君がいなくたって生きないといけない

赤猫

突然のお別れ

 人が死ぬのは当たり前なのに当たり前には感じません。

 私だってきっとまだ死なない、おばあちゃんになるまでずっと大切な人の隣で生きるって思っていました。


 今日大好きな彼がいなくなりました。

 それは突然の出来事で、交通事故だそうです。

 飛び出した子供を庇って車に跳ねられたそうで、幸い子供は擦り傷だけで済んだそうで、きっと天国の彼も安心したでしょう。

 でも現実味が無くていつもニュースで見てるのと同じ様な感覚です。


 眠って明日起きると彼が起きて「おはよう」って笑ってケロッと現れてくれると思ってしまいます。

 でも目の前にいる彼はもう動きません。

 彼の手を握りながら、彼の両親は泣いています。

 私も悲しいはずなのに、涙が出てきません。

 彼が亡くなる何時間も前に私は彼と出かけていて、笑っていた彼の姿が目に浮かぶのです。


「次出かける時に伝えたいことがあるんだけど」

「今伝えても良いのに」

「今伝えてもいいけどムードがなぁ·····」

「ごめんなんて言った?、聞こえなかったんだけど·····」


 私がそう言うと彼は慌てて「なんでもない!」と返します。


「またね」

「うん·····って私たち一緒に住んでるから帰る場所同じでしょ」

「あっ、そうだった!·····なかなか昔の癖って抜けないな·····」

「頑張って慣れてよ」

「だって夏奈いつまで経っても俺の告白断るし、今も俺、本当に夏奈が俺の彼女になったんだって実感わかないよ」


 学生の時私は彼の告白を断っていたのです。

 何回も何回も断れば離れると思ってたのに離れなくて、私もどんどん彼の事が好きになって一緒にいたいと思ったのです。


「私だって陽介くんとこうやって一緒にいるの実感わかないよ」

「陽介って呼んでくれないんだ」

「何処かの誰かさんが、実感ないって言うからちょっとした仕返し」

「なんだとー!」


 そう言って彼は私の手を握ってくれます。

 私はその暖かさに甘えて握り返します。


 私は彼の手を握りました。

(……冷たい)

