実現すべきと考えています。


 上記の四つの要件をポメラに当てはめると、『ロックインしない』要件を満たすことができます(ポメラは文章データをプレーンテキストというシンプルなデータとして保存するので、別の端末でも参照・編集可能です)。しかし他の要件を満たすことができません。そのため、そもそも衣谷がポメラに満足できるわけがないのです。


 一方、Chromebookは、というと。


 Google Driveなどのサービスを利用すれば『バックアップができること』『インターネット接続ができること』『複数端末で同期をとることが可能であること』という要件をみたすことができます。また、後ほど説明しますが、Crostiniクロスティーニという機能を利用するとGoogle Drive以外のサービスを使用してこの三要件を満たすことができます。


 ただし、『ロックインしない』というのはそのままでは十分ではありません。ChromebookもといChrome OSのコンセプトはその実のところ、グーグル社が展開する各ウェブサービスに対してロックインしようとするものだからです。Google Drive、Googleドキュメント、Googleスプレッドシートなどなど。グーグル社も営利企業ですから。


 この点についてはどこまで妥協するか、という点に尽きます。すでにGoogle Driveを利用している方やグーグル社のエコシステムに切り替えるのに躊躇がない方であればロックインは許容することになるでしょう。しかし、すでに築き上げた環境を変えたくない、グーグル社が信用ならない(!)といった場合は別の方法を検討すべきでしょう。こちらもCrostiniクロスティーニという機能を利用すればより一層ロックインを緩和できます。


 ちなみに、ウェブサービスを利用してゆく以上、程度はともあれロックインは避けられません。特定のサービスを使う以上、そのサービスに依存することになるからです。要件として『なるべく』とつけているのはそのためです。ロックインするにしても、代替となりうるサービスがあるものを選ぶようにすれば十分でしょう。

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