 さっきまであんなに暖かくて大きかった手は冷たい。

 握っても少し照れて握り返してはくれない。

 私は彼の顔に掛けられた布を取りました。

 彼の顔は安らかに静かに寝息もたてず眠っています。

 そんな彼の顔を見たくないと思いそっと彼の顔に布を掛け直しました。


 彼の両親が出ていってから一人ぼっちでぼうっと考えていました。

 もう彼は戻ってこない。

 彼の元気な笑顔を見ることは出来ない。

 彼の温もりを感じることは出来ない。

 私の名前を愛しそうに呼んでくれる人はいない。

 彼とずっと一緒に隣で笑っていることも叶わない。

 ━━━━━━━━━私の当たり前はもう帰って来ない。


 外は1年生を部活に勧誘する声が聞こえます。

 3年生になると前にでて率先してこういうことをやらなければならないのかと思うと自分が部活に所属しなくてよかったと思います。

 夕方放課後の教室に私は呼び出されてなんだろうと思い行ってみることにしました。

 行ってみると私を呼び出した男の子が机に座っていました。

 そして私を見ると勢いよく立ち上がります。

 そして緊張しているのか震えた声で


「俺と付き合ってください!」


 そう言って私に向かって頭を思いっきり下げて手を差し出します。

 どうせ罰ゲームか何かでしょう。

 こんなダサメガネと呼ばれている私に告白なんてありえないことなんです。

 なら言う言葉は一つに決まっています。


「お断りします」


 私がそう言うと彼は思いっきり顔を上げて落胆の表情を見せました。


「だめ?」

「だめです」


 私はキッパリと言い切りました。

 それで彼は益々肩を落とします。


「……なんでそんなにガッカリする必要があるんですか?どうせ罰ゲームか何かの類でしょう?」


 私がそう言うとキョトンとした顔をします。


「俺は罰ゲームで君に告白てないよ?……ちょっと恥ずかしいけどさ一目惚れなんだ」


 照れくさそうに笑いながら彼は言いました。


「……なんで私なんですかよりによってこんな奴よりいい人なんて沢山いるでしょうこんなにひねくれてて愛想もないしそれに……」


 それにで口を手で塞がれます。

 彼の表情は少し怒ってるように感じました。


「なんでそんな事言っちゃうかな、俺は君が好きだから君の隣にいたいから告白した」

「…………」


 黙るしかないです。

 真剣な目でそう言われてしまうと何も言えません。

 さっきの照れてた人とは別人に見えてしまいました。

 私は彼を怒らせた原因が分からない。

 私はペチペチと彼の手を叩きました。


「あ、ごめんね苦しかった?」


 慌ててパッと手を離します。

 圧迫感がなくなり私は一呼吸しました。


「なんで今ので貴方が怒ってしまったのか私には分かりませんが……でも怒らせてしまった原因は私にあります……ので謝ります。ごめんなさい」

「いや俺がただ怒っちゃっただけだし、藤白さんは何も悪くないから!」


 またアワアワしています。

 少しだけ可愛く感じクスッと笑いました。


「あ、笑った!今笑ってくれた!」


 彼はプレゼントを貰った子供のようにはしゃぎます。

 私は気づきすぐに緩んでしまった頬を引き締めます。


「なんですぐに表情戻すの?」


 残念そうに言います。


「私は笑ってません気の所為です。ずっとこの表情でした」

「今ちょっと笑って「ません!」


 しばらくの間笑っていたいなかったの言い合いをしていると下校時刻の放送が流れた。


「……なんでそう頑なに認めないの?藤白さんの頑固者」

「笑ってないって言ってるじゃないですか、頑固なのは貴方の方です」

「·····絶対にこの会話平行線だよ、今日はこのくらいにして帰ろっか」

「それには賛成です」


 そう言ってお互い鞄を持って教室を出ました。

 外に出ればもう別れるはずないのに彼は着いてきます。


「……なんで着いてくるんですか」

「俺の家がここ方向だから?」

「なんで自転車引いて帰ってるんですか」

「君と一緒に帰りたいからって言うのと女の子がこんな遅い時間に一人で出歩くのは危ないと思って」


 これ以上言ったって意味が無いような気がして私は言うのを辞めました。


 お互い何も言わず無言で薄暗い道を歩いています。

 気がつくと私の家に着きました。


「私の家はここなので失礼します……えっと」

 お礼を言いたいのですが、名前が分かりません。

「あ、そう言えば連絡先交換してなかった!はいこれ俺のLINEのIDね」


 サラサラとメモ帳に書きそれを破って私に渡しました。


「じゃ、俺帰るからまた明日!」


 そう言って自転車に乗り言ってしまいました。


 家に入るとお風呂に入り母が用意してくれたご飯を食 べ部屋に行きました。

 机に置いてあったメモとスマホを持ちベットに腰を降ろしました。

 全然使わないLINEを開けてIDを入力すると、【ようすけ】と言う人アカウントが出てきました。

 そして友達に追加すると押すと1分もせずにメッセージが来ました。

 よろしくと書いてある可愛いうさぎさんのスタンプです。

 私はメッセージでよろしくお願いしますと送りスマホを閉じました。


(今日は疲れた……)


 告白されてすぐに断って終わらせるつもりだったのに話していて、いつも会話をしない私は慣れておらず疲れてしまいました。


(また明日って言われたの初めてかも……)


 いつも皆また明日なんて言ってはくれませんでした。

 お別れして次の日学校で会っても他人、そんな日常の繰り返し過ごしてきたから余計に心に残っているのかもしれません。

 なんだか少しだけ胸の当たりがポカポカすると思いました。

 明日という新鮮な響きを噛み締めながら私は瞼を閉じました。







